トゲアリ物語(02)

「サイニィ」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。「CiNii」と表記する「NII論文情報ナビゲータ」のことである。その名の通り、論文や図書・雑誌などの学術情報を検索できる国立情報研究所のデータベース・サービスのことである。

CiNiiトップ画面

このデータベースで、トゲアリに関する記述を検索して見よう。すると、日本の種名としての「トゲアリ」そのものに関する論文は6点ヒットする。

1899/06/15 金峯山採集トゲアリ(村上萬太郎)
1911/05/15 日本産トゲアリ屬(矢野宗幹)
1963/09/30 トゲアリの寄生生活(郡場央基)
1966/12/15 野外でのトゲアリとクロオオアリの混合巣(郡場央基)
1996/08 トゲアリの生活–飼育と野外観察をとおして(酒井春彦)
2000/03 トゲアリの観察と飼育 (酒井春彦)

『金峯山採集トゲアリ』は、村上萬太郎が金峯山へ採集に出かけた際、「一種異様の蟻群」が「徘徊」するのを見て、数十匹を持ち帰った話である。体の各部位について詳しく記述している。2ページとちょっとの分量である。

『日本産トゲアリ屬』には、台湾も含めて複数の種のトゲアリを紹介している。紹介の主な記述は「識別に必要な部分に限り」とあるように、形態についてが主となっている。種としてのトゲアリの記述では、「職蟻」「雌」「雄」「幼虫」「蛹」と多岐にわたっている。だが、注目すべきは、それらの後に続く記述である。長くなるが、引用してみよう。今から101年も前の明治44年5月15日付けの論文である。

本種はLEWIS氏初めて是を兵庫に採りて、F.SMITH氏之を記載せし以来外人の記載せし者多く、本邦にありても、村上萬太郎氏の本誌に、深井武司氏の昆虫世界に記されし事あれども、常に職蟻のみにして羽蟻に就きては全く知られざりき、予も亦此に注意せしが、明治四十年十一月二日初めて小石川植物園にてトゲアリ属の1疋の翅を失へる雌が地上を歩するを得、本種なる可しと想像せり、翌四十一年十一月初旬本郷帝国大学構内の石下に同様の者一を得、四十二年十一月初旬三度目黒林業試験場内にて同様の者が一は地上に一は樹木の朽ちたる部分にあるを得たり、然しながら未だ是を以て直にトゲアリの雌となさんには多少の疑ありしが、昨四十三年七月下旬豊前国企救村にて椎の老樹にある巣を破りて幸にして其の有翅の雌雄多数を得、以て前記の者が同種なるを確め得たり、前記の事実を総合すれば、本種は夏日有翅の雌雄を生じ、十月下旬乃至十一月上旬巣を出でて飛去る者なるが如く、四十二年十月下旬帝室博物館内の老樹より本種の羽蟻飛び出せし事を齋藤諒次郎氏実見せられしは其の時期を確むるものなり、(但し氏の標本は予は見るを得ざりき)元来羽蟻の飛出すは各種によりて時期一定せる者なるが、多く五月より九月頃までにして、本種の如く十月下旬に出ずるは本邦にありては珍しき事実なり、しかして熱帯性なる本種が本邦の如き寒冷なる地にありて他種が全く跡を断つの頃に独り結婚飛翔を試みるは何故なるべきか。予は又本年一月三十日東京の郊外にて一疋の本種の職蟻の地上を歩するを見たり、假令本年の気候が温暖なりしにもせよ、此の事実は同種の耐寒性を証する者にして、他の主として寒地に分布する種に比較して興味ある事実なりと信ず。

つまり、明治40年11月に初めてトゲアリの女王アリらしき蟻を発見し、その3年後の明治43年7月になってトゲアリの巣の中から羽蟻を見つけ、トゲアリの女王アリであったことが確定したのである。

予は本種の巣を移す事に就きて面白き事に遭遇せり。クロオホアリ(Camponotus herculeanus japonicus)は本邦に普通なる大形の黒蟻なるが、常に好みて向陽の地の草なきか、又は多少小草ある乾燥せる地中に孔を穿ちて巣を営む、林業試験場の園内に小家族よりなる此の巣ありて三個の穴口ありたり、然るに昨年五月中旬此の巣の二つの口よりトゲアリの混じて出入するを見たり、互いに争う事はなきも共に平常の如く静穏にはあらざりき、翌日に至りては前の二つの口よりはトゲアリのみ出でてクロオホアリは他の一つの口より出入せしが、遂には其よりもトゲアリ出入するに至り、一週間許りにして全くトゲアリのみ出入するに至り、従って挙動も平静に帰したり。八月に至りて此のトゲアリは此より二十餘間の籬にある枯竹の中に巣を移し幼虫を運び終るに三日を要したり。
観察せる事実は上記の如くにして正しき断案を下すを得ざれども是に想像を加ふれば、トゲアリは自己の巣を営むに適当なる大なる枯木あらざりしが為に居を移して一度クロオホアリの巣を占領し、更に枯竹に巣を移せし者ならんと思ふ。元来トゲアリは大樹の枯朽せる部分に孔を穿ちて巣を営む者にして決して土中に巣を造る事あらざると前記の場所にては近く小さき木の林のみなりしとによりて想像し得、而して他巣を占領する事を事実とすれば他の蟻類に見る家族的寄生等と比較して興味なき事にあらざるなり。

以上の記述から、矢野宗幹氏は、トゲアリが一時的にクロオオアリの巣に仮住まいしていた、と考えていることが分かる。つまり、現在知られているように、クロオオアリの巣に一時的社会寄生をしているとは考えていないのである。これが、100年前のトゲアリの生態についての知見であった。

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