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餌場と巣の途中のアリの道

これまでの「『ありの行列』を考えるシリーズ」で、明らかになってはいますが、クロオオアリの場合、餌場と巣の間の往復の道が同じ個体でも、個体間でも異なっていました。今回は、アリの道の途中の1箇所に注目して、歩く道筋が個体間でどのように異なっているかを観察します。
観察の対象とするのはB巣のクロオオアリです。この間のブログでも触れているように、このクロオオアリたちは、クリの木のアブラムシの甘露を得るために巣とクリの木の間を行き来しています。その途中の道の大部分は、散水ホースを道にしていますので、その間は個体間でも共通した道になってはいますが、巣は散水ホースから少し離れた芝の中にありますから、途中でホースの道からおりることになります。今回は、クロオオアリがホースの道からおりる箇所で観察します。

1回目は、11月28日の10時21分から20分間観察し、2回目は翌29日の10時5分から20分間観察しました。以下2つの動画は、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したものです。

11月28日10時21分から20分間の記録を、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したもの 6分4秒間の動画

11月29日10時5分から20分間の記録を、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したもの 4分11秒間の動画

以下は、1回目の6分4秒間の記録を事象ごとに表にまとめたものです。動画を再生する際にインデックスとして参照して下さい。

事象番号 動画開始からの分秒 往路 復路 C巣の往路 C巣の往路
1 0分01秒
2 0分19秒
3 0分24秒
4 0分33秒
5 0分49秒 ✓腹部非満
6 1分02秒
7 1分20秒
8 1分31秒
9 1分33秒
10 1分37秒 ✓← ←✓腹部非満
11 1分38秒 ✓道しるべ
12 1分53秒
13 2分25秒
14 2分43秒
15 3分20秒
16 3分37秒
17 3分46秒
18 3分59秒
19 4分07秒
20 4分18秒
21 4分37秒
22 4分44秒
23 5分08秒
24 5分23秒
25 5分28秒
26 5分31秒
27 5分39秒
総数 14 10 1 3

※腹部非満とは、腹部に蜜を溜めていないように見えることです。
※事象番号10は、復路として現れ、引き返したように観察されました。
※事象番号11は、往路を道しるべを付けながら歩いていました。ただ、後を追う個体は観察されませんでした。ちなみに道しるべを付けながら歩いていたクロオオアリは、往路復路共にこの1匹のみでした。

以下は、同じく2回目の4分11秒間の記録を事象ごとに表にまとめたものです。この日はC巣のクロオオアリは現れませんでした。

事象番号 動画開始からの分秒 往路 復路
1 0分00秒
2 0分11秒
3 0分24秒
4 0分40秒
5 0分56秒
6 1分15秒
7 1分33秒
8 2分02秒
9 2分22秒
10 2分23秒
11 2分41秒
12 3分02秒
13 3分16秒
14 3分28秒
15 3分49秒
総数 7 8

以上の2回に渡る観察から、クロオオアリは、往路復路共に個体ごとに通過する道筋が異なることが分かります。このことから、道しるべホルモンによる共通の道はないことが分かります(散水ホースの部分は共通の道になってはいますが、それは「高速道路」として利用しているからでしょう)。更に、道しるべホルモンそのものが使われていないと考えることもできます。クロオオアリは、道しるべホルモンに依存しなくても、また道筋そのものを覚えなくても、生活空間内であれば、目的地まで移動できる能力(何らかの外部要因に依拠)を持っているのかも知れません。

『蟻の自然誌』に見る「道しるべ」記述

『蟻の自然誌』(原題『JOURNEY TO THE ANTS』)は、『蟻』(原題『The Ants』1990年刊行)の4年後(1994年)に同じ著者たちが刊行した著作で、「アリ学の最良のエキスを、なるべく専門用語を減らし、より近づきやすい長さにまとめもの」です。著者は、バート・ヘルドブラーとエドワード・O・ウィルソンです。

