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一時的社会寄生の試みを継続 寄生時期と成功率の関係は?

一時的社会寄生の試みを13日に始めて15日にトゲアリの死亡という結果になったことは、前回のブログで報告しています。
その15日と16日に、同様の方法で、トゲアリの女王アリが同様のクロオオアリのコロニー(2024年5月18日に新女王アリを採集)に寄生するよう試みました。
寄主は、BH240518-11・12・13・14(以上15日寄生開始)、15・16・17・18・20・21(以上16日寄生開始)の9コロニーです。

化粧行為が見られた 寄主はBH240518-13 9月15日14時21分撮影
背面からクロオオアリの首を咬もうとしている 寄主はBH240518-15  9月16日10時44分撮影
腹面からクロオオアリの女王アリの頸に咬みついていた 寄主はBH240518-16 9月16日11時25分撮影
背面からクロオオアリの首を咬もうとしている 寄主はBH240518-18 9月16日17時3分撮影

上に挙げた4枚の写真の様子は、寄生成功への一歩となる行為ですが、実は9例を通して極く希な事例です。ほとんどの場合、化粧行為はなく、またクロオオアリの女王アリを襲おうとはしていませんでした。
トゲアリの女王アリ9匹は、9月17日までに全て殺されてしまいました。

今年は、9月13日から10例で寄生を試みたのですが、何れも寄生に失敗したことになります。寄生成功率が0%と言う結果ですが、なぜそのようになったのか、明言はできないのですが、寄生を開始させる時期によるのではないかと考えています。
自然界では、結婚飛行の直後から寄生行動が始まっていると思われるのですが、今回の一連の寄生の試みを始めたのは、5日後から8日後でした。
そこで、寄生を開始させる時期が、寄生の成功率と関係があるのかどうかを過去の事例を参照して考察してみます。

2018年の場合は、トゲアリの女王アリを9月19日に採集し、3日後の22日に寄生を試みています。サンプルは1例で、寄生に成功しています。
2021年の場合は、トゲアリの女王アリを9月12日に採集し、4日後の16日に寄生を試みています。サンプルは2例で、1例が寄生に成功しています。
2022年の場合は、トゲアリの女王アリを9月10日に採集し、2日後3日後の12日・13日に寄生を試みています。サンプルは5例で、5例共に寄生に成功しています。

ちなみに以上挙げたこれらは、何れもトゲアリの女王アリを直接クロオオアリのコロニーに入れるという方法をとっており、今年の場合と寄生の方法は同じです。
これらのデータを見る限りでは、上記の寄生方法ではと言う条件付きですが、結婚飛行後より早い時点で寄生を試みる方が、寄生の成功率は高いと言えそうです。

一時的社会寄生のトゲアリ4例の様子(2024年6月28日)

2022年9月に行ったトゲアリの一時的社会寄生5例の試みの内、4例の様子(1例の様子)を記録しておきます。(前回6月2日の5例の様子はこちらを参照)

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

6月2日には幼虫が2匹だったが、今回は幼虫がそれより多い
卵が多数ある

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

卵が多数ある
女王アリの腹部はとても大きく膨らんでいる

6月2日にはいた越冬幼虫2匹はいなくなっていました。その2匹が羽化したのか死亡したのかは判別できませんでした。
6月2日にも卵が多数ありましたが、6月28日時点でも孵化していませんでした。

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

女王アリが人工巣の上面(活動スペース)に出ていて、卵を咥えていた
巣室にも卵がある

6月2日にも卵が多数ありましたが、6月28日時点でも孵化していませんでした。

トゲアリの2コロニーの様子

T180919T210912-02の様子については、4月10日のブログで触れています。それからほぼ2ヶ月弱の6月5日の様子を記録しておきます。

1)T1809192018年9月22日 B15002(2015/05/15採集)に進入〉

人工巣リトルアンテシェルフを小型水槽の中に入れて飼育している
シェルフ2段に幼生虫がいる

2)T210912-022021年9月16日 BK170530-040(2017年5月30日採集)に進入〉

人工巣リトルアンテシェルフを活動室アンテグラウンドⅢに繋げて飼育している
シェルフ4段に幼生虫がいる

T180919とT210912-02を比べてみると、一時的社会寄生が始まった時期に3年の隔たりがあるのですが、むしろ遅くから寄生を始めたT210912-02の方が大きなコロニーになっています。
その差の要因が、単に女王アリの個体差なのか、飼育環境によるものなのかは不明です。

