日別アーカイブ: 2012年10月23日

1年目のクロオオアリ・ムネアカオオアリのコロニーの大きさ

本年6月14日に駒ケ根市で採集したクロオオアリとムネアカオオアリの女王アリとその家族の成長について、10月23日時点でデータ化しました。

データ化の対象としたのは、簡易小型飼育器「アンテキューブ」で飼育している家族です。

簡易小型飼育器「アンテキューブ」

他にも同じ日に採集した女王アリとその家族はいるのですが、コンクリート製の人工巣等で飼育していて、幼虫の数などを数えることが困難なため、除外しました。

今回は幼虫の数を数える必要がありましたので、できるだけ正確に数えられるように実体顕微鏡も使いました。ただ、幼虫は塊になっているため、重なっている部分を数えるのは難しく、おおよその数になることが多々ありました。成虫の数については正確に数えられています。

サンプル数は、クロオオアリが27家族、ムネアカオオアリが15家族です。それぞれ、成虫、繭、幼虫、卵の数を数えました。結果は次のようでした。(いずれも個体数の平均値)

クロオオアリ
成虫: 13.5匹 幼虫:2.3匹 繭・卵なし
ムネアカオオアリ
成虫: 12.7匹 幼虫:14.1匹 繭・卵なし

この調査から、この時期になると繭も卵もないことが分かります。また、成虫の数はクロオオアリもムネアカオオアリも13匹前後で有意差は認められません。注目すべきは幼虫の数で、これは明らかに違いが認められます。クロオオアリの場合、0匹だったのが3分の1の9家族あり、一番多くて12匹でした。これに対してムネアカオオアリの方は、幼虫がいない家族はなく、3分の1の5家族が20匹前後でした。

ところで、ほぼ2ヶ月前の8月27日にも成虫の数を調べています。上記と同じ家族に限定してその平均を出すと、クロオオアリでは10.4匹、ムネアカオオアリでは11.3匹になります。これは、この2ヶ月間でクロオオアリは3.1匹増え、ムネアカオオアリでは1.4匹増えたことになります。8月27日といえば、女王アリが巣作りを始めて初回に産卵した卵がほぼ全て働きアリになったころで、それからの2ヵ月間は働きアリの数はさほど増えていないことになります。ちなみに、この2ヶ月間はクロオオアリの方が増え方が多いように思えますが、もともとムネアカオオアリの方が早くから成虫になり始めたので、そのことがこの差になったのでしょう。成虫になってから死亡したアリもいましたが、それを考慮しても、この2ヶ月間の成虫の増え方から考えて、今いる成虫は、女王アリが初回に生んだ子どもだと考えるのが妥当なようです。

駒ケ根のアリ

10月20日の午後には駒ケ根市に着き、6月にクロオオアリとムネアカオオアリの女王アリを採集したレジャー施設へ向かいました。ここは、標高が860m前後のところです。乗鞍高原の一の瀬園地辺りが1440m前後ですから、標高差は580m程で、これを気温差に直すと3〜4℃になります。

この駒ケ根では、標高が少し高いのですが、クロオオアリやムネアカオオアリは、まだ地上に出てきて、活動しているのでしょうか。まず、一番の関心はそのことでした。レジャー施設の駐車場の以前クロオオアリの巣があったところを訪れると、巣穴らしいものが見当たりません。ですが、クロオオアリの姿はありました。

わずかにクロオオアリがいました

ここ駒ケ根では、この時期にもクロオオアリが地上で活動していることが分かりました。この駐車場から少し離れたところの、6月にクロオオアリの結婚飛行を観察した場所に行ってみると、そこではクロオオアリの姿はなく、巣穴の形跡も完全になくなっていました。

6月にはこのコンクリートの隙間からたくさんの羽蟻が飛び立ったのですが

6月14日の様子

ムネアカオオアリの巣がある場所も見てみました。6月にはたくさんのムネアカオオアリが巣の出入り口にいたのですが、今はただ穴があるだけでした。ムネアカオオアリは、クロオオアリも早く、地上へは出なくなっているのでしょうか。

6月の様子

今の様子

この日の観察はここまでにしました。

やがて日没を過ぎると、遠く千畳敷カールのホテル千畳敷にも灯が灯りました。

ホテル千畳敷の灯が肉眼でも見えます この写真は1000mm望遠レンズで撮影したもの

夜空を見上げると、三日月を過ぎた月がきれいに輝いていました。

月がきれいに見えました

21日の朝もとても良く晴れていました。前日の夕刻に見た千畳敷カールも朝日を浴び、赤く輝き始めました。

早朝の千畳敷カール 良く晴れています

この日はまず、菅の台周辺を探索しました。6月に羽蟻が大量にいたムネアカオオアリの巣のある樹を見ましたが、ムネアカオオアリで賑やかだったその面影はありませんでした。