本ブログの「ありの行列」を考えるシリーズのその1で、光村図書の3年生の国語教科書の『ありの行列』という教材を取り上げていますが、その著者である大滝哲也氏が、その中で紹介しているのがウィルソンの研究です。
そこで、今回は『蟻の自然誌』の中で、「道しるべ」について触れられている個所を取り上げてみました。なお、引用するのは、辻和希氏と松本忠夫氏が翻訳した朝日新聞社発行(1997年7月25日 第1刷)の書物からです。

「4節 アリのコミュニケーション法」の66ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:アフリカツムギアリ)
「この化学物質は、体節の最後尾の肛門近くにある2つの分泌腺のうち、どちらか一方から出される。どちらの分泌腺も、私たちの研究によって新しく発見されたものである。働きアリが「食べものを発見したからついてきなさい!」と言いたいときには、2つの分泌腺のうちのひとつ、後腸腺からの分泌液を道しるべとして落としながら、食べ物の場所から巣へと走って帰る。途中、他の働きアリに出会うと、頭を振って2本の触角で相手に触る。もし、食べ物が液状のものなら、大腮を開けて吐き戻したサンプルを相手に差し出す。仲間はそれをちょっと味わって、新たに発見された食物資源へと道しるべに沿って走り出すことになる。」

「5節 戦争と外交政策」の99ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:ミツツボアリ)
「ミツツボアリの働きアリは、昆虫をはじめとするさまざまな節足動物を狩る。とくにシロアリが好物だ。偵察アリたちは、落ちた樹の枝や乾いた牛糞の塊の下などによくいる採餌中のシロアリの集団に出くわすと、匂い道しるべを残しながら巣に走って帰る。道しるべの誘引物質は後腸液のなかに含まれていて、これが肛門から地面へと点々と連続的に落とされる。また動員をかけるアリは、帰り道で仲間に出会うとかならず立ち止まり、身体を相手に向けて揺り動かす。道しるべおよび身体の接触という、この組み合わせシグナルが、少人数の採餌部隊をシロアリの場所へとまず誘導する

これらは、私が掲げている仮説(但しクロオオアリについて)とは多いに異なっています。私の仮説を再録しておきましょう。

⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。

ヘウレーカ! なぜアリは行列するのか?

6月6日に、NHK制作の「又吉直樹のヘウレーカ! 『なぜアリは行列するのか?』」という番組が放送されました。アリの行列に関してのテレビ放送としては、昨年の4月15日にも、NHKの Eテレで「なりきり! むーにゃん生きもの学園『アリになりきり』」が放送されています。その際にも、放送内容について、ブログで書いていますのでご参照下さい。

今回の放送では、次のようにアリの行列ができる仕組みを説明しています。

実例としては、モリシタケアリ(クサアリの一種)を取り上げていて、このアリは「いつも行列を作っているアリ」として紹介されています。つまり、上記のアリの行列の説明は、「いつも行列を作っているアリ」の場合としています。NHKの Eテレ放送の「なりきり! むーにゃん生きもの学園『アリになりきり』」では、特定の習性を持ったアリの行列についてと言う断りがなく、アリ一般の行列の仕組みを説明しているかのように受け取れますが、この点で、今回の放送との違いがあります。
上記のアリの行列の説明は、確かに理屈が通っているように思えます。ですが、良く吟味すると引っかかるところもあります。たとえば、「近くでふらふらしていたアリたちもフェロモンに気づき」「エサへと向かう」と説明していますが、フェロモンには方向性はないと考えられますから、どちらにエサがあるかは分からないでしょう。この場合は、出会う仲間に歩く方向を教えてもらうのでしよう。細かなことについては、更に吟味する余地がありそうです。

とは言え、この番組の最も大きな問題点は、アリの行列ができる仕組みを図で説明して終わっていることです。つまり、実写がないのです。アリの行列の説明を観察なしでしているとすれば、それは仮説に過ぎません。