T20220910-67が今年も産卵 昨年は孵化せず

トゲアリの寄生の試み 5のT20220910-67が産卵していました。
ほぼ2週間前の4月10日の観察の際には、トゲアリの越冬幼虫はいませんでした。ただ、女王アリの腹部がかなり膨らんでいました。

女王アリの腹部はかなり膨らんでいる トゲアリの成虫も幼生虫もいない 4月10日撮影
卵が3個程ある 4月25日撮影

T20220910-67は、昨年も産卵をしていましたが、その卵が9月になっても孵化していませんでした。
今年は孵化して成虫になるでしょうか。

一時的社会寄生のトゲアリ5例の様子(2024年4月10日)

この寄生トゲアリの5例の様子は、前回は今年の1月15日に取り上げています。この5例は、何れも2022年の9月に寄生を始めたコロニーです。

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

ここでも昆虫を分解しているのはトゲアリだ 4月10日撮影
越冬幼虫が多数育ちつつある 女王アリの頭部が写っている 4月10日撮影

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

クロオオアリはまだ多数いるが、トゲアリの成虫も越冬幼虫もいない 4月10日撮影
女王アリの腹部は膨らんでいる 4月10日撮影

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

育ち始めている越冬幼虫が見られる 4月10日撮影
女王アリも健在だ 4月10日撮影

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

クロオオアリの数は少なめだ トゲアリの成虫も越冬幼虫もいない 4月10日撮影
女王アリの腹部はかなり膨らんでいる

宿主のクロオオアリはまだ生存しています。何れも2022年の9月に寄生されたクロオオアリのコロニーですから、今生存しているクロオオアリは遅生まれで2022年生まれか(寄生の試みの全て)、越冬して2023年生まれか(寄生の試みの3と4)になります。

以前からのトゲアリ3例の様子(2024年1月31日)

2022年の9月に寄生を始めた5例のトゲアリのコロニーの様子については、1月15日に触れています。この5例の他には、それ以前から飼育しているトゲアリのコロニーが3例あります。
その内、最も古く、また最も大きなコロニーになっているのは、T140906-40です。
(2012年6月14日にクロオオアリの新女王アリを採集したコロニー〈B-NESTCON01024〉に2014年9月11日に寄生開始)

T180919は、2015年5月15日に新女王アリを採集したクロオオアリのコロニー(B15002)に2018年9月22日に寄生を開始したトゲアリのコロニーです。

T210912-02は、2017年5月30日に新女王アリを採集したクロオオアリのコロニー(BK170530-040)に2021年9月16日に寄生を開始したトゲアリのコロニーです。

トゲアリの働きアリがとても増えているのがわかる
棚の上段にはクロオオアリが多数見られる

一時的社会寄生のトゲアリ5例の様子(2024年1月15日)

この寄生トゲアリの5例の様子は、昨年の9月7日に取り上げて以来となります。この5例は、何れも2022年の9月に寄生を始めたコロニーです。

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

寄生が順調なようだ

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

昨年の9月同様トゲアリの働きアリはいない
トゲアリの女王アリは健在のようだ トゲアリの越冬幼虫はいない

昨年の9月にはトゲアリの女王アリが卵を産んでいましたが、育たなかったようです。

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

昨年の9月同様トゲアリの働きアリはいない
トゲアリの女王アリは健在のようだ トゲアリの越冬幼虫はいない

昨年の9月には、トゲアリの卵が多数ありましたが、育たなかったようです。

ちなみに、同世代のクロオオアリのコロニーの様子です。

働きアリがとても多い
越冬幼虫が多数見られる

一時的社会寄生のトゲアリ5例の様子(9月7日)

