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新女王アリに餌を与えると

結婚飛行を終えたクロオオアリの新女王アリは、単独で子育てをします。その際、幼虫を育てる養分は、外部から得ることなく、自身の体の中の養分を使います。そのため養分が限られ、最初に生まれてくる働きアリは、体格がとても小さくなります。

ところで、もしも、この最初の子育てをしている期間に糖分等の餌を与えると、子育てはどのように変わるのでしょうか。幼生虫の数が増え、また成虫も体格が大きくなるのでしょうか。

6月20日、クロオオアリの新女王アリ40個体を20個体ずつのグループに分け、餌を与えることにしました。

A:メープルシロップまたはグラニュー糖を与える
20個体の幼虫の総計:30匹(平均1.5匹)

B:メープルシロップまたはグラニュー糖とシルクパウダーを与える
20個体の幼虫の総計:37匹(平均1.85匹)

翌日の21日に餌を与えました。その際、餌を飲んだのを確認できたのは、Aグループで6個体、Bグループで2個体に過ぎませんでしたが、観察していない時に餌を飲んだ可能性はあります。

それから1ヶ月後の7月31日、その結果をまとめてみると……

Aグループ
6匹死亡(死亡率30%) 死亡時幼生虫無しを確認:4コロニー
成虫無し7コロニー 成虫有りの匹数:各2・2・3・8・9・10・11匹
生存コロニーの成虫の平均匹数:2.25匹

Bグループ
13匹死亡(死亡率65%) 死亡時幼生虫無しを確認:6コロニー
成虫無し7コロニー 成虫有りは無し
生存コロニーの成虫の平均匹数:0匹

上記の死亡率と成虫の平均匹数を以下の数値と比べると……

A・Bグルーブと同じ日(5月30日)・同じ場所(同じ市内の3ヶ所)で採集したクロオオアリの女王アリ158匹の7月31日のデータ
死亡率13%
生存コロニーの成虫の平均匹数:7匹

明らかに有意差が見られます。つまり、幼虫が1〜2匹程度の時点で、蜜やシルクパウダーを与えると死亡率・子育て成功率(成虫の数)ともに悪化することが分かります。とりわけ、たんぱく質が含まれているシルクパウダーを与えてしまうと、極端に子育てができなくなります。
Bグルーブの死亡率が高いことについては、シルクパウダー入りの蜜を食べたかどうかが分からないので、それを原因だと断定することはできません。Aグループに蜜を与えた時もそうでしたが、Bグループでも餌を与えて暫くの日数、そのままにしていました。その間に、餌が毛細管現象で脱脂綿へと移り、Bグループでは脱脂綿が緑色に変色した場合がありました。これが独特の匂いを持つまでになっていて、死因の原因になったとも考えられます。与えた餌は翌日には撤去すべきでした。

以上の結果から、自然の理に反して、創巣期のクロオオアリの新女王アリに餌を与えることは、害にこそなれ、益にはならないと言う結論が出るわけですが、どのような実験をしたにせよ、諸条件(餌を与える時期や餌の与え方、餌の種類等)をかなり限定しているわけですから、一般論として述べることは避けたいと思います。

シルクパウダーはタンパク源として有効か?

