日別アーカイブ: 2013年3月31日

年を越して再度の子育てに成功するか?

現在、簡易小型飼育器「アンテキューブ」で飼育しているクロオオアリ・ムネアカオオアリの中で、子育てに失敗し働きアリのいない個体が7例あります。

S/N 採集日 採集場所 8月頃までの様子 8/27 9/02 10/23
007 ムネアカオオアリ 2012/07/26 野麦峠 不明  働きアリなし  不明  子全てなし
016 ムネアカオオアリ 2012/07/27 駒ヶ岳しらび平 不明 不明 幼虫10匹
073 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 8月3日には働きアリが2匹いた  卵1 子全てなし
075 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 少なくとも2つの繭があったが、その繭がなくなっていた(8月17日)  繭1 子全てなし
076 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 少なくとも2つの繭があったが、その繭がなくなっていた(7月28日)  なし 子全てなし
080 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 繭までは育てていた  繭2 子全てなし
085 ムネアカオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 産卵はしたが、繭まで育てた形跡なし  卵7 子全てなし

これらの女王アリは、死ぬことなく冬を越したのですが、冬の間、水と餌を与えていました。餌は糖分のみで、次のようにして作ったものです。
小さな容器に砂糖を入れて少量の水を加えます。よくかき混ぜて砂糖を溶かします。そこに蜂蜜とメープルシロップを少量加えてよく混ぜます。コツは、先に水で砂糖を溶かしておくことです。固体の砂糖と蜂蜜やメープルシロップを混ぜたのでは、砂糖はなかなか溶けません。その後で水を加えてもなかなか溶けないのです。
メープルシロップにはたんぱく質はほぼ含まれてなく、ほとんどが炭水化物です。また、蜂蜜も主成分は炭水化物で、たんぱく質はほぼ含まれていません。砂糖(白砂糖)には、たんぱく質は含まれてなく、ほぼ全てが炭水化物です。(下表 五訂 日本食品標準成分表)

 

黒砂糖

白砂糖

ハチミツ

メープルシロップ

エネルギー(kcal)

354

384

294

250

ビタミンB1 (mg)

0.05

0

0.01

ビタミンB2 (mg)

0.07

0

0.01

0.02

ビタミンB6 (mg)

0.72

ビタミンC (mg)

0

3

0

Ca (mg)

240

1

2

75

K (mg)

1100

2

13

230

Fe (mg)

4.7

0.1

0.8

0.4

Cu (mg)

0.24

0.01

0.04

0.01

Mg (mg)

31

1

1

17

Zn (mg)

0.5

0.3

1.5

Na (mg)

27

1

7

1

P (mg)

31

微量

4

1

パントテン酸 (mg)

1.38

0.05

0.13

葉酸 (mg)

10

1

1

ナイアシン (mg)

0.8

0.2

タンパク質(g)

1.7

0

0.2

0.1

炭水化物(g)

89.7

99.2

79.7

66.3

女王アリには、何日かおきにこのシロップと水を飲ませましたから、冬を越すことができたのです。個体の生命を維持するだけならば、タンパク源はいらないようです。
ところで、子育てに失敗した女王アリが再び子育てをすることができるのでしょうか。同じ年内にはそれが不可能であったことは、昨年の観察からわかっていますが、1年後の春を迎えて、再び子育てができるのでしょうか。
S/N016以外は、10月23日時点で、卵も幼虫も蛹もいませんでしたが、この春になって産卵する個体も出てきています。3月21日と3月31日の卵の数を併記しますと、S/N007:8→8個、S/N073:0→7個、S/N075:0→3個、S/N076:0→0個、S/N085:6→14個となります。1個体を除いて産卵を始めました。また、S/N016は、3月31日時点で新たに卵を7個産んでいました。その他に幼虫が1匹育ちつつあり、死んでミイラ状になった幼虫が4匹確認できました。これらは、昨年の10月23日にいた幼虫10匹の中の5匹だと考えられます。

S/N016 ムネアカオオアリだが、全身が黒い

S/N016 ムネアカオオアリだが、全身が黒い

いずれにせよ、1匹だけで冬を越した女王アリが、春を迎えて子育てを始めようとしているのです。この子育ては成功するのでしょうか。今後の観察が待たれます。
なお、蛇足になりますが、例えこの子育てが成功しても、自然界ではあり得ないことです。働きアリのいない女王アリは、自らは餌を得ることはできませんから、次の春を迎えることはできず、死滅するしかないのです。

※S/N016は、全身が黒いのでクロオオアリのようにも見えますが、全体に光沢があり、ムネアカオオアリだと分かります。(クロオオアリにはあまり光沢はありません) 7月27日に駒ヶ岳のしらび平(標高1680m辺り)で採集しました。

