アリの取り扱いには、アリ固有の工夫がいくつか必要になってきます。アリには翅がありませんので、飛んで逃げるということはありませんが、小さいうえに、とても速く歩き回りますから、それなりの工夫が必要です。以下では、餌などの世話をする際にアリを脱走させない工夫や、脱走してしまった際にアリを捕らえる工夫について、私がしていることを少し紹介しましょう。
まずは、アリが飼育器から脱走しないようにする工夫です。上の写真はそのために作ったものです。この写真では蓋もしていますが、使う時は蓋は外します。真ん中には台があり、台の下と周りには水が入ります。使った後は、水はそのまま捨てないので、塵が入らないように蓋をしておきます。使う時には、この真ん中の台の上に飼育器を載せます。この台は、簡易小型飼育器アンテキューブの底面とほぼ同じ広さです。
では、アンテキューブを載せて、アンテキューブの蓋を開けてみましょう。
写真では、蓋の裏と台のところにそれぞれ1匹ずつ働きアリが出ていますが、水を張った堀は渡れませんので安心です。この間に、パイプを輪切りにして作った餌器の交換などをします。一旦、飼育器の外に出たアリも、そのうちに飼育器の中へ戻る者もいますが、多くはなかなか戻りません。勿論新たに飼育器から出てくる者もいるわけで、出ている働きアリがたまたま全部戻るのを待っているわけにはいきません。そこで、とにかく飼育器の蓋を閉めて、
アリが飼育器の上にやってきた時にフィルムケースを逆さにして被せて捕らえます。そして、
蓋についているシリコン栓を外して、フィルムケースをずらして、栓をしていた穴まで移動します。しばらくすると、アリはその穴から飼育器の中に入っていきます。ほとんどの場合、自然に穴から飼育器の中に入っていきますから、その後で、フィルムケースを取って穴にシリコン栓をして終わります。
しかし、その穴から、逆にフィルムケースの中へ入ってくるアリもいます。
こんな時は、別の手を使います。一匹ずつ、又はまとめて確実に飼育器の中に入れる方法です。
上の写真は、外径10mm長さ30mmのアクリルパイプと外径13mmの透明ホースを繋ぎ合わせたものです。通常アクリルパイプ側にはシリコン栓をして使います。アリは、クロオオアリとムネアカオオアリとトゲアリで試していますが、ホースの中へは比較的素直に入っていきます。ホースの内径は9mmあり、アリに上から被せるようにして使うこともできますが、アリの進行方向やアリの頭部の前に持っていくと、すんなり入っていくことが多いのです。ちなみに、アクリルパイプの穴へは、入っていくことはほとんどありません。
こうして捕らえたアリをアクリルパイプ側へと導きます。そのために、ホースをつまんでホース側へ行けないようにすることもできます。これは柔らかいホース故にできることです。
この簡易な捕獲器を仮に連結捕獲器と名付けると、この連結捕獲器をアクリルパイプ側を下にして、アンテキューブの蓋の穴につなげてみましょう。
この時、連結捕獲器の中へ上から丸棒を入れます。丸棒は径が6mmあり、アクリルパイプの内径は7mmですから、隙間は1 mmなので、アリを隙間で挟むことなく、アンテキューブの穴へと押しやることができます。上の写真は、今、正にアリが穴から中へ入ろうとしているところです。
これは、アリを一匹ずつ入れる方法ですが、この方法を少し応用すると、まとめてアンテキューブの中にアリを入れることもできます。
上の写真のように、連結捕獲器のホース側にさらに長目のアクリルパイプをつなげると、長目のアクリルパイプの中に、複数のアリを留めることができます。この際にも、ホースの部分を指で摘んで、アリを長目のアクリルパイプへと導くことができます。下の写真は、そうして長目のアクリルパイプに導いたアリたちです。
そうしておいて、
アンテキューブの穴の上に長目のアクリルパイプを置いて、丸棒で下へと押しやります。こうすれば、複数匹を1度に飼育器の中に入れることができます。
さて、