シルクパウダーは、オオアリにとってタンパク源として本当に有効なのでしょうか。これまで、有効だとは思いながらも、オオアリには昆虫を併用して与えてきました。

ところで、今年5月、ある方から次のようなコメントが寄せられました。

「はじめまして 昨年上記のシルクパウダーに関する記事を読み、家のアリたちに試してみましたが、いい結果が得られています。それに触発されて、今年は昆虫餌をまったく与えずにアリを育ててみようと思い立ち、現在クロオオアリ2コロニー、イトウオオアリ3コロニーで実験しています。クロオオアリは昨年の5月に新女王を採集したものですが、昨年11月までにどちらのコロニーでも働き蟻数が100匹近くになり、大型ワーカーも3匹ほど生まれました。この春からは、シルクパウダーに加えて、その他のアミノ酸含有食品(エビオス、麻の実プロテイン、大豆プロテイン、スキムミルクなど)を蜂蜜、メープルシロップ、黒蜜、キビ砂糖などといろいろな組み合わせで混ぜ、それに昆虫ゼリーも足して与えています。結果は非常に順調で、幼虫、繭が大量に増えています。クロオオアリ1コロニーでは、大型ワーカーのものと見られる巨大な繭も現れました。というわけで、少なくともクロオオアリとイトウオオアリに関しては、昆虫をまったく与えなくても十分に飼育が可能であるように思われます。……」

そこで、追試をしてみようと思いました。
幸い今年は、クロオオアリの女王アリを251匹採集していましたので、有意な差が出ると思われるだけの数の女王アリを、対照実験に当てることが可能でした。

5月30日に、極く狭い範囲の同じ場所で、極く短時間に採集したクロオオアリの女王アリの内、6月2日から産卵を始めた40個体と、3日から産卵を始めた10個体の計50個体を、この対照実験に当てることにしました。
その内25体には蜜と昆虫を与え、残りの25体にはシルクパウダー入りの蜜を与えます。(3日から産卵を始めた個体を5個体ずつ、双方に入れています)
蜜は、粉末のメープルシュガーを水で溶かして作ります。
シルクパウダー入りの蜜は、シルクパウダー1の重さに対してメープルシュガー3の重さにして水で溶かして作ります。
昆虫としては、小さな蛾を与えます。

容器は、1辺が15cmの惣菜容器を使い、水器と餌器はパイプ状の大気圧を利用したものを使います。

1辺が15cmの惣菜容器 蓋に穴を空けて水器と餌器を差し込む

水器と餌器は同じ構造で、パイプの下方に切れ目があり、そこから水や蜜が吸えるようになっている 水や蜜がこぼれ落ちないように大気圧を利用している

この対照実験は、働きアリの数が10匹前後になった本日7月31日から始めました。結果はおよそ2ヶ月後の9月下旬に出す予定をしています。

5月22日の「移植」後

5月22日に自宅の庭に「移植」したクロオオアリは、その後無事にコロニーを形成したのでしょうか。
室内で飼育している同じ日に採集したクロオオアリのコロニーでは、羽化が始まって10日以上が経っています。「移植」で生き残っているとしたら、もうそろそろ働きアリが地上に出て来ているはずです。
「移植」からほぼ2ヶ月後の7月20日、巣があるはずの10ヶ所を見ている内に、小さな体格のクロオオアリの働きアリを見つけました。この大きさから、この働きアリは、創巣期に生まれた働きアリだと分かりました。
その働きアリは、巣があると思われる近くのブルーベリーの木に上っています。蜜を与え、帰路を追って巣の場所を探すことにしました。

ブルーベリーの木の葉に蜜を載せた

やがて木から下りて、巣に帰っていきました。

巣口から入ろうとしているところ 腹部が蜜でぱんぱんに膨れている

この巣はシリアル番号のBH17037でした。
暫くして、もう一つ別の巣に戻るクロオオアリの働きアリがいました。

BH17039の巣 巣口は写真には写っていないが右方向にある

結局、「移植」後に明らかに生き残っているのが確認できたのは、以上の2コロニーだけでした。その他のコロニーも生き残っていればよいのですが、それにしても、初めて試行した結婚飛行直後のクロオオアリの女王アリを用いての「移植」が、少数にしろ成功したことは画期的なことです。

続 トゲアリの新居

7月1日・2日、6月16日に引き続き、まだ新居を持たない残りの10コロニーのトゲアリを移転させました。
飼育器の造りは、ほぼ前回と同様ですが、少し小さめの水槽を使っています。また、巣箱は新しくデザインしました。巣箱には、閉ざされた空間があり、側面の1つの穴からのみ出入りできるようになっています。