アリの人工巣 システム飼育器(永年飼育型)を開発

ベースステーション「アンテキューブⅡ」・拡張ユニット「アンテモジュール」(クロオオアリ・ムネアカオオアリ用)を開発(2013年4月1日提供開始) 交尾後から永年飼育可能

ベースステーション「アンテキューブⅡ」 (側面にもシリコン栓が1つ付属する)

ベースステーション「アンテキューブⅡ」 (側面にもシリコン栓が1つ付属する)

拡張ユニット「アンテモジュール」

拡張ユニット「アンテモジュール」

システム飼育器を開発いたしました。この飼育器は、初代「アンテキューブ」をベースにした「アンテキューブⅡ」と、これにつなぐ拡張ユニット「アンテモジュール」の2製品で構成されます。このシステム飼育器は、交尾直後から使用できるように設計されており、「アンテモジュール」を併用することで、大家族になっても継続して飼育できます。大きさは、初代「アンテキューブ」と同じで、大変コンパクトにできており、縦・横ともに54mm、高さは31mmで、「アンテモジュール」も同じ大きさです。
「アンテキューブⅡ」は、2部屋に分かれており、片方は巣穴、もう片方はえさ場です。
巣穴の部屋の蓋は、紙用の糊で固定します。また、蓋には直径7mmの穴があり、シリコン栓でふさぐようになっています。この部屋は、通常開けないで使いますが、女王アリとその家族を引越させる時などには、紙用の糊で固定していますので簡単に開けることができます。通常、この部屋への出し入れは、シリコン栓の開け閉めで行います。
えさ場の部屋の蓋は、開け閉めができるようにします。上の写真でいうと蓋の左側にセロハンテープを貼ることで、セロハンテープがちょうつがいの役目を果たすようになります。この蓋には、直径7mmと1.5mmの穴があり、7mmの方はシリコン栓を開け閉めします。
えさ場の部屋には、外径が15mmで高さが10mmのアクリルパイプが2つあります。このパイプは厚み3mmの台座に接着されています。ただし、その台座は床面には固定されていません。写真手前のパイプには水を、奥のパイプには砂糖を入れるようになっています。蓋にある2つの穴は、蓋を開けないで、水や砂糖を補給するためにあります。7mmの穴から砂糖を落とすとパイプ内に落ちます。また、1.5mmの穴へは化粧用品の注射器の針を差し込んで給水します(約1mL入ります)。
巣穴の部屋とえさ場の部屋とは、直径3mmの穴でつながっています。この穴を通り抜けることができるのは、働きアリだけです。つまり、女王アリは巣穴の部屋から出られないようになっています。
以上は初代「アンテキューブ」と同じですが、この「アンテキューブⅡ」には、次の2つの機能が加わります。
一つは、巣穴の部屋の側面に穴が空いていることです。直径7mmの穴が1つあり、この穴の大きさは、女王アリが十分に通れる大きさです。

直径7mmの穴が1つある

直径7mmの穴が1つある

この穴と同じ大きさで、全く同じ位置に穴があるのが「アンテモジュール」で、この「アンテモジュール」を併用することで巣を拡張することができるのです。

アンテモジュールを1つ使うと

アンテモジュールを1つ使うと

アンテモジュールを3つ使うと

アンテモジュールを3つ使うと

アンテモジュールを5つ使うと

アンテモジュールを5つ使うと

ちなみに、上の組み合わせの例では、併用する「アンテモジュール」の数が奇数個になっていますが、もちろん偶数個を併用することもできます。
ベースステーションと拡張ユニット、または拡張ユニット同士の結合の仕方ですが、セロハンテープを使うとよいでしょう。底面と両側面に貼ると安定します。また、セロハンテープですので、分解も容易になります。
「アンテキューブⅡ」で追加されたもう一つの機能は、 巣穴の部屋に水入れがあることです。上の写真右側がそれです。高さ6mmの壁で仕切っていて、およそ0.4mLの水が入ります。巣穴の部屋に水を常時蓄えることができることで、まだ働きアリがいない初期の女王アリを容易に飼育することができるようになりました。
「アンテキューブⅡ」には、上の写真には写っていませんが、直径7mmの通路を塞ぐシリコン栓が付属しますので、単独で使用することもできます。1年間は、ベースステーションのみで飼育し、2年目から拡張ユニットを連結して飼育することもできます。
なお 、「アンテキューブⅡ」の一品一品に、シリアル番号を記載したシールを貼っています。このシールは、耐水性ですので、濡れても文字がにじむことはありません。シールの地は、通常は半透明で、濡れると透明になり、乾きかけは白くなりますが、また乾くと元の半透明に戻ります。

 ○材質:板部 透明アクリル板(カット面磨きなし)厚み3mm

設計図

設計図

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