先のトゲアリ物語の中で、9月28日に私の住んでいるすぐ近くの林道が走る低い山で、この物語の主人公のトゲアリの女王アリを採集したと書きましたが、その同じ山で新たな発見をしました。実は、そのトゲアリの女王アリを採集してからは、幾度かその山の林道に沿って再びトゲアリの女王アリに出会えないものかと探していたのですが、新たな出会いはありませんでした。けれども、女王アリは採集できないとしても、この山のどこかにトゲアリの巣があるはずでした。
そんなある日、アリ探しを兼ねてサイクリングをしていて、ふとトゲアリの巣を見つけたのです。10月26日の午後のことでした。この山を仮に「野田山」と言うことにして、その場所は、野田山のピークより少し下ったところでした。これまでは、アリの採集時はそのピークで引き返していたのですが、この日は、とても良く晴れた文句なしの秋晴れの日で、自転車でこのピークを越えて、気持ちよく風を切って下っていたのです。もちろんアリの観察も兼ねていましたので、所々で止まりもしました。そんな時、大木の幹をムネアカオオアリに似たアリ、つまりはトゲアリの働きアリが往来しているのが目に留まったのです。そこは、標高280m前後の所でした。
トゲアリの働きアリは、この季節はまだ働いていました(気温21℃前後)。歩く速さは、ムネアカオオアリやクロオオアリに比べるとやや遅めで、また、警戒心が強いらしく、私がより幹に近づくと、気配を察することができるらしく、動かなくなって腹部を腹面へ曲げて丸くなるものもいました。
この巣がある木から登り方向の別の木の幹にもトゲアリがいました。この木には目立った樹洞はなく、巣はないようでした。
この木のトゲアリと、巣がある場所にいたトゲアリが同じ巣のトゲアリなのかを調べるために、両者を1匹ずつ捕らえ、フィルムケースの中で一緒にしたのですが、喧嘩は起こりませんでした。これを3例試したのですが、結果は同じでいずれも喧嘩が起こりませんでしたので、同じ巣のトゲアリのようでした。
まだ、他にもトゲアリの姿がないか近くを調べていると、巣があった木から少し下ったところの大木にもトゲアリがいました。この木には巣がありました。
根元にも巣の出入り口があるようでしたが、木の上方に朽ちたところがあり、どうやらそこにも巣があるようです。
働きアリは、絶え間なくこの樹洞と根元との間を往復していました。明らかに根元の巣もこの樹洞の巣も同じ家族のようです。
後日思ったことですが、最初に見つけたトゲアリと別の木にいたトゲアリが同じ巣のトゲアリかどうかは調べたのですが、明かに2つのトゲアリの巣を見つけたのですから、この両者のトゲアリも一緒にしてその様子を観察すべきでした。果たしてこの場合は喧嘩を始めるのでしょうか。先の同じ巣のトゲアリのようだとの考えは、この2つの巣のトゲアリ同士の様子を見て結論を出すべきでした。
さて、トゲアリは一時的社会寄生をするのですから、必ず近くにクロオオアリやムネアカオオアリがいなくてはなりません。この野田山では、ムネアカオオアリの姿は見かけていたのですが、クロオオアリは見かけませんでした。野田山のピークは294mしかありません。その麓の平野部は110m程度ですから、標高差は200mもないわけですし、そもそも300m未満の山でもあります。そんな山にも関わらず、クロオオアリの姿がないのです。
ところがやっと先日(10月22日)クロオオアリを見つけることができました。麓に近い林道を歩いていました。そして、実は、トゲアリの巣を2箇所発見したその日、そのトゲアリがいたすぐ近くの林道でもクロオオアリの姿を見ました。ただ働きありを1匹見つけただけだったのですが、でもそれで、間違いなくクロオオアリの巣がトゲアリの巣の近辺にもあることが分かったのです。