月別アーカイブ: 2012年6月

女王アリを試す

女王アリは交尾を終えると、地上に降りてすぐに羽を落とします。
それでは、①巣から出てきてまだ地面を這っている交尾を終えていない女王アリを単独で飼っていると、やがては羽を落とすのでしょうか。 また、②交尾を終えていない同じ巣穴のまわりにいる女王アリとオスアリを採ってきて飼うと、やがては交尾をするのでしょうか。また、③違う巣から出てきた交尾を終えていない女王アリとオスアリを一緒にすると、殺し合うのでしょうか。④また、飼っていて交尾をするのでしょうか。

以上の疑問に答えるためにプラケースに入れて実験をしてみました。
その結果は、
①交尾を終えていない女王アリは、例え巣から出てきたものであっても羽を落とさない。
② 同じ巣の女王アリとオスアリは、プラケースの中では(飛行に飛び立たないと)交尾をしない。
③ 違う巣で育った女王アリとオスアリであっても喧嘩をしない。
④ 違う巣で育った女王アリとオスアリであっても、プラケースの中では(飛行に飛び立たないと)交尾はしない。
となりました。
交尾を終えなければ羽を落とさないことが分かりましたし、飛行をしなければ交尾をしないこともわかります。また、違う巣で育った女王アリとオスアリが喧嘩をしないということは、働きアリ同士の場合とは違いますし、だから違う巣同士の羽アリが交尾をすることになるのでしょう。

同じ巣の女王アリとオスアリ、栄養交換をしている

大型の人工巣のクロオオアリの家族を庭へ

2010年の6月8日から飼っていたクロオオアリの家族を庭に出すことにしました。この家族は、とても繁栄していて、働きアリの個体数がかなり多くなっていました。このまま、あと1年ほど、この人工巣で飼うことができないわけではないのですが、庭に出すとどうなるか、そちらの関心の方が強かったのです。

庭に出す前の人工巣の様子

巣の中の様子

この人工巣は、50年ほど前に作ったもので、コンクリート製です。外へは2箇所から出入りできる穴があり、セロハンテープでふさいでいましたが、このテープを破りました。そして、庭の、木の板の簡易な屋根のある場所へ置きました。

庭に出したところ、上下2箇所に外へと通じる穴がある

たくさんの働きアリが、待ってましたとばかり、外へ出てきました。やがて、いろんなものを巣へと運び始めました。

この白いものはダンゴムシの死骸のようです

葉のようです

これはまだダンゴムシらしい色をしたダンゴムシ

これは何なのでしょう

砂糖水を与えてみました。

砂糖水に集まってきました お腹をぱんぱんに膨らませて戻っていきました

生きていたダンゴムシも与えてみました。

直前まで生きていたダンゴムシ

この家族は、このままこの人工巣にとどまるのでしょうか。それとも、この人工巣から地面へ引っ越すのでしょうか。願わくは、地面へ引っ越してほしいのですが。

クロオオアリは一斉に結婚飛行をするか?

ところで、クロオオアリは一斉に結婚飛行に飛び立つのでしょうか。

この場合の一斉というのは、ひとつの巣においてという意味と、その場所の極限られた範囲内でという2つの意味で使っています。
これまでは、ひとつの巣において、またその地域一帯では、一斉に羽アリが飛び立つと思っていましたが、 そうではないようです。
この直前のブログ「クロオオアリ・ムネアカオオアリの結婚飛行」で アップしている動画の巣では、夕暮れになってもまだ羽アリが巣の中に残っていました。それ時刻以降に結婚飛行に飛び立つことはないと思います。ですから、残った羽アリは、翌日以降に飛び立つのでしょう。
また、動画は6月14日に撮影していますが、その前日、極近くの巣では、巣穴のすぐ下の溝の中で大量のオスアリが死んでいましたので、それ以前に結婚飛行がおこなわれたと考えられます。

巣のすぐ下の溝の中で、たくさんのオスアリが死んでいました

ところが、その巣穴には、まだ女王アリの姿がありました。

同じ巣には、女王アリがまだいました

この巣は、6日から8日にかけても観察していますが、その時には、 巣から出ていく女王アリが数匹いました。

単独で巣穴から出ていく女王アリ

これらのことから、同じ巣であっても、羽アリの全てが一斉に結婚飛行に飛び立つのではないことや、極限られた範囲内にある巣であっても、結婚飛行に飛び立つ日(巣ごとにたくさん飛び立つ日)はまちまちであることがわかります。