これまでのブログで、いずれもクロオオアリに関してですが、幾度もアリの行列について書いてきました。仮説を立て、実際に観察で確かめてもいます。

マーキングを撮る(2013年6月12日)
アリの道(2016年4月14日)
クロオオアリの行列の起因は?(2016年5月14日)
道しるべ(2016年10月12日)
「ありの行列」を考える その1(2017年4月06日)
「ありの行列」を考える その2(2017年4月06日)
NHK Eテレ なりきり! での道しるべのこと(2017年4月17日)
「ありの行列」を考える その3(2017年4月18日)
「ありの行列」を考える その4(2018年4月10日)
「ありの行列」を考える その5(2018年4月20日)

再録になりますが、 Eテレ放送の際に書いた仮説を引用しておきましょう。

⑴クロオオアリは、自分たちの生活圏内で餌探しをしているので、餌を見つけた時には、道しるべはなくても、自分の巣に帰ることができる。つまり、餌探しをしながら、帰路のために道しるべを付けているのではなく、その必要もない。
ミツバチは、餌を探す際、空中に道しるべを付けようがなく、それでも、餌を見つけて自分の巣に帰ることができるが、アリの場合も同様と考える。

⑵ 餌を探し当てて巣に帰る際にも、道しるべは付けない。帰路は、餌を探していた道とは違った場所を歩いていて、かなり迷っていることもあるが、いずれにしても腹部を地面をつける行為は見られない。
それでも、帰路に道しるべを付けているとした場合、説明しにくいことがある。というのは、餌を見つけて戻ってきたアリが、仲間を連れて再び出かけるまでに10分から15分程経過する。例えば、真夏のかんかん照りの日だったなら、その間にフェロモンはほとんど蒸発してしまうのではないだろうか。

⑶ 仲間を連れて再び出かけるクロオオアリは、観察によれば、直前に戻ってきた道に沿って歩かない。先程の帰路よりは、多くの場合近道になっている。この再度餌場に出かける時に、初めて地面に道しるべを付ける行為を見ることができる。その道しるべを付けながら餌場に向かうアリは、数匹の中の必ず1匹のみで、先頭を行くアリである。この1匹のアリが、先程餌を見つけたアリだと考えられる。
先導する1匹のアリに数匹が右往左往しながら付いていくわけだが、その時に道しるべフェロモンが道しるべとして使われている。仲間が1匹の先導者の直後についていくのだから、フェロモンはまだ蒸発しないで感知できるのだろう。アリの視力はとても悪いようなので、他の動物のように、先を歩く仲間の姿は見えず、フェロモンが唯一有効なのでないだろうか。

「いつも行列を作っているアリ」に関しては、NHKの放送内容が正しいのか、それとも「いつも行列を作っているアリ」もクロオオアリと同じようにして行列を作るのか、とても興味深いところです。

クロオオアリの3通りの歩き方

直前のブログでは、再度、クロオオアリの庭への移植を行ったことを書きましたが、その後、夕刻に見てみると、3つのコロニー共に飼育器の惣菜容器から出ていて、女王アリの姿はありませんでした。その内、BK17057では、水槽の角のところに、外に繋がる穴が空いていました。

水槽の右の角のところに外に通じる穴が空けられていた

その穴を見ていると、働きアリが出入りしているのが分かりました。近くに直径10数ミリメートルの穴があり、そこと行き来していました。両者は、32cm程離れています。その穴は、園芸用の支柱で空いた穴のようにも見えましたが、なぜそこに穴があるのかは分かりませんでした。
働きアリが行き来する様子を、初めは一眼レフカメラで動画を撮りましたが、その後はiPadで撮影しました。
以下は、iPadの撮影データです。