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

8月2日には、トゲアリの働きアリが1匹でしたが、16匹ほどになっています。また、蛹と幼虫が見られ、恐らくトゲアリの幼生虫だと思われます。

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

元々女王アリがいた巣部屋
別の巣部屋 女王アリがこちらにいた

大きなトゲアリの寄生コロニーになってきています。卵はないようですが、幼虫と蛹があります。

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

8月2日の時点でもトゲアリの働きアリはいませんでしたが、今回もトゲアリの働きアリはいませんでした。この時、トゲアリの女王アリが卵を咥えていました。

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

8月2日には、トゲアリの働きアリは4匹でしたので、トゲアリのコロニーが大きくなってきています。

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

8月2日の時点でも卵でしたが、今回も卵のままでした。ところで、5月27日の時点でも卵でしたので、少なく見積もっても2ヶ月以上卵のままと言うことになります。

一時的社会寄生のトゲアリ5例の様子(8月2日)

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

T20220910-53では、既に1匹が羽化していましたが、死んでいます。写真の1匹のトゲアリは、その後に生まれたのでしょう。

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

一時的社会寄生のトゲアリ5例の中で最初に羽化があったコロニーです。卵の他、小さな幼虫が多数います。トゲアリが幼生虫の世話を始めているようです。

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

まだ羽化したトゲアリはいない
となりの部屋にも繭があった

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

7月26日から羽化が始まりました。それから1週間後(8月2日)には働きアリが4匹になっています。

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

繭がない
トゲアリの卵だが、孵化していない

5月27日の時点でも卵でした。少なく見積もっても、8月2日までには、67日あり、2ヶ月以上になります。直短寄生のT20220910-18では、5月30日に卵を2個観察していて、この場合も卵の期間が2ヶ月以上になっています。

一時的社会寄生のT20220910-44でも働きアリが生まれる

7月26日、トゲアリの寄生の試み 4(BH210523-23にT20220910-44が寄生 )で働きアリが1匹羽化していました。T20220910-54T20220910-53に続いて3例目になります。

7月26日21時02分撮影

ちなみにT20220910-54は、羽化した働きアリが11匹になっていました。

トゲアリの働きアリが11匹になっていた 7月26日20時57分撮影

羽化したトゲアリがいなくなった

7月20日に、一時的社会寄生のT20220910-53でも働きアリが1匹羽化していたことについて、既に21日のブログで取り上げていますが、24日、そのトゲアリの働きアリが人工巣の中からいなくなっていました。翌日にも再度人工巣の中を見ましたが、やはりトゲアリの働きアリはいませんでした。不思議なことに、死体も見当たりませんでした。

トゲアリの働きアリがいない 7月25日20時57分撮影

振り返ってみると、気になることがありました。
21日のブログの写真では、羽化した翌日、トゲアリの働きアリは、女王アリがいる部屋にはいませんでした。
また、22日にもトゲアリの働きアリの様子を写していますが、クロオオアリがトゲアリの肢を咬んでいました。

7月22日22時05分撮影

恐らくこのトゲアリの働きアリは、クロオオアリに殺されたのでしょう。

一時的社会寄生のT20220910-53でも働きアリが生まれる

一時的社会寄生のT20220910-54では、7月16日には働きアリが2匹生まれていましたが、7月20日、T20220910-53でも働きアリが1匹羽化しました。

羽化して間近のようだ まだ僅かに外皮が残っている クロオオアリは羽化の介助をしているのだろうか 7月20日22時48分撮影
羽化が完了したのだろうか 独り立ちしている 22時50分撮影

翌日見ると、このトゲアリの働きアリは、女王アリがいる飼育室の隣りの部屋にいました。

飼育室の隣りの部屋にいる羽化後のトゲアリの働きアリ 7月21日20時32分撮影

T210912-02が活動室に出てくるようになった

今年の6月7日のブログで、トゲアリのT210912-02が、初めて活動室(アンテグラウンドⅢ)に出て来たことについて触れていますが、7月18日には、複数のトゲアリの働きアリが活動室に出てくるようになっていました。

