月別アーカイブ: 2012年11月

アリ飼育便利グッズ

アリの取り扱いには、アリ固有の工夫がいくつか必要になってきます。アリには翅がありませんので、飛んで逃げるということはありませんが、小さいうえに、とても速く歩き回りますから、それなりの工夫が必要です。以下では、餌などの世話をする際にアリを脱走させない工夫や、脱走してしまった際にアリを捕らえる工夫について、私がしていることを少し紹介しましょう。

蓋をして撮影しています

まずは、アリが飼育器から脱走しないようにする工夫です。上の写真はそのために作ったものです。この写真では蓋もしていますが、使う時は蓋は外します。真ん中には台があり、台の下と周りには水が入ります。使った後は、水はそのまま捨てないので、塵が入らないように蓋をしておきます。使う時には、この真ん中の台の上に飼育器を載せます。この台は、簡易小型飼育器アンテキューブの底面とほぼ同じ広さです。

では、アンテキューブを載せて、アンテキューブの蓋を開けてみましょう。

蓋から外に出てきても、水を張った堀は渡れません

写真では、蓋の裏と台のところにそれぞれ1匹ずつ働きアリが出ていますが、水を張った堀は渡れませんので安心です。この間に、パイプを輪切りにして作った餌器の交換などをします。一旦、飼育器の外に出たアリも、そのうちに飼育器の中へ戻る者もいますが、多くはなかなか戻りません。勿論新たに飼育器から出てくる者もいるわけで、出ている働きアリがたまたま全部戻るのを待っているわけにはいきません。そこで、とにかく飼育器の蓋を閉めて、

フィルムケースを被せてアリを捕らえます

アリが飼育器の上にやってきた時にフィルムケースを逆さにして被せて捕らえます。そして、

穴から飼育器の中に入っていきます

蓋についているシリコン栓を外して、フィルムケースをずらして、栓をしていた穴まで移動します。しばらくすると、アリはその穴から飼育器の中に入っていきます。ほとんどの場合、自然に穴から飼育器の中に入っていきますから、その後で、フィルムケースを取って穴にシリコン栓をして終わります。

しかし、その穴から、逆にフィルムケースの中へ入ってくるアリもいます。

フィルムケースの中のアリが、かえって増えてしまうこともあります

こんな時は、別の手を使います。一匹ずつ、又はまとめて確実に飼育器の中に入れる方法です。

外径10mmアクリルパイプと外径13mmのホースを組み合わせた捕獲器

上の写真は、外径10mm長さ30mmのアクリルパイプと外径13mmの透明ホースを繋ぎ合わせたものです。通常アクリルパイプ側にはシリコン栓をして使います。アリは、クロオオアリとムネアカオオアリとトゲアリで試していますが、ホースの中へは比較的素直に入っていきます。ホースの内径は9mmあり、アリに上から被せるようにして使うこともできますが、アリの進行方向やアリの頭部の前に持っていくと、すんなり入っていくことが多いのです。ちなみに、アクリルパイプの穴へは、入っていくことはほとんどありません。

こうして捕らえたアリをアクリルパイプ側へと導きます。そのために、ホースをつまんでホース側へ行けないようにすることもできます。これは柔らかいホース故にできることです。

ホースを摘んでアクリルパイプ側に追いやることもできます

この簡易な捕獲器を仮に連結捕獲器と名付けると、この連結捕獲器をアクリルパイプ側を下にして、アンテキューブの蓋の穴につなげてみましょう。

上から丸棒で押しやります

この時、連結捕獲器の中へ上から丸棒を入れます。丸棒は径が6mmあり、アクリルパイプの内径は7mmですから、隙間は1 mmなので、アリを隙間で挟むことなく、アンテキューブの穴へと押しやることができます。上の写真は、今、正にアリが穴から中へ入ろうとしているところです。

これは、アリを一匹ずつ入れる方法ですが、この方法を少し応用すると、まとめてアンテキューブの中にアリを入れることもできます。

さらにアクリルパイプとつなげると

上の写真のように、連結捕獲器のホース側にさらに長目のアクリルパイプをつなげると、長目のアクリルパイプの中に、複数のアリを留めることができます。この際にも、ホースの部分を指で摘んで、アリを長目のアクリルパイプへと導くことができます。下の写真は、そうして長目のアクリルパイプに導いたアリたちです。

