月別アーカイブ: 2018年10月

たった1例のトゲアリの寄生のその後 3

これまで、トゲアリの女王アリに殺されたはずのクロオオアリの女王アリの姿を見かけませんでしたが、10月18日にそれらしき遺体を見つけました。飼育器であるリトルアンテシェルフの最下層のごみ捨て場で、2匹のクロオオアリの働きアリが、黒いものに触れていました。それを取り出して実体顕微鏡で見ると、確かにクロオオアリの女王アリの遺体でした。胸部のみになっていて、女王アリの証の翅を落とした跡が確認できました。

クロオオアリの女王アリの遺体 胸部のみが見つかった 翅を落とした痕跡が見られるので、確かに女王アリの胸部だ

「直短的社会寄生」の試みは課題を残して終了

昨年の9月から始めたトゲアリの女王アリの「直短的社会寄生」の試みは、端的に言えば失敗に終わりました。以下にトゲアリの女王アリが死亡した日を記します。

S/N T17002:2017年09月30日(死亡時トゲアリの働きアリ28匹)
S/N T17008:2017年10月15日(死亡時トゲアリの働きアリ5匹)
S/N T17007:2017年10月17日(死亡時トゲアリの働きアリ5匹)
S/N T17001:2017年11月11日(死亡時トゲアリの働きアリ11匹)
S/N T17005:2018年02月12日(死亡時トゲアリの働きアリ21匹)
S/N T17006:2018年06月10日(死亡時トゲアリの働きアリ4匹)
S/N T17003:2018年07月05日(死亡時トゲアリの働きアリ0匹)

ただ唯一、S/N T17004はトゲアリの働きアリが1匹ですが、生き残っています。

T17004は働きアリが1匹ですが生き残っている

T17004では、今年の6月23日に卵らしいものを女王アリが咥えていたのを観察しています。しかし、6月30日には卵は見つかっていません。

女王アリの死亡時に1例を除いて働きアリが生き残っていましたので、今回の試みでは、働きアリがいなくなると女王アリがコロニーを作れなくなると言うことではないのですが、働きアリの寿命を考慮する必要はあったようです。直短寄生をした次の年の春に最初の産卵をしたとして、その卵から成虫になるのが早くて7月になってからだとすると、働きアリの寿命は少なくともその時点で10ヶ月になります。実際には、採集してきた働きアリは、前年の9月以前に生まれているのですから、更に長い寿命でなくてはならないことになります。ですから、「直短的社会寄生」の試みでは、働きアリの寿命も考慮してコロニー作りを行うことも、今後の課題になることでしょう。

飼育中のトゲアリの様子 2018年10月

昨年の6月16日7月2日のブログで、その時点で飼育していた13コロニーのトゲアリについて触れていますが、その後多くのコロニーが死滅し、今年の10月11日の時点では、3コロニーのみが生き残っています。コロニーを引越させはしましたが、多くのコロニーが死滅した確かな要因は分かっていません。

生き残っている3コロニーの様子
① S/N:T140906-40
最も良く繁栄しているコロニーです。トゲアリの女王アリを2014年9月6日に採集し、同年9月11日にクロオオアリの巣S/N: NESTCON01024(2012年6月14日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから4年1ヶ月程経過したことになります。

S/N:T140906-40

② S/N:T130921-09
順調に繁栄することが期待できるコロニーです。飼育器の水槽の中に置いたアクリルと木で作った巣箱の中にコロニーが入っています。この巣箱には、閉ざされた空間があり、側面の1つの穴からのみ出入りできるようになっています。トゲアリの女王アリを2013年9月21に採集し、同年10月3日にクロオオアリの巣S/N:NESTCON01030(2011年6月8日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから5年1ヶ月程経過したことになります。

S/N:T130921-09

③S/N:T140906-03
働きアリが少ないコロニーです。上述のアクリルと木で作った巣箱の中には入らず、その下に小さな空洞を作って暮らしています。トゲアリの女王アリを2014年9月6に採集し、同年9月10日にムネアカオオアリの巣S/N:NESTCON01027(2012年6月14日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから4年1ヶ月程経過したことになります。

T140906-03

たった1例のトゲアリの寄生のその後 2

9月22日に寄生を開始させたトゲアリのその後の様子です。
4日のブログと大きな変化はありませんが、2分間の動画にしてみました。

8時50分からの2分間動画

トゲアリの女王アリは、すっかりクロオオアリのコロニーの中に入り込んでいるようです。この動画を撮影した時は、トゲアリの女王アリはクロオオアリの塊の上にいて、それほど盛んにではありませんが、化粧をしていました。このクロオオアリの塊の下に殺されたクロオオアリの女王アリの死体がありそうです。

たった1例のトゲアリの寄生のその後 1

寄生から8日後の9月30日のトゲアリの寄生の様子です。
クロオオアリの女王アリは仰向けになっていて、トゲアリの女王アリは上からクロオオアリの女王アリの頸に咬みついています。この体勢は、寄生が成功しつつあることを表しています。

クロオオアリの女王アリは仰向けになり、トゲアリの女王アリは上から頸に咬みついている

寄生から12日後の10月4日の朝、まだ頸に咬みついているようでしたが、夕刻には、巣内を歩いていました。

まだ、頸に咬みついているようだ 10月4日7時54分撮影

巣内を歩いていた 10月4日16時50分撮影

この時期、トゲアリの女王アリが巣内を歩いていたということは、寄生に成功したと言うことです。クロオオアリの女王アリの姿は見られませんでしたが、おそらく殺されたと思われます。

このような場合、これまでの観察では、クロオオアリの女王アリの頸が咬み切られていることが多かったのですが、今回については確かめられませんでした。今朝まで、クロオオアリの女王アリとトゲアリの女王アリがいた近くには、クロオオアリの働きアリの塊がありましたが、これは、亡くなった女王アリを取り囲んでいるのでしょう。クロオオアリの女王アリの姿(死体)が見つからなかったのは、そのためなのでしょう。

今回は、たった1匹だけでトゲアリの寄生を試みたのですが、本日の様子から考えて寄生が成功しているとすれば、かなり希な例になります。これはとても意外なことです。