月別アーカイブ: 2014年12月

2014年採集のコロニーの様子

2014年に女王アリを採集したクロオオアリとムネアカオオアリのコロニーの様子を2014年12月5日時点でまとめてみます。

まず、生存率を調べてみます。

クロオオアリの女王アリの採集匹数:133匹(内、譲渡した匹数:26匹、残107匹
ムネアカオオアリの女王アリの採集匹数:48匹(内、譲渡した匹数:17匹、残31匹
クロオオアリの女王アリの生存率:107匹中58匹 生存率54.2%
ムネアカオオアリの女王アリの生存率:31匹中16匹 生存率51.6%

クロオオアリの場合
負傷していない女王アリの生存率:54.3%(81匹中44匹生存)
負傷している女王アリの生存率:53.8%(26匹中14匹生存)
ムネアカオオアリの場合
負傷していない女王アリの生存率:55.2%(29匹中16匹生存)
負傷している女王アリの生存率:0.0%(2匹中0匹生存)
クロオオアリとムネアカオオアリを合わせた場合
負傷していない女王アリの生存率:54.5%(110匹中60匹生存)
負傷している女王アリの生存率:50.0%(28匹中14匹生存)

生存率は、最初の冬を迎えた時点(1年目の12月)では、クロオオアリもムネアカオオアリもほぼ同じ50%程度であることがわかります。また、採集時負傷していた女王アリも、負傷していなかった女王アリも生存率については有意な差は認められません。(採集時に負傷していることがわかった場合は、採集していません。負傷とは、触角や脚の関節を部分的にまたは付け根から全部失っている状態を言います。)(関連ブログ「新女王アリの死亡率」2014年6月18日付)
なお、死亡の原因は全て不明です。

次に、家族構成を見てみましょう。

クロオオアリの場合
働きアリの数:平均17.0匹(56コロニーの平均)
幼虫の数:5.4匹(51コロニーの平均)
ムネアカオオアリの場合
働きアリの数:平均12.6匹(16コロニーの平均)
幼虫の数:16.9匹(16コロニーの平均)

働きアリの数は、大きな家族ほど正確には数えられなくなりました。また、幼虫の数については、実体顕微鏡を使って数えていますが、さまざまに要因(幼虫同士が塊になっているので下の方は数えにくい、女王アリの体に隠れて見えにくい、幼虫が置かれている場所によっては見にくい等)で概数になることがほとんどでした。
働きアリの数は、ムネアカオオアリと比べるとクロオオアリの方が多いことがわかります。クロオオアリの家族の場合、一番働きアリが多い家族で30匹前後でした。また、逆に働きアリがいない例が3例ありました。

幼虫の数には、明らかに有意差があります。これは、昨年採集した女王アリの家族の2013年の10月23日時点での傾向とよく似ています。(ブログ「1年目のクロオオアリ・ムネアカオオアリのコロニーの大きさ」2013年10月23日付 参照)

クロオオアリの場合(2013年採集分)
成虫: 13.5匹 幼虫:2.3匹 繭・卵なし
ムネアカオオアリの場合(2013年採集分)
成虫: 12.7匹 幼虫:14.1匹 繭・卵なし

冬を迎える時期の幼虫の数は、クロオオアリと比べると、ムネアカオオアリの方が、3倍から6倍多いことになります。

冬越しの様子

オオカマキリやコオロギは卵で越冬します。カブトムシやオオムラサキは幼虫で越冬します。モンシロチョウやキアゲハは蛹で越冬します。ナナホシテントウやアシナガバチは成虫で越冬します。では、クロオオアリやムネアカオオアリが冬を越す時は、卵・幼虫・蛹(繭)はどうなっているのでしょうか。

これについては、既にわかっているように、成虫とともに幼虫で冬を越します。複数の態様で冬を越す昆虫は、社会生活をしているアリやシロアリ、それにゴキブリなど極く稀です。

現在飼育しているクロオオアリの中で、最も大きなコロニーの巣の中を見てみましょう。このクロオオアリは、2010年6月8日に結婚飛行を終えた女王アリの家族です。

女王アリがいる部屋 幼虫が見える

女王アリがいる部屋 幼虫が見える

上とは別の部屋 ここにも幼虫がいる

上とは別の部屋 ここにも幼虫がいる

この部屋にも幼虫がいる

この部屋にも幼虫がいる

上の写真のように、この巣では3つの部屋に分けて幼虫が置かれていました。幼虫は大体同じ大きさで、小さいことがわかります。
ちなみに、蜜をしっかり与えてきましたので、ほとんどの働きアリの腹部が大きく膨らんでいます。

働きアリの腹部がよく膨らんでいる

働きアリの腹部がよく膨らんでいる

ムネアカオオアリの場合はどうでしょうか。現在飼育している中では比較的大きなコロニーになっている、2012年6月14日に結婚飛行を終えた女王アリの家族を見てみましょう。