長目のアクリルパイプなら、複数匹のアリを入れることができます

そうしておいて、

やはり上から丸棒で押しやります

アンテキューブの穴の上に長目のアクリルパイプを置いて、丸棒で下へと押しやります。こうすれば、複数匹を1度に飼育器の中に入れることができます。

さて、ここで紹介している台つき水張り逃亡防止器は、コンクリート製の人工巣にも使えます。台の大きさが人工巣の底にも合っています。

逃亡防止器にコンクリート製の人工巣を載せたところ

人工巣の蓋を取ってアリの世話を済ませた後、だいたいのアリがコップケースの中に入ったところで人工巣に蓋をかぶせます。そして、まだ外に出ているアリが下から上がってきて、蓋の近くまで来そうになったら、蓋を横へずらしてコップの中にはいれる隙間を作ります。すると、大多数のアリは、コップの内側へ入っていきます。その後で、また素早く蓋を横へずらして閉めてしまいます。これを外に出ているアリの数だけ繰り返せば、やがて全部のアリをコップの中に戻すことができます。

アリは小さな昆虫です。他の多くの昆虫は直接素手で掴んでも大丈夫ですが、アリの場合は、そうはいきません。捕獲の道具を作ることも含めて、いろんな捕獲の方法を工夫してみるのも楽しいものです。

捕獲セット一覧

トゲアリ研究への新たなアプローチ(2)

10月31日、三度トゲアリの巣がある場所を訪れました。

C巣がある木の幹を見ると、何やら白っぽいものを働きアリが運んでいます。木にいた青虫を捕ってきたのかなとも思いましたが、何だかトゲアリの幼虫のように見えました。

白いものを運んでいました

しばらくすると、また何かを運んでいるトゲアリを見ました。このトゲアリも幹の上から下へと運んでいます。やはり、トゲアリ自身の幼虫のように見えました。

トゲアリの幼虫ではないだろうか

そして、またしばらくして、幼虫らしいものを運んでいるトゲアリを見ました。

いずれも、くわえていた荷物と一緒にトゲアリを捕らえて、帰宅してからじっくり見てみました。

大きめの幼虫と小さい幼虫が見えます

こちらは小さな幼虫のかたまりです

いずれも、トゲアリ自身の幼虫のようです。これらの幼虫は、木の上方にある樹洞から運ばれてきたように思うのですが、おそらく木の根元の巣まで運ぶ途中だったのでしょう。今回は、そのルートを調べないで、採集をしたわけですが、次回同様の場面があれば、その時はどこからどこへ運んでいるのか確かめることにしました。

さて、この日は、3つの巣から働きアリをそれぞれ10匹とプラスアルファ匹捕らえるのが目的でした。それぞれの10匹は、アンテキューブで飼育し、プラスアルファ分は、違う巣の働きアリ同士を引き合わせて、喧嘩になるかどうかを調べるために使います。

まずは、しきりの壁の穴を4mmに拡張したアンテキューブに10匹ずつ入れました。

右からA巣、B巣、C巣の働きアリ それぞれ10匹ずつ

それから、違う家族の働きアリ同士を一緒にして喧嘩をするかどうかの実験です。ただし、A巣は、前日に比べて幹を歩く働きアリが少なく、10匹採集するのがやっとでしたので、この実験はできませんでした。

前日に採集したB巣の7匹の働きアリがいるアンテキューブの中へ、C巣の働きアリを1匹入れてみました。すると、予想に反して、喧嘩は起きず、すーとB巣のトゲアリの中へ違和感なく入りこんでしまいました。
次に、同じB巣の働きアリを1匹入れてみました。これは、予想通り、すんなり仲間の中へ入って行きました。
次は、再びC巣の働きアリを1匹入れました。すると今度は、すぐさま咬みあいました。どちらの方が咬みついたのか分からなかったのですが、片方の大腮を 長時間咬みついていました。

大腮に長い間咬みついていました

まわりのB巣の働きアリの様子はというと、無関心で、加勢しようとしていませんでした。
この後に、C巣の働きアリを3匹入れたのですが、 いずれも何も起こらず、すんなりと入りこんでいきました。
B巣の残りの6匹もこのアンテキューブの中にいれ、全部で19匹になりました。