クロオオアリ・ムネアカオオアリの結婚飛行

6月8日にムネアカオオアリの結婚飛行を直前にして見ることができなかったのですが、

巣からいっぱい出てきた飛行直前のムネアカオオアリの羽アリ

6月14日、ついにクロオオアリの結婚飛行に遭遇することができました。

動画でご覧いただけます(1分間)

オスアリは、すぐに飛び立つことができますが、女王アリはなかなか飛び立てません。しばらく地面を歩いて、

飛行を試みながら、しばらく地上を歩いていました

草の葉などによじ登って、飛行を試みます。

葉によじ登って、飛び立とうとしている女王アリ

こちらのムネアカオオアリの女王アリは、地面から直接飛び立とうとして転倒しました。

地上からの飛行に失敗して転倒したムネアカオオアリの女王アリ

まだ羽のついている女王アリは、交尾を済ませていないので、採集しても産卵しません。
さて、無事に結婚飛行を終えると、ばたばたと空中から落ちてきます。巣のあった場所から遠くには飛んでいかないらしく、すぐ近くに落ちてくるようです。地上に降り立つと、すぐに羽をもぎ落とします。

結婚飛行後、地上に降りるとすぐに羽を落とします

そして、歩き回ります。この時、女王アリが採集できるのです。草むらの中を歩いている女王アリは発見しにくいのですが、道を歩いている女王アリは、難なく発見することができます。
しばらくすると、女王アリは穴を掘り始めます。

巣穴を掘り始めました

下の写真は、2010年の6月8日に撮影した初めての巣作りの様子です。

ところで、結構飛行にも危険がいっぱいです。これは、飛行中にアブの仲間に襲われた女王アリです。

また、こちらは、歩行中にアカヤマアリに襲われたのでしょう。

けれども、女王アリは仲間に対してははやり強いようです。

襲ってきたクロオオアリの働きアリにアッという間に痛手を負わせました

短時間で勝負を付けました。クロオオアリの働きアリは即死ではありませんでしたが、やがて死んだことでしょう。

アリ日記 2012/06/06〜08(6)アリの行列 

クロオオアリが8匹程、歩道を歩いていました。連なっていて、一団のようです。どこへ向かっているのでしょう。

ときどき、左右前後に広がりますが、だいたいひとつの塊で進んでいきます。

20m程進んだでしょうか。道端の草の中に入っていきました。

そして、近くの木に登っていきました。

この木は、松の木でした。

ムネアカオオアリもクロオオアリと同じように、チームを組んで餌の場所へ向かうようです。

別の場所では、艶のある少し小さめの黒いアリが行列を作っていました(画像をクリックすると大きい写真が開きます)。

少しいたずらをしてみましょう。通路に葉を置いてみましょう。

たまり始めました。

ところで、左右にたまり始めたアリの腹部をよく見ると、右側と左側のアリでは違いがあるのが分かります。

右側

左側

右側の腹部は膨らんでなくて、左側の腹部はよく膨らんでいます。このことから、この行列は蜜を運ぶ行列であることと、蜜は左側のどこかにあること、逆に巣は右側のどこかにあることが分かります。

左側の木を見てみると、

行列の続きがありました。この木も松の木でした。

やがて、行列は、障害物になった葉の上でつながりました。

アリ日記 2012/06/06〜08(5)巣から外に出るリスク

喧嘩で命を落とすだけの価値があるのでしょうか。アリの喧嘩は命がけです。

1対2の戦い

ムネアカオオアリ同士の戦い

クロオオアリとムネアカオオアリの戦い

別の日ですが、巣から出てきたクロオオアリの女王アリと働きアリが、道の上で出あいました。別の巣なのでしょうか。すぐさま喧嘩が始まりました。

ところが、この喧嘩、あっという間に決着がつきました。女王アリが完璧に強かったのです。働きアリは、ほとんど即死でした。

不思議な光景を見つけました。

草の穂にぶら下がっているのです。その極く近くには、クロオオアリの巣があります。

この巣穴のまわりに、いくつもの宙づりにされたクロオオアリの死骸があるのです。よく見ると体は小さいですが、クモが写っています。このクモの種名は「ボカシミジングモ」です。