撮影開始時刻 4月23日18時8分15秒
連続撮影時間 30分31秒
① 働きアリの往復の記録(経過時刻と時間) 〈〉内は下の動画の経過時刻
帰路 穴から水槽へ 0分15秒出 → 0分50秒着(0分35秒間)
往路 水槽から穴へ 1分45秒出 → 3分07秒着(1分22秒間)
帰路 穴から水槽へ 4分23秒出 → 4分52秒着(0分29秒間)
往路 水槽から穴へ 6分32秒出 → 7分48秒着(1分16秒間)
帰路 穴から水槽へ 9分06秒出 → 9分39秒着(0分33秒間)
往路 水槽から穴へ 11分24秒出 → 12分47秒着(1分23秒間)
帰路 穴から水槽へ 14分00秒出 → 14分28秒着(0分28秒間)
往路 水槽から穴へ 16分30秒出 → 17分40秒着(1分10秒間) 〈1分03秒 → 2分13秒〉
帰路 穴から水槽へ 22分44秒出 → 23分18秒着(0分34秒間) 〈7分17秒 → 7分51秒〉
往路 水槽から穴へ 24分38秒出 → 25分38秒着(1分00秒間) 〈9分11秒 → 10分11秒〉
帰路 穴から水槽へ 26分54秒出 → 27分29秒着(0分35秒間) 〈11分27秒 → 12分12秒〉
往路 水槽から穴へ 28分51秒出 → 30分26秒着(1分35秒間) 〈13分24秒 → 14分59秒〉

② 探索行動の記録
15分27秒〈0分0秒 下の動画の起点〉に画面左下から現れ、21分41秒〈6分14秒〉に水槽へ帰る

下の動画は30分31秒の原動画を最初からの15分27秒間をカットして、15分4秒にしたものです。

15分4秒の動画

この動画には、クロオオアリの3通りの歩き方が記録されています。以下その3通りの歩き方に触れてみます。
時間経過を数値化した上記の働きアリの往復の記録からは、とても顕著な傾向が読み取れます。「水槽から穴へ」向かう際(往路)には、1分以上(平均時間1分18秒)をかけていますが、「穴から水槽へ」向かう際(帰路)には、30秒程度(平均32秒)の時間です。その時間の違いは、歩く距離の違いではなくて、歩くスビードの違いです。往路では、3歩毎に腹部を曲げて腹部の先を地面につけていますが、帰路では、速く歩きながら時々腹部を曲げています。
また、第3の歩き方は、探索行動をしているかに見える歩き方です。腹部を地面には付けていません。
下の動画は、それぞれの場面を拡大して捉えた動画です。

往路では 20秒の動画

帰路では 20秒の動画

探索では 20秒の動画

ところで、クロオオアリが水槽と穴を何度も往復しているのですが、穴に行く目的のようなものが分かりません。また、観察した限りでは、複数のアリが往路と帰路を同時に歩く場面はなく、交互に往路と帰路を繰り返しているところから、1匹のアリの行動とも考えられます。また、一瞬ですが、15分4秒の動画の9分11秒の時点で、水槽から穴へと向かう直前のアリが、仲間のアリを引っ張る場面があります。穴への引越を促す行動だったのでしょうか。

「ありの行列」を考える その5

「ありの行列」を考えるブログシリーズの仮説
⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。
今回のブログでは、上記仮説の⑴⑵に言及します。

まず、今回のフィールドについて、下の写真をご覧下さい。

アリの行列を観察したフィールド(アリが実際に歩いた経路の概略も示している)

イチゴを植えている箇所

今年の4月4日のブログ「2018 移植の試み」の2日後の6日、移植した箇所に何箇所か蜜器を設置しておきました。それから、ほぼ毎日、移植したクロオオアリが、この蜜を吸いに来ているか見ていましたが、その気配はありませんでした。ところが、今日になって、この蜜器にクロオオアリが1匹来ていました(午前8時1分ごろ)。このクロオオアリは、中型の働きアリでしたので、この度移植したコロニーの働きアリではないことが分かりました。そこで、「アリの行列」として観察することにしたのですが、このアリが帰路につくとすぐに見失ってしまいました。
ところが、間もなく、すぐ近くにある隣の、やはり移植したコロニー用に設置していた蜜器にも1匹のクロオオアリがいるのに気づきました。このクロオオアリも中型の働きアリでしたので、この度移植したコロニーの働きアリではないことが分かりました。そこで、再度「アリの行列」として観察することにしました。