B巣のトゲアリ14匹とC巣のトゲアリ5匹が入っています 喧嘩になったのは1匹だけです

この実験の結果は、予想を覆すものでした。26日にA巣の働きアリとB巣の働きアリを1匹ずつフィルムケースに入れた時にも(3例ともに)喧嘩が起こりませんでした。家族の違いで排斥し合うのがアリの世界では必然だと思っていたのですが、トゲアリでは事情が違うのかも知れません。今後、更に研究してみる必要がありそうです。

ちなみに、先程の喧嘩になったアリ同士ですが、3時間ほど経ってみた時には、喧嘩は終わっていて、どの働きアリも和んでいました。仲好し19人?組といった感じです。

トゲアリ研究への新たなアプローチ(1)

さて、先日、トゲアリの巣を仮称「野田山」で見つけたことを書きましたが、それから私の関心は広がる一方でした。

26日にトゲアリを発見した時に、トゲアリの働きアリを何匹かフィルムケースに入れて持ち帰っていましたが、そのフィルムケースの中で、4日間も元気に生き続けていました。その間、蓋さえも開けないでいたにも関わらず、トゲアリが生きていたことに少し驚きましたが、このことは、トゲアリの女王アリが不思議と生命力があったことを思い起こさせました。「トゲアリは飼いやすいのでは」そんなことを思うようになり、働きアリだけでも飼って、トゲアリの生態を知っておこうと思うようになったのです。

それから4日後の30日に、また野田山のトゲアリの巣があった場所へ行きました。26日には、2箇所で巣があることを確認していましたが、この日、もう一つ巣があったことに気付きました。前回、一番上手の木にもトゲアリがいることを見つけていますが、この日は、前回よりもたくさんのトゲアリが幹を歩いているのを見ました。そして、幹の上方に前回は気に留めなかった小さめの樹洞があり、そこにもトゲアリがいたのです。その状況から、この木にも、別のトゲアリの巣があることが分かりました。

小さめの樹洞 前回来た時には気に留めなかった 撮影は翌日の31日

これで、わずか数十メートルの間に、しかも林道の脇に、観察には絶好の3箇所の場所を見つけたことになります。この日、更に林道沿いにその近くを探しましたが、それは無駄に終わりましたが、3箇所トゲアリの観察場所を見つけたことで、来年へ向けて多いに希望が膨らんできました。

ところで、この3箇所を今後の表記の便宜を考えて、林道の上方からA巣、B巣、C巣と呼ぶことにします。

A巣がある木(道の上方)

B巣がある木

よく見るとB巣の幹の上方にも小さいが樹洞があった

C巣がある木(道の下方)

さて、新しい第3の巣を見つけることができましたが、この日は、働きアリを採集するのが主な目的でした。B巣から20匹を採集し、数匹ずつフィルムケースに入れて持ち帰りました。

持ち帰ったトゲアリは、簡易小型飼育器「アンテキューブ」に入れます。それぞれに10匹ずつ入れようと思っていましたが、持ち帰った時点で、3匹が死にかけていました。その内2匹は同じフィルムケースにいたのですが、どうやら、自らが出した蟻酸にやられたようです。フィルムケースの蓋を開けた時に、きつい酸の匂いがしました。もう一匹は、別のケースに入っていて、仲間は生きていて、その1匹だけが死にかけていました。そこで、死にかけている3匹を除いて、17匹を10匹と7匹に分けてアンテキューブに入れました。

トゲアリを入れた2つのアンテキューブ

このアンテキューブは2部屋に分かれていて、仕切っている壁の直径3mmの穴をくぐって行き来できます。トゲアリの働きアリが、この穴をくぐれるか見ていると、すれすれぎりぎりでくぐり抜けていました。この穴の大きさはトゲアリには不向きのようです。トゲアリ用に作り直す必要がありました。

しかし、初めから設計をやり直して新たに作るのは、おっくうでした。そこで、既に組み立てているアンテキューブの3mmの穴を広げることにしました。ただ、組立済みですから、電気ドリルで斜めから4mmの穴を空けることになりました。それを3個用意しました。

さて、A巣とB巣が別の巣であるとすると、困ったことになります。というのは、26日に行なった実験(両方の木にいたトゲアリが喧嘩をするかどうかという実験)の結果が説明できなくなるのです。新たな疑問と新たに実験の必要を感じました。