こちらもクモが写っています。別の種のようです。

アリ日記 2012/06/06〜08(4)クロオオアリ・ムネアカオオアリの食性

クロオオアリやムネアカオオアリは、何を食べているのでしょうか。季節によって、彼らを取り巻く自然環境が変化しますので、「6月の」という限定ですが、彼らの食性を調べてみました。

これらは、花の蜜を摂っているのでしょう。ミツバチなどと同じように、受粉に役立っていると思われます。

これは、まだ花が咲いていないのですが、何をしているのでしょう。

これらは、アブラムシの分泌物をもらっているところです。

これは、何もないように見える葉をなめているようですが、近くにアブラムシがいて、その分泌物が葉についているのでしょう。私が家で駐車している車のすぐ傍にビックリグミの木があるのですが、春先にはアブラムシがたくさん付いて、車のガラスがベトベトした感じになることがよくあります。これと同じことが起こっているのでしょう。

ムネアカオオアリが、腹部をぱんぱんに膨らませています。蜜を腹部に蓄えて、巣に帰るところなのでしょう。

地面に目をやると、

何やら、運んでいます。よく見ると何かの幼虫のようです。
別のところでは、

こちらも幼虫が餌食になっています。

上の写真は、クロヤマアリですが、この植物にいた幼虫を捕らえたようです。

これは、別のクロオオアリが運んでいた幼虫を取りあげたものです。きっと生きていた幼虫を狩ったのでしょう。

ということで、何かを運んでいるクロオオアリを見つけて捕らえることにしました。捕らえてフィルムケースに入れるのですが、どのクロオオアリも獲物を口から放そうとしません。そこで、フィルムケースの中に指を突っ込んで、クロオオアリを押さえつけたのですが、そうすることで初めて獲物を放しました。

下の写真は、そうして集めたクロオオアリが運んでいた獲物です。

少し拡大しますと、右から、

となります。幼虫が結構多いのに気づきます。また、成虫もいますが、死骸を集めているようです。一番左上にあるのは、アブラムシで、これはまだ半分生きているような感じでした。一番右にあるのは、スギのような植物の一部です。巣に持ち帰って、どのように利用するつもりだったのでしょうか。

上の2つの写真は、別々のムネアカオオアリです。この木の下の方に巣があり、巣に獲物を運んでいるところです。どちらも、この木にいた幼虫を捕まえたと考えられます。

上の3つの写真も、ムネアカオオアリが運んでいた獲物です。上の方は、成虫と幼虫です。真ん中は、よく分かりませんが、カイガラムシの一部ではないかと思います。下の方は、干からびた幼虫の体の一部です。

まだ、確かなことは言えませんが、クロオオアリもムネアカオオアリも食性は同じよう思えます。これは、人工巣で飼っていて、同じ餌を食べていることからも言えそうです。植物につく幼虫を捕らえることや、ムネアカオオアリでは観察できていませんが、受粉に役立っていることなどから、これらのアリは、人間にとって、使い方次第では益虫になりそうです。

アリ日記 2012/06/06〜08(3)ムネアカオオアリの巣は

ムネアカオオアリは、普通木の中に巣を作ると言われています。木は生きていても、既に枯れていてもよいようです。
下の写真は、生きている木ですが、樹皮の一部が剥がれ、その中が朽ち始めています。

そのくぼんだ部分を拡大すると、

ムネアカオオアリが見えます。この木はこんな木です。

私には名前が分かりません。スギ科の木のように思うのですが。

下の写真は、切り株で、もう枯れていて全体が朽ちかけています。

この中もムネアカオオアリの巣になっています。

また、もう一つ、生きている木に住んでいるムネアカオオアリを見つけました。

小さな穴が巣の出入り口になっています。これを少し離れて見ると、

こんな様子で、ムネアカオオアリの巣になっているとはなかなか気が付きません。
この木も、初めに紹介した木と同じ種でした。

このようにムネアカオオアリは、木の中に巣を作ります。その点で、クロオオアリとは違った習性があるのですが、 実は、ムネアカオオアリは、木の中以外でも暮らせるのです。
下の写真は、昨年、白山の麓で見つけたムネアカオオアリの巣です。

コンクリートとレンガの敷物のようなものとの隙間に巣を作っていました。
また、下の写真は昨日、近くの山で見つけたムネアカオオアリの巣で、やはり、アスファルトの道端の隙間に巣を作っていました。

ムネアカオオアリにとって、巣の環境が木でなくてもよいようです。このことは、コンクリート製の人工巣で、コロニーが十分育っていくことでも、既に確かめ済みです。
クロオオアリの場合は、土の中かコンクリートなどの隙間に巣を作りますが、コンクリート製の人工巣の中で、コロニーが十分育っていくことは、ムネアカオオアリの場合と同じです。ですから、一般論として、巣材の環境はコロニーの成長とは無関係であると言えます。 (植物の発芽や生長にとって、土が必要なように思われがちですが、実は必要ではないのとよく似ています。)

アリ日記 2012/06/06〜08(2)クロオオアリの巣は

クロオオアリは、どんなところに巣を作っているのでしょうか。どうしても人目につくところで巣を発見してしまいますから、断言は避けるとして、日当たりのよい、短めの草が生える山土のようなところでよく見かけます。また、人工的な場所、例えばコンクリートの溝とアスファルトの道との隙間、敷きレンガの隙間など、人間の生活圏に入りこんで巣を作っています。もちろん、極く普通の山の中にもいます。

巣がある場所は、とてもわかりやすいです。地中に巣を作っている場合は、必ず巣穴のまわりに土が盛られています。他のアリ、例えばクロヤマアリも同じように巣穴のまわりには土が盛られていますが、見慣れれば違いが分かるようになります。


出入り口は、かなり広いです。

盛られた土の1粒1粒をよく見てみると、働きアリの大きさを考えるとかなり大きなものもあります。

あっ! 大きな働きアリが、大きな石を巣の中から運び出してきました。

ハチのような昆虫が、巣のまわりを行き来しています。その内、大胆にもクロオオアリの巣穴に頭を突っ込みました。何が目的なのでしょう。このハチのような昆虫は、何もなくそのまま立ち去りましたので、わからないままになりましたが。

アリ日記 2012/06/06〜08(1)駒ケ根

自宅を6月5日の夜に出発し、6日から8日までの3日間、駒ケ根市に滞在してアリの生態観察を行いました。残念ながら、クロオオアリやムネアカオオアリの女王アリの採集はできませんでした。今回のアリ日記から、この3日間の観察の記録を順次掲載いたします。
まず、初回は、クロオオアリやムネアカオオアリの羽アリの様子を取りあえず報告いたします。

今回の駒ケ根行の一番の目的は、クロオオアリやムネアカオオアリの女王アリを採集することでした。一昨年と昨年は、いずれも6月8日に女王アリが採集できました。ですから、今年もこの日に期待していたのです。

上の写真は、巣から出てきたクロオオアリのオスアリです。6日に見つけました。ただ、辺りを探しても、この1匹しか見当たりませんでした。しかし、1匹でもオスアリが出てきているということは、結婚飛行が近い前兆ではあります。
8日の朝には、羽があるクロオオアリの女王アリをやはり1匹見つけました。これも、結婚飛行が近い前兆です。

そして、下の写真が8日の午後2時前後のあるクロオオアリの巣の様子です。

羽アリが巣穴から外の様子を窺っていたり、巣穴から出ています。しかし、結局、この日は結婚飛行は行われませんでした。

下の写真は、同じ8日の午後4時前のムネアカオオアリの巣の様子です。驚くほどいっぱいの羽アリが木の中の巣穴から出てきています。この後、一部の羽アリが飛び立ったようですが、その様子は観察できませんでした。


下の写真は、そのほんの少し後のこの巣の近くにいたムネアカオオアリの女王アリです。巣から飛び出してはいますが、まわりにオスアリの姿はなく、結婚飛行はできていないようでした。


結婚飛行(交尾)については、いろいろと考えさせられます。
まず結婚飛行がいつ行われるかという点では、天候などの自然条件が重要であることは分かりますが、その条件とは何なのか不思議です。それに、飛び立つタイミングの決定に、働きアリが関与していて、「指令」のようなものを出すのではないかと思われます。羽アリが巣穴から出始めている時の様子をよく観察すると、働きアリが足は地面につけたままですが、激しく飛び跳ねるようなしぐさをします。他の働きアリも同じしぐさをほぼ同時にします。すると、羽アリが(特にオスアリが)巣穴から出てきます。まるで、働きアリに「外に出なさいよ」と言われたかのようです。
ところで、働きアリが、そのような役割を担っているとしても、結婚飛行は、その近辺ではどの巣でも一斉におこなわれるのです。巣を越えてなぜ結婚飛行のタイミングを統一できるのか、そのことがとても不思議なのです。

次回からは、3日間の観察の様子を詳しく報告いたします。