女王アリがいる部屋

女王アリがいる部屋

別の部屋

別の部屋

別の部屋

別の部屋

ムネアカオオアリの場合も、幼虫は大体同じ大きさで、小さいことがわかります。

トゲアリの寄生をより成功させるには

11月30日のブログ「2014年度のトゲアリ 13コロニーで寄生成功」に書いたように、トゲアリの女王アリがクロオオアリやムネアカオオアリの巣に寄生するのは、とても困難なことです。
働きアリに侵入を阻止されることもありますが、多くの場合、トゲアリの女王アリは、宿主の女王アリとの戦いで深手を負い、その後で働きアリに殺されてしまいます。

そこで、宿主の女王アリとの戦いを避けるために、あらかじめ女王アリを除いておくとか、女王アリが既に死んでいる巣に侵入させるとかの方法がありますが、生きている女王アリに近い条件で寄生させる方法を考えてみました。

宿主の女王アリだけを巣から取り出し、冷凍して殺します。その死んだばかりの女王アリとトゲアリを一緒にするのです。トゲアリは、宿主の女王アリが生きている時と同じように食いつきます。30分ぐらいしてから、宿主の女王アリとトゲアリの女王アリを宿主の巣に戻します。
3例行い、3例とも寄生に成功しました。成功率100%なのです。

この方法で成功させるには、いくつか注意することがあることがわかりました。

冷凍して宿主の女王アリを殺す際、できるだけ短い時間で殺すのがよいと思い、家庭用の冷蔵庫の冷凍室に30分間入れておきました。すると、案の定、死んだようになっていましたので、トゲアリの女王アリと一緒にしたのですが、5例の内2例で宿主の女王アリが生き返りました。この生き返った2例では寄生に失敗しています。この2例の内の1匹は、再び30分間冷凍庫に入れましたが、やはり死にませんでした。同じ時間冷凍庫に入れていても、死んでしまう個体と死なない個体があることがわかります。

トゲアリが宿主の女王アリに食いついている状態で、元の宿主の巣に戻す際は、そっと戻す必要があります。上から落とし入れるような方法だと、巣の中に落ちた際に、トゲアリが驚いて、食いついていた宿主の女王アリから離れてしまうことがあるからです。いったん離れてしまうと、働きアリに襲われてしまい、再び宿主の女王アリに食いつきにくくなります。

まだ、3例でしか試していませんので、寄生に必ず成功するとは言えませんが、この方法を採るとかなりの確率で成功するのではないかと思えます。

寄生に失敗したトゲアリの負傷箇所

トゲアリの女王アリ70匹を寄生させるためにクロオオアリやムネアカアリの巣に侵入させ、そのうち13匹が寄生に成功したことは、前回のブログで書きました。残りの57匹は寄生に失敗し、殺されたのですが、その殺されたトゲアリの女王アリが、どんな傷を負ったのか知りたくて、今年は、死んだ女王アリの死体を調べてみました。

傷を負っていない個体は13匹で、調べていない個体は9匹です。傷を負っていた35個体(57匹−13匹−9匹)の傷があった箇所は各部位ごとに延べで次の表のようになります。
(各部位の傷の程度は違いますが、傷の大小に関係なく、その部位に傷がある場合を1と数えています。この場合の傷を負うとは、その部位を全て切断されて失うか、部位を途中から切断されて失っている状態を言います)

部位
触角 9 9
前脚 15 20
中脚 3 3
後脚 3 3

これは、大変興味深い数値です。前脚の傷が明らかに多いのです。トゲアリの女王アリにとって、前脚は特別な役割があります。前脚には刷毛のような器官があり、この器官を使って、体をペンキングするからです。(関連ブログ「識別成分塗布」2014年9月27日 参照)
ですから、前脚を失ってしまうと、侵入する巣特有の識別成分を自分の体に塗布することができなくなり、体を宿主のコロニーに同化(カモフラージュ)することができなくなって、攻撃を受けることになります。
次に触角の傷も多いことがわかります。触角を失うと外界の情報が得られなくなりますから、これも大きな痛手となります。

ところで、トゲアリの女王アリが傷を負う(部位を切断される)のは、宿主の女王アリとの戦いの際です。トゲアリの方が宿主の女王アリに傷を負わせることはありませんが、宿主の女王アリは、トゲアリの女王アリに傷を負わせます。両者の一騎打ちで一瞬の内にトゲアリの脚等が切断されるのを幾度も見たことがあります。働きアリもトゲアリの女王アリを攻撃しますが、私が観察した限りでは、トゲアリの女王アリが生きている内は、働きアリにはトゲアリの脚や触角を切断することはできないようです。

クロオオアリやムネアカオオアリの女王アリは、本能的にトゲアリの女王アリの急所を知っていることになります。これも進化の過程で獲得した能力なのでしょうか。