行列の経路は、上の写真のようでした。詳しく辿ってみましょう。(分・秒は下の動画の時点)
動画は、1匹のクロオオアリの働きアリが、蜜を吸い終わったところから始まります(午前8時11分)。やがて、蜜器を設置している測量杭を下り、地面に下りてきます(1分29秒後)。ところが、歩く方向が定まりません。1分57秒もの間、ほぼ同じ場所を歩き回っています。やっと、イチゴ園の直下の土の坂を登り始めます(3分26秒の時点)。そして、14秒後にイチゴ園の木枠に到達し(3分40秒の時点)、登り詰めると(A地点)板の厚みに当たる面の上を素早く走り去ります。ここで、カメラはアリを見失い、イチゴ園を横切ったところで、再びこのアリを捉えます。アリは、方向を迷うことなくどんどんと芝の斜面を登って行きます。途中、木製の角杭の向こうを通ります。そして、7分0秒の時点で、芝生の中へ姿が見えなくなります。ここに巣口があるようです。動画はそれから10秒間続きますが、再びアリたちが現れる10秒前までの10分28秒間はカットしてあります。
先導するアリは、地面に腹部の先をリズミカルに付けながら歩いていきます。それを追うアリは3匹で、先頭集団のこの4匹は、途中、木製の角杭の上(横)を歩きます(9分05秒の時点 撮影開始からは+10分28秒)。それから、イチゴ園を横切るのですが、今度もカメラはアリを見失い、イチゴ園を横切ったところで、再びこのアリたちを捉えます。その時、このアリ集団は、A地点を通り過ぎて(11分38秒の時点 撮影開始からは+10分28秒)、その箇所で下へと下りては行きません。すぐ後に、カメラがアリたちを捉えた時(12分12秒の時点 撮影開始からは+10分28秒)は、もう既に、イチゴ園の木枠を通り過ぎていましたが、その場所のすぐ上(B地点)から下りてきたと思われます。しばらくは、餌場の方向へと進みますが、蜜器の近くでこの集団は迷った行動を取ります。やがて、蜜を見つけて帰路についた時の方角とは違う向きから、先導していたアリが境界杭を上り始め、他の2匹のアリも境界杭を上り始めます。それからしばらくして、先頭集団にいた4匹目のアリも境界杭に到達します。

16分43秒の動画

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「ありの行列」を考える その4

昨年は3回に渡って、「ありの行列」について言及してきました。今年は、主にビデオを活用して「ありの行列」について考察していきたいと考えています。

「ありの行列」を考えるブログシリーズの仮説
⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。
今回のブログでは、上記仮説の⑴⑵に言及します。

まず、今回のフィールドについて、下の写真をご覧下さい。

アリの行列を観察したフィールド(アリが実際に歩いた経路の概略も示している)

観察を行ったのは4月10日です。上の写真では、奥に餌場があり、手前に巣の出入り口があります(両者は直線距離で3.8m離れています)。次の動画では、餌場を見つけた1匹のクロオオアリが、蜜を吸っているところから動画が始まります。

14分13秒の動画(撮影開始から撮影終了まで無編集です) クロオオアリは、3分43秒後に巣に帰り、再び出てくるのは7分34秒後です。その間の3分51秒間は、中飛ばしでご覧になれます。

この蜜場は、当日初めて設置したものです。そのようにしたのは、アリの今回の行動が、過去の何らかの行動に影響されないようにするためです。今回の観察では、上記の仮説を一般化するため、「クロオオアリが、初めての場所で餌を見つけた時、どのように行動するか」を調べています。
さて、上の動画からは、次のことが分かります。

①帰路と往路は同じ道にはなっていない。
蜜を吸い終わったクロオオアリは、蜜器から下りると巣のある方に向かって土の上を歩き始めます。ところが、往路では、蜜器に近づいた時、散水ホースを越えて(12分46秒の時点)コンクリートブロックの上を歩いて蜜器に到達します。
また、巣口近くでは、帰路では清水白桃の苗木を植えている周りの土の上を歩いています(3分6秒の時点)が、往路では、土のある場所には踏み入らず、芝生の上を歩いています。
また、全体的に、帰路と往路の道はずれています。

②往路の時のみに道しるべを付けている。
帰路の際には、道しるべを付ける動きはありませんが、往路では、先頭のアリが芝や地面に腹部をリズミカルに曲げて歩く様子が見られます。(先頭のアリが4匹のクロオオアリを誘導しています)

