日別アーカイブ: 2017年4月6日

「ありの行列」を考える その2

「ありの行列」を考えるブログシリーズの仮説
⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。
今回のブログでは、上記仮説の⑴⑵に言及します。

昨年から、花壇の横に設置していた測量杭に、昨日蜜器を載せておきました。昨日はそこへクロオオアリは来ませんでしたが、今日の9時45分ごろ、1匹のクロオオアリが蜜を吸っていました。大きさは少し小さめで、「移植」に成功したシリアル番号SIMSMA01057の巣の働きアリのように思えました。確言はできないのですが、このアリは今初めて蜜場を見つけたのでしょう。

花壇横の蜜器にやってきたクロオオアリ

帰路を追ってみると、あまり迷わずに進み(道しるべは付けていない様子)、SIMSMA01057の巣の中に入っていきました。少し長めに時間が経過して、先ほどのクロオオアリらしいアリが巣口から出てきました。とても鈍く遅い歩きです。それでも、よく見るとレンガに道しるべを付けているようです。

鈍くゆっくりした動きだが、道しるべを付けている

しばらくはこの1匹だけでしたが、気づくと後から2匹が追ってきて、やがて追いつきました。

追いついて3匹になったところ

この後ですが、先頭のアリは芝地へと入っていきました。初めは、先頭のアリに1匹は付いていっていました。

赤丸の中に2匹いる レンガからは50cm程離れている

上写真の赤丸の部分を拡大 2匹見られる 先頭のアリは腹部を曲げて道しるべを付けている

しかし、しばらくすると、付いていっていたこの1匹のアリも先頭からはぐれ、結局、先頭のアリが1匹だけになりました。
ここで、先頭のアリの足跡を見ると、餌を見つけた後の帰路とはとても大きく逸脱しています。上の写真のように、レンガから最大で50cm程離れて歩いていますが、もともと帰路では、レンガから外れても、ほぼレンガ近くの芝地を歩いていました。帰路と往路とは全く異なる道です。
やがて右往左往しながらも、随所で芝の葉に道しるべを付けながら、総じて蜜器のある方向へと歩いて、境界杭の麓にたどり着きました。

右往左往しながらも、腹部を曲げて道しるべを付けながら歩くクロオオアリ

やっとのことで、蜜器のある境界杭の麓に着いた

その帰りは、往路のように迷うことなく、大体レンガに沿って、わずかに2分程度で巣へと戻っていきました。道しるべを付ける際のダンス(「一瞬立ち止まって腹部を曲げる」をリズミカルに繰り返す)はしませんでした。

帰路の足取り 赤丸の間隔は30秒 蜜器と巣口とは直線距離にして166cm離れている

「ありの行列」を考える その1

光村図書の3年生の国語教科書に、『ありの行列』という教材があります。もうずいぶん古くからある教材で、私が知る限りでは1977年以前からありました。この教材は、光村図書の教科書のために大滝哲也氏が書き下ろした文章で、ハーバード大学教授のウィルソン氏(Edward Osborne Wilson)の研究に基づいて書かれています。

その文章の中で、「ふしぎなことに、その行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから、外れていないのです。」という記述があります。最初に餌を見つけたアリが巣に戻ったあと、巣から出てきたアリたちは、最初に餌を見つけたアリが歩いた道通りに餌へと向かうと言うことです。
また、研究の結果、分かったこととして「はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして、地面にこのえきをつけながら帰るのです。ほかのはたらきありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。そして、そのはたらきありたちも、えさをもって帰るときに、同じように、えきを地面につけながら歩くのです。」と書かれています。

この考えは、今日でも正しいとされています。次に引用するのは、1988年に書かれた著書からではありますが、次のような記述があります。

「一匹のアリが砂糖を見つけると、仲間を呼んできてたちまち黒山のアリだかりができることは、皆さんもご存知のとおりである。一昔前までは、餌を見つけたアリが触角で仲間に餌場を知らせるものと思われていた。二匹のアリが触角と触角を触れ合って挨拶する姿はよく見うけられるから、この話はいかにももっともらしく聞こえる。しかし、実際はまったく違った方法を用いていることがわかってきた。餌を見つけた働きアリは、尻の先から匂物質を分泌して、それを一定間隔で地面につけながら巣に戻るのである。匂物質は次第に拡散してアリの通った道を中心に匂いのトンネルができる。このような匂いのトンネルは時間とともにうすれ、数分後には消失してしまう。そのわずかな時間の間に別のアリがこの匂いの道を横切ると、そこを逆にたどって餌を見つけることができるのである。そしてまた、匂いの道しるべをつけながら巣に戻っていく。この方法だと、餌のある間は次々に仲間が集まってきて、匂いの道は強化される。しかし、一たん餌がなくなると、だれも匂物質を出さなくなるので、匂いの道は自然に消えてしまう。 実に巧妙な方法である。」

ここでは、これらの説に共通している次の2点に注目したいと思います。

①最初に餌を見つけたアリは、匂いの道しるべを付けながら巣に戻る。
②餌を見つけた2匹目以降のアリも、巣に戻る際には匂いの道しるべを付けながら巣に戻る。

上記2点は、極く普通に見られるアリについて言えることとされているのですが、本当にそうなのでしょうか。
私は主にクロオオアリとムネアカオオアリの生態を観察しているのですが、ここでは、クロオオアリに限ってと言う限定付ですが、上記①②はいずれも、誤りであると考えています。では、どう考えているかと言うことですが、次のような仮説を立てています。

⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。

以後、幾回かに渡って、これらの仮説を検証してみたいと思います。