ムネアカオオアリは1匹もいません

実は、ここには9月23日にも訪れているのですが、その時にもムネアカオオアリはいませんでした。

9月23日の様子 辺りにムネアカオオアリの気配はありませんでした

クロオオアリの巣があった場所にも行きましたが、地面に巣穴がないように見えました。

穴を掘った際に出てきた土はありましたが、巣穴が見当たりません

6月の様子 巣穴が見えます

ですが、クロオオアリの姿は、見ることができました。

ちゃんと活動していました

クロオオアリの後を追って行くと、巣穴にたどり着きました。ただ、非常に発見しにくい感じでしたので、クロオオアリの跡をつけなければ見つからなかったことでしょう。

巣穴のある場所はとても分かりにくい

夏と比べると、とても小さな穴です

近くの樹の幹にもクロオオアリがいました。

木のたんこぶのようなところを舐めていました

何か甘いものでも付いていたのでしょうか

この辺りは朝から陽が当たっていて、暖かくなってきました。

反対に日陰になっている側の土手も歩いてみました。こちらにはクロオオアリの姿がありません。やはりまだ少しひんやりとしています。そんな中、岩の上をゆっくり歩いていくアシナガアリのようなアリを数匹見つけました。

アシナガアリのようなアリ

林の中にもはいりました。そこには、クロクサアリの巣があります。

クロクサアリが暮らしている朽ち木

クロクサアリの姿がありました

巣からの行列を伝っていくと、近くの木にたどり着きました。何か蜜のようなものがこの樹上にはあるのでしょう、下りてくるクロクサアリの腹部は膨れていました。

下りてくるクロクサアリの腹部はパンパンに膨れています

そろそろ、昨日出かけたレジャー施設へ行こうと思っていると、木道の上に、何か大きなアリがいました。ムネアカオオアリの女王アリではありませんか。午前10時40分ごろのことです。

木道を歩いていたムネアカオオアリの女王アリ

こんな季節にムネアカオオアリの女王アリがいようとは……。全くの季節外れのこの者は、いったいどこからやってきたのでしょう。辺りを丹念に探してみましたが、他の女王アリはいませんでしたし、雄アリもいませんでした。それに、朝からずっと探索しているこの菅の台で、まだムネアカオオアリの働きアリさえも見かけていないのです。ともかく、女王アリを採集して持ち帰ることにしました。

午後からはレジャー施設へ行きました。ずっと気になっていたのは、ムネアカオオアリの姿を見ていないことでした。ところが、午後1時半ごろになって、初めてムネアカオオアリを見つけました。

やっと見つけたムネアカオオアリ

ムネアカオオアリもこの季節、野外で活動していたのです。ただ、やはり、クロオオアリと較べれば、野外での活動は少ないことが分かります。果たしてムネアカオオアリは、いつごろまで野外で活動するのでしょうか。

しばらく山道を歩いていると、大きめの黒っぽいアリを見つけました。何かの女王アリです。

この女王アリの種名は?

他に目をやると、アシナガアリのようなアリがあちこちにいました。女王アリも、アシナガアリのようなアリも採集して、更に近辺を見てみると、すぐ横に巣がありました。

コンクリートと地面の隙間に巣がありました

今しがた採集したアリと同じアリです。ここに巣があったので、アリがたくさんいたのでしょう。してみると、この女王アリは、この巣から出てきたのかも知れません。確かに色や姿が良く似ています。

以後は帰宅してからの話になりますが、この時採集したアリを実体顕微鏡で見てみると、

とても肢が長く

体長が5mmぐらいあったり

大きいのでは6〜7mmあったりします

このアリの側面を拡大すると、

側面を拡大すると

このようになります。前胸背と中胸背の堺が盛り上がっていますが、この特徴はアシナガアリに酷似しているヤマトアシナガアリの特徴です。ただ、頭部を背面から見ると頭部後縁の丸みはアシナガアリに似ており、また、体長の上限がアシナガアリ(体長3.5〜7.5mm ヤマトアシナガアリは3.5〜5mm)に該当します。以上のことから、アシナガアリのようには思うのですが、同定するのは保留にしておきます。