この時は活動室の中にトゲアリの働きアリが2匹いた 7月18日20時27分撮影

たった1例のトゲアリの寄生」のT180919(2018年9月22日クロオオアリのコロニーに寄生開始)では、2020年の5月末頃になってトゲアリの働きアリが巣から出てきているところを見ています。
T210912-02の場合も、寄生から2年後の6月初めに働きアリが巣から出て来たところを見ていますので、トゲアリが外勤を始めた時期が両者でほぼ一致しています。たったの2例の観察に過ぎませんが、一時的社会寄生の初期の段階では、トゲアリの働きアリは誕生した年には外勤はせず、その翌年になって巣から出て来るようです。

一時的社会寄生のT20220910-54で働きアリが生まれる

昨年行ったトゲアリの寄生の試みについては、前回は5月27日のブログに記載しています。
そのうち、「トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )」で、7月16日、トゲアリの働きアリが2匹誕生していました。

1匹目 羽化直後の外皮の除去中なのだろうか クロオオアリがトゲアリに何かをしているようだ 22時38分撮影
2匹目 クロオオアリに触角を咬まれているように見える 22時39分撮影
コロニーの全体の様子 羽化間近の繭が見える トゲアリが産んだ卵も多数ある 22時41分撮影

T20220910-54では、トゲアリの働きアリが誕生したことで、一時的社会寄生が大きく次の段階に入ったと言って良いでしょう。

トゲアリの寄生の試み その後(5月27日)

昨年行ったトゲアリの寄生の試みについては、前回は1月9日のブログに記載しています。

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

卵が多数ある 女王アリの腹部が異様に膨らんでいる

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

同じく卵が多数ある 女王アリの腹部が異様に膨らんでいる

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

同じく卵が多数ある クロオオアリの繭も見られる 女王アリの腹部が異様に膨らんでいる

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

同じく卵が多数ある クロオオアリの繭と幼虫も見られる 女王アリの腹部が異様に膨らんでいる

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

卵は少し少なめだ 女王アリの腹部が異様に膨らんでいる

T210912-02のトゲアリのコロニー(5月27日)

2021年の9月16日に、クロオオアリのコロニーBK170530-40に、トゲアリの新女王アリT210912-02を寄生させたコロニーでは、順調にトゲアリの幼生虫が増えて来ているようです。

子育てはトゲアリが主体となっているようだ 5月27日14時52分撮影
幼生虫は全てトゲアリ 14時59分撮影
トゲアリの女王アリ 腹部が大きく膨らんでいる 腹部が透けて卵が見えているのだろうか 14時56分撮影

トゲアリの寄生の試み その後(1月9日)

以下は1月9日の様子です。何れも、寄生が順調なようです。

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

T20220910-53 1月9日17時1分撮影

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

T20220910-54 1月9日17時3分撮影

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

T20220910-65 1月9日17時4分撮影

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

T20220910-44 1月9日17時5分撮影

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

T20220910-44 1月9日17時7分撮影

トゲアリの寄生の試み その後(10月30日)

以下は10月30日の様子です。何れも、寄生が順調なようです。

トゲアリの寄生の試み 1 (BH210523-18にT20220910-53が寄生 )

女王アリの様子
他の部屋の様子(一部)

トゲアリの寄生の試み 2 (BH210523-19にT20220910-54が寄生 )

女王アリの様子
他の部屋の様子(一部)

トゲアリの寄生の試み 3 (BH210523-21にT20220910-65が寄生 )

女王アリの様子
他の部屋の様子(一部)

トゲアリの寄生の試み 4 (BH210523-23にT20220910-44が寄生 )

女王アリの様子
他の部屋の様子(一部)

トゲアリの寄生の試み 5 (BH210523-29にT20220910-67が寄生 )

女王アリの様子
他の部屋の様子(一部)

活動室に出て来ない今年生まれのトゲアリ

昨年の9月16日に寄主のBK170530-040(2017年5月30日に採集したクロオオアリの新女王アリ)のコロニーに寄生を始めたトゲアリの新女王アリ(S/N:T210912-02)の初期コロニーのその後ですが、順調にトゲアリの働きアリが増えています。トゲアリの働きアリは、一箇所に塊を作っています。

トゲアリの働きアリの塊が見える 10月25日15時5分撮影

活動室(アンテグラウンドⅢ)には、クロオオアリの働きアリがいます。トゲアリの働きアリが羽化後(最初の羽化を今年8月9日に確認)活動室に出て来ているところは、一度も見ていません。

活動室に出て来ているクロオオアリの働きアリ トゲアリの働きアリはいない 10月25日15時10分撮影

2020年5月29日のブログ「外勤が少ないトゲアリ」でも触れていますが、クロオオアリの働きアリがまだ多数いる環境では、トゲアリの働きアリはほぼ外勤はしないようです。
かつて私は1966年に、トゲアリとクロオオアリの共存巣を発見し、そのことを『昆虫と自然』(1966年10月号)に投稿しています。その中で、「このトゲアリの生態に関する想像や観察したことを述べておく」として、「4.野外でのえさ捜しには、トゲアリの働きアリは参加せず、巣の中でじっとうずくまっているだけである」と述べています。
この56年前に野外で観察したトゲアリの働きアリの生態と、飼育下で観察した上述の2つの例が示す生態(クロオオアリの働きアリがまだ多数いる環境では、トゲアリの働きアリはほぼ外勤はしない)が一致していることが分かります。

多雌寄生を試みる

ある方から次のようなコメントをいただきました。

「昔、野外でトゲアリの巣をまるごと採集しましたが、そのコロニーには女王が3匹いました。以前、結婚飛行後の新女王がクロオオアリの巣口周辺に複数集まってきている光景を見たことがあります。推測ですがトゲアリの多雌は多くの雌が同じ寄生先に侵入した結果、成立したものと考えてます。
現在、トゲアリ新女王がクロオオアリ女王の頭を落としたとのことですが、このタイミングで更に女王を複数投入すれば多雌になると思います。これは自分もチャレンジしたことがないので断定できませんが…」

そこで、トゲアリの多雌コロニーを作る試みをすることにしました。今回は、「トゲアリ新女王がクロオオアリ女王の頭を落としたとのことですが、このタイミングで更に女王を複数投入」するのではなく、最初から複数匹のトゲアリの女王アリを入れることにしました。つまり、「結婚飛行後の新女王がクロオオアリの巣口周辺に複数集まってきて」、その後間もなく複数匹のトゲアリの女王アリがクロオオアリの巣の中に入ったと想定してのことです。頭が落ちてからではありません(頭が切り落とされるまでには何日か掛かることが分かっています)。
実は2013年の9月27日にも同様の試み「トゲアリの女王アリを2匹入れると」をしています。今回は、4匹のトゲアリの女王アリを寄生させます。
9月23日、寄主をクロオオアリのコロニーS/N:BH210523-60(新女王アリを昨年の5月23日に採集)とし、トゲアリの新女王アリT20220910-1とT20220910-2とT20220910-3とT20220910-4(何れも9月10日採集)を寄生させました。

寄主のBH210523-60 リトルアンテシェルフの中に入れている 9月23日9時16分撮影
コロニーの様子 9月23日9時16分撮影

T20220910-1を飼育しているクリアカップの中にクロオオアリの働きアリを1匹入れたのですが、互いに接触を避けていました。T20220910-2でもクロオオアリの働きアリとの接触を避けているようでしたので、化粧行為がないまま、順次2匹をBH210523-60のアンテシェルフの中に入れました。

トゲアリの女王アリがクロオオアリの女王アリのいる塊に向かう 9月23日9時37分撮影
クロオオアリの女王アリに咬みつくことができず働きアリに取り押さえられている 9時39分撮影

T20220910-1とT20220910-2は化粧行為をしないまま寄主に入れましたので、それを改善するため、接触の機会がより多くなるように、T20220910-3とT20220910-4とT20220910-5では、クリアカップよりも狭いフィルムケースの中にトゲアリの女王アリとクロオオアリの働きアリを1匹ずつ入れました。しかし、このようにしても化粧行為は起こりませんでした。

フィルムケースの中のトゲアリの女王アリとクロオオアリの働きアリ 化粧行為は起こらなかった 10時2分撮影

今回も、化粧行為がないままBH210523-60のコロニーの中に入れました。

右のトゲアリはクロオオアリの働きアリに取り押さえられている 10時13分撮影
トゲアリの1匹がクロオオアリの女王アリに取り付こうとしている 10時13分撮影
クロオオアリの働きアリに取り押さえられたトゲアリ 10時17分撮影

4匹のトゲアリの女王アリ共に、しばらく経ってもクロオオアリの女王アリに咬みつくことができず、働きアリから拘束されることが多くなりましたので、殺されるリスクを考え、4匹とも救出しました。そして、クロオオアリの女王アリをコロニーから取り出してクリアカップに入れ、クロオオアリの働きアリがいない状態でトゲアリの女王アリを順次中に入れました。その後クリアケースの中に移し入れました。

クリアケースの中 クロオオアリの働きアリは入れていない トゲアリ同士が栄養交換をしている 11時0分撮影 
トゲアリ3匹が化粧行為をしていた 2013年にも同様なことが見られた 11時27分撮影
トゲアリがクロオオアリの女王アリに取り付いている 20時3分撮影

翌日の9月24日、クリアケースの中にクロオオアリの働きアリを10匹入れました。トゲアリの動きが活発にはなりましたが、一方的に攻撃を受けていましたので、働きアリの数を3匹に減らしました。ただ、トゲアリとクロオオアリの働きアリが栄養交換をする場面もありました。

9月24日9時23分撮影
11時48分撮影
14時10分撮影
15時12分撮影
栄養交換をしているようだ 9時19分撮影
9時10分撮影
14時10分撮影
14時20分撮影
16時23分撮影

この日(9月24日)、トゲアリの女王アリが2匹死にました。

1匹目の死 16時22分撮影
2匹死んでいた 22時30分撮影

次の日の9月25日には、夕刻、トゲアリの女王アリが更に1匹死に、残るは1匹のみとなりました。

9月25日8時0分撮影
14時17分撮影
3匹死んでいる 17時23分撮影

その後、10月2日、生き残っていた最後の1匹も死んでしまいました。

9月26日7時28分撮影
9月27日9時55分撮影
9月28日7時56分撮影
9月29日10時1分撮影
9月30日7時21分撮影
10月1日10時26分撮影
最後まで生き残っていた4匹目のトゲアリも死亡した 10月2日21時53分撮影

トゲアリの多雌の試みは実現できませんでした。その要因として考えられるのは、寄生を開始した時期にあるのかも知れません。
このトゲアリの女王アリは9月10日に採集しています。恐らくこの日の朝に結婚飛行に出かけたと考えられます。多雌を試み始めたのは9月23日の午前中からですから、その間13日経過しています。トゲアリの女王アリは4匹もいたのですから、そして、相当な時間クロオオアリの働きアリが3匹だったのですから、クロオオアリの女王アリの頸に咬みつき、そのまま放さないでいる機会は十分にあったはずです。しかし、それが見られませんでした。「本能が薄れた」とでも言えばいいのでしょうか。その根底を成す体力の余力不足が起因しているのかも知れません。(参照:「「トゲアリの女王アリは単独でいつまで生きられるか?」の結果」)
今年試みた一時的社会寄生で、最後に寄生が成功したのは、9月19日に寄生を開始した例です。この場合は、結婚飛行から9日後となります。
明言は出来ないものの、寄生をより確実に成功させるためには、採集後できるだけ早く寄生を開始するのが良いように思います。

参照:トゲアリの多雌コロニーに関する関連ブログ
2匹のトゲアリが寄生」(2015年10月17日)
トゲアリの女王アリの共存 その後」(2016年5月11日)