帰路と往路が一致していれば、帰路の際に道しるべを付けているのではないかと考えられますが、観察の結果は、帰路と往路は一致していません。ですから、道しるべは、②のように、往路の際のみに付けていると考えるのが妥当です。
なお、この観察では、蜜を見つけたアリが、往路を先導したアリでもあると考えてはいますが、これは、これまでの経験上そのように考えてのことです。蜜を見つけたアリに何らかの印をつけたわけではないため、厳密には断定はできません。

クロオオアリが出てきた 2018年春

自宅の庭のクロオオアリが地上に出てきました。B巣の近くです。

初めに見つけたのはこの1匹の働きアリだった 11時30分撮影

昨年は、3月26日に初めて地上でクロオオアリを見かけましたので、1日違いです。昨日から急に温かくなり、今日は岡山市で最高気温が19.5℃まで上がりました。また、今日、岡山気象台は桜の開花宣言をしました。
午後、再びB巣の近くに行って見ると、はやりクロオオアリの姿がありました。そこで、巣口がどこにあるかを知るために、蜜を与えることにしました。散水ホースを伝って歩いているアリがいたので、進行方向のすぐ前に蜜をたらしました。すると躊躇なく蜜を吸い始めました。

蜜を吸い始めたクロオオアリ 14時33分撮影

腹部が膨れてきた 14時35分撮影

やがて、巣へと帰り始めました。その進む方向は、昨年巣口があった方向ですが、迷いながら歩いていて、なかなか巣にたどり着けないでいました。一面が芝地であるため、巣穴が露出していないのも一因になっているのかも知れません。結局、芝の中に姿が消えましたが、巣穴の位置は、はっきりとはしませんでした。
別の働きアリもいて、同じく散水ホースを伝って歩いていたので、そこにも蜜をたらしました。

14時45分撮影

同時刻に、散水ホースの上に更に2匹のクロオオアリがいました。

後方に見える黒いのが測量杭 14時45分撮影

その場所は、先程、蜜器に蜜を入れて載せておいた測量杭のすぐ横でした。測量杭に上って行くか見ていると、やがて上りかけました。

測量杭を上るクロオオアリ 14時46分撮影

ですが、途中で引っ返しましたので、蜜を見つけはしませんでした。
しかし、やがてもう一匹の方のアリが測量杭を上り、蜜を吸い始めました。

14時52分撮影

それからしばらくすると、この蜜器に集まるアリが多くなりました。

15時4分撮影

その後も蜜を見つけたアリが仲間を呼んできたのですが、その様子を見ていると、以前にも何度も触れているように、蜜を見つけて巣に戻る時は、迷いがちに戻っていき、再び巣から出て蜜のある場所に行く時は、ほとんど迷いなく歩いて行きます。ここで特筆すべきは、蜜のある場所に行く時にだけ、数歩歩いては、一瞬立ち止まって腹部の先を地面等に付けながら歩くことです。それを繰り返しながら進むので、先頭のアリだけですが、リズミカルに歩いているように見えます。ちなみに、後を着いて行くアリは、腹部の先を地面等に付けるようなことはしません。

先頭のアリが腹部を曲げているところ 15時15分撮影

同じく先頭のアリが腹部を曲げているところ 15時15分撮影

ところで、巣口の位置ですが、クロオオアリの出入りが多くなったので、分かってきました。昨年の終わりの頃の巣口は、B巣には2箇所あり、82cm離れたところにありました。

昨年末は、白のビニールテープを貼っている竹串のところに巣口があった

今年の巣口は、少しずれた所にありました。

左の枯葉の下端に巣穴がある

竹串のすぐ横に巣穴がある 巣穴に入ろうとするクロオオアリの腹部が見えている

更にクロオオアリが増えていた 15時35分撮影

夜の9時頃に蜜器を見てみると、蜜は完全に無くなっていました。クロオオアリの姿は、蜜器にも地面にもありませんでした。

NHK Eテレ なりきり! での道しるべのこと

先日の4月15日放送のNHK Eテレ「なりきり! むーにゃん生きもの学園『アリになりきり』」で、道しるべについて触れている箇所があります。(再放送は、4月20日(木)午後3:45~午後4:00)

