『蟻の自然誌』に見る「道しるべ」記述

『蟻の自然誌』(原題『JOURNEY TO THE ANTS』)は、『蟻』(原題『The Ants』1990年刊行)の4年後(1994年)に同じ著者たちが刊行した著作で、「アリ学の最良のエキスを、なるべく専門用語を減らし、より近づきやすい長さにまとめもの」です。著者は、バート・ヘルドブラーとエドワード・O・ウィルソンです。

本ブログの「ありの行列」を考えるシリーズのその1で、光村図書の3年生の国語教科書の『ありの行列』という教材を取り上げていますが、その著者である大滝哲也氏が、その中で紹介しているのがウィルソンの研究です。
そこで、今回は『蟻の自然誌』の中で、「道しるべ」について触れられている個所を取り上げてみました。なお、引用するのは、辻和希氏と松本忠夫氏が翻訳した朝日新聞社発行(1997年7月25日 第1刷)の書物からです。

「4節 アリのコミュニケーション法」の66ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:アフリカツムギアリ)
「この化学物質は、体節の最後尾の肛門近くにある2つの分泌腺のうち、どちらか一方から出される。どちらの分泌腺も、私たちの研究によって新しく発見されたものである。働きアリが「食べものを発見したからついてきなさい!」と言いたいときには、2つの分泌腺のうちのひとつ、後腸腺からの分泌液を道しるべとして落としながら、食べ物の場所から巣へと走って帰る。途中、他の働きアリに出会うと、頭を振って2本の触角で相手に触る。もし、食べ物が液状のものなら、大腮を開けて吐き戻したサンプルを相手に差し出す。仲間はそれをちょっと味わって、新たに発見された食物資源へと道しるべに沿って走り出すことになる。」

「5節 戦争と外交政策」の99ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:ミツツボアリ)
「ミツツボアリの働きアリは、昆虫をはじめとするさまざまな節足動物を狩る。とくにシロアリが好物だ。偵察アリたちは、落ちた樹の枝や乾いた牛糞の塊の下などによくいる採餌中のシロアリの集団に出くわすと、匂い道しるべを残しながら巣に走って帰る。道しるべの誘引物質は後腸液のなかに含まれていて、これが肛門から地面へと点々と連続的に落とされる。また動員をかけるアリは、帰り道で仲間に出会うとかならず立ち止まり、身体を相手に向けて揺り動かす。道しるべおよび身体の接触という、この組み合わせシグナルが、少人数の採餌部隊をシロアリの場所へとまず誘導する

これらは、私が掲げている仮説(但しクロオオアリについて)とは多いに異なっています。私の仮説を再録しておきましょう。

⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。

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