トゲアリ物語(01)

『昆虫と自然』という月刊誌を知っているだろうか。ネットで検索して見ると、ヒットする。今さらながら、「今も」この研究誌が存在しているのだと分かった。「今も」と書いたのは、長い間この研究誌を意識することがなかったからだが、それとともに、私が中学生の頃、この研究誌をよく知っていたからでもある。この研究誌は、1966年4月に創刊されていて、私は、その当初の読者でもあった。今は、その7号(1966年10月号)だけを大事に保管している。

『昆虫と自然』No.7

なぜその7号なのかというと、私自身が投稿した原稿が掲載されているからである。その記事の内容は、私にとっての新発見なのである。

当時、私は岡山市に住んでいて、私が住んでいた所の北方にあった市内の「矢坂山(やさかやま)」へ、よく自転車でアリの観察・採集に出かけていた。矢坂山というのは、平坦な山で、あの有名な桜色をした御影石(みかげいし)の「万成石(まんなりいし)」を産出する山へと続いている山である。矢坂山は、花崗岩が風化してできた土山であり、山容がなだらかであり、土も掘りやすく、アリの観察・採集にはとても適している場所であった。

矢坂山全景(南方より望む)

さて、その『昆虫と自然』に投稿した記事だが、 それは、この矢坂山で発見したトゲアリについてであった。中一の時のことである。その記事を以下に再録して見よう。

『昆虫と自然』1966年10月号(No.7)より

【観察ノート】
一時的社会寄生するトゲアリ  大月正雄

去る8月14日、岡山市矢坂山で一時的社会寄生をするトゲアリを採集した。

このトゲアリの働きアリは、一般に見られるトゲアリを縮小したようなもので、黒くて、胸と腹柄が薄橙色を していて、胸に3対、腹柄に1対の棘が背中から外側ヘ 突き出ている。また女王アリはスマートで、棘は腹柄に 短いのが1対だけある。働きアリとは全く異なり、全身 が黒くて、腹柄だけが暗赤色をしている。

このトゲアリの生態に関する想像や観察したことを述 べておく。

1.トゲアリは、自分で巣作りや子供を育てる能力が 少しばかりならあるが、女王がクロオオアリの巣に侵入し、クロオオアリの女王をころしその位を陣取るのではないかと思える。そして、子供の世話はクロオオアリの 働きアリにやらせ、つぎつぎと自分の家族の繁栄をはかろうという考えらしい。

2.サムライアリは、付近のクロヤマアリの巣に奴隷狩を何回も行なうが、このトゲアリは、クロオオアリの 巣に寄生するだけである。また口器は、食物をかみ切ることができ、奴隷がいなくてもけっこう生活ができるので、最後には、純粋なトゲアリだけの家族になりそうだ。

3.巣が荒されたりすると、クロオオアリは、歩みのおそいトゲアリを大あごでくわえ、巣の奥の方に運んでいく。また蛹などを運ぶ時には、両者とも協力するが、やはり、クロオオアリの方がよく働く。

4.野外でのえさ捜しには、トゲアリの働きアリは参 加せず、巣の中でじっとうずくまっているだけである。
いままでにアリ科の社会寄生をするものとしては、エゾアカヤマアリ・アカヤマアリ・サムライアリ・イバリ アリ・クサアリモドキ・アメイロケアリなどで、トゲアリ属の寄生は知られていない。

これらのことからいっても、このトゲアリは、まだ未記録のものだと考えられたので報告したいと思う。

(岡山県岡山市下中野544番地の16 〈中学生〉 )

今、読み直して見ると、女王アリの記述の「棘は腹柄に短いのが1対だけある」というのが少し気にはなるが、働きアリの刺の記述は正確であり、やはり、このアリは間違いなくトゲアリであったと思われる。

1966年の時点で、トゲアリの生態についてどのくらい分かっていたのか確言できないのだが、当時の私の知識で書いたように、本当に「このトゲアリは、まだ未記録のもの」であったのかも知れないのである。

思い起こせば、私とトゲアリとの出会いは、こんなものであったのである。

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