①(白い紙のようなものの上を歩くアリの跡を追ってピンク色の線が引かれていく映像を映しながら)
「最初に食べ物を見つけたアリは、お尻の先んちょから、フェロモンをチョロチョロ出しながら巣に戻る」「うん」

②(巣と食べもの結ぶピンク色の点線を書き込んだ写真を映しながら)
「そのフェロモンを辿るちゅーと」「どれどれ、あー、道ができた」

③この後、アリになりきって、道しるべを体験します。体育館に草むらの小道具を5つ設置し、その中の一つの裏側にキャンディーを置いておきます。最初、3人の小学生が、そのキャンディーを探しに行きます。その際、サンダルの裏面にスタンプを貼り付け、歩くと白い模造紙に足跡がつくようにしておきます。スタートし、1人がキャンディーを見つけます。この子は、自分が歩いた足跡のスタンプに沿って元の場所に戻っていきます。(ナレーション:「キャンディを取ったら、自分が残したフェロモンスタンプを目印に巣まで帰ってね」

この放送の内容について、私の考えを記しておきます。
⑴ 上記①の映像についてですが、「お尻の先んちょから、フェロモンをチョロチョロ出しながら」という説明がつけられていますが、そうしている様子が見受けられません。腹部の先が白い紙に触れていませんし、所々で白い紙に触れるように腹部を動かしている様子もありません。それでも、フェロモンを出しながら歩いているというのならば、空中からフェルモンを発射していることになります。わずかなら白い紙(地面)に付くでしょうが、とても効果の低い方法になります。

⑵ ①と②のアリの種類は違うようです。そのことは問題ではありませんが、この2種のアリは、餌を見つけた帰路に道しるべをつけながら帰り、その道しるべに沿って再び餌にたどり着くと言っているのです。

⑶ ③からは、アリは餌探しをする時、常にフェロモンによる道しるべを付けながら歩いているということになり、その道しるべがあるから、餌を見つけた時は迷わずに巣に帰ることができるということになります。でもそうなのでしょうか。長時間に渡ってあちこちを歩き回って餌探しをしていると、フェロモンはやがて尽きてしまうでしょうし、そうでなくても、随分と時間が経過した道しるべのフェロモンは、もう感知できないほど薄れているはずです。仮にそうでなくても、確かに「餌を見つけた時は迷わずに巣に帰る」ことはできますが、あちこち歩いていたのですから、無駄にとても大回りをして巣へと帰ることになります。

私は、クロオオアリに限ってという限定付きですが、次のように考えています。(まだ仮説の段階ですが)
⑴クロオオアリは、自分たちの生活圏内で餌探しをしているので、餌を見つけた時には、道しるべはなくても、自分の巣に帰ることができる。つまり、餌探しをしながら、帰路のために道しるべを付けているのではなく、その必要もない。
ミツバチは、餌を探す際、空中に道しるべを付けようがなく、それでも、餌を見つけて自分の巣に帰ることができるが、アリの場合も同様と考える。

⑵ 餌を探し当てて巣に帰る際にも、道しるべは付けない。帰路は、餌を探していた道とは違った場所を歩いていて、かなり迷っていることもあるが、いずれにしても腹部を地面をつける行為は見られない。
それでも、帰路に道しるべを付けているとした場合、説明しにくいことがある。というのは、餌を見つけて戻ってきたアリが、仲間を連れて再び出かけるまでに10分から15分程経過する。例えば、真夏のかんかん照りの日だったなら、その間にフェロモンはほとんど蒸発してしまうのではないだろうか。

⑶ 仲間を連れて再び出かけるクロオオアリは、観察によれば、直前に戻ってきた道に沿って歩かない。先程の帰路よりは、多くの場合近道になっている。この再度餌場に出かける時に、初めて地面に道しるべを付ける行為を見ることができる。その道しるべを付けながら餌場に向かうアリは、数匹の中の必ず1匹のみで、先頭を行くアリである。この1匹のアリが、先程餌を見つけたアリだと考えられる。
先導する1匹のアリに数匹が右往左往しながら付いていくわけだが、その時に道しるべフェロモンが道しるべとして使われている。仲間が1匹の先導者の直後についていくのだから、フェロモンはまだ蒸発しないで感知できるのだろう。アリの視力はとても悪いようなので、他の動物のように、先を歩く仲間の姿は見えず、フェロモンが唯一有効なのではないだろうか。

これまでの観察から、以上のように考えていますが、餌を見つけた帰路に道しるべを付けないとしたら、餌の場所をどのように記憶しているのか、その仕組みについてはまだ仮説さえ考えられていません。ミツバチの場合はというと、道しるべを空中に印すことなく、その餌場を記憶して仲間に伝えているのですが……。
クロオオアリはいったいどのようにして餌場を記憶するのでしょうか。明らかにしたいものです。

「ありの行列」を考える その1

光村図書の3年生の国語教科書に、『ありの行列』という教材があります。もうずいぶん古くからある教材で、私が知る限りでは1977年以前からありました。この教材は、光村図書の教科書のために大滝哲也氏が書き下ろした文章で、ハーバード大学教授のウィルソン氏(Edward Osborne Wilson)の研究に基づいて書かれています。

その文章の中で、「ふしぎなことに、その行列は、はじめのありが巣に帰るときに通った道すじから、外れていないのです。」という記述があります。最初に餌を見つけたアリが巣に戻ったあと、巣から出てきたアリたちは、最初に餌を見つけたアリが歩いた道通りに餌へと向かうと言うことです。
また、研究の結果、分かったこととして「はたらきありは、えさを見つけると、道しるべとして、地面にこのえきをつけながら帰るのです。ほかのはたらきありたちは、そのにおいをかいで、においにそって歩いていきます。そして、そのはたらきありたちも、えさをもって帰るときに、同じように、えきを地面につけながら歩くのです。」と書かれています。

この考えは、今日でも正しいとされています。次に引用するのは、1988年に書かれた著書からではありますが、次のような記述があります。

「一匹のアリが砂糖を見つけると、仲間を呼んできてたちまち黒山のアリだかりができることは、皆さんもご存知のとおりである。一昔前までは、餌を見つけたアリが触角で仲間に餌場を知らせるものと思われていた。二匹のアリが触角と触角を触れ合って挨拶する姿はよく見うけられるから、この話はいかにももっともらしく聞こえる。しかし、実際はまったく違った方法を用いていることがわかってきた。餌を見つけた働きアリは、尻の先から匂物質を分泌して、それを一定間隔で地面につけながら巣に戻るのである。匂物質は次第に拡散してアリの通った道を中心に匂いのトンネルができる。このような匂いのトンネルは時間とともにうすれ、数分後には消失してしまう。そのわずかな時間の間に別のアリがこの匂いの道を横切ると、そこを逆にたどって餌を見つけることができるのである。そしてまた、匂いの道しるべをつけながら巣に戻っていく。この方法だと、餌のある間は次々に仲間が集まってきて、匂いの道は強化される。しかし、一たん餌がなくなると、だれも匂物質を出さなくなるので、匂いの道は自然に消えてしまう。 実に巧妙な方法である。」

ここでは、これらの説に共通している次の2点に注目したいと思います。

①最初に餌を見つけたアリは、匂いの道しるべを付けながら巣に戻る。
②餌を見つけた2匹目以降のアリも、巣に戻る際には匂いの道しるべを付けながら巣に戻る。

上記2点は、極く普通に見られるアリについて言えることとされているのですが、本当にそうなのでしょうか。
私は主にクロオオアリとムネアカオオアリの生態を観察しているのですが、ここでは、クロオオアリに限ってと言う限定付ですが、上記①②はいずれも、誤りであると考えています。では、どう考えているかと言うことですが、次のような仮説を立てています。

⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。

以後、幾回かに渡って、これらの仮説を検証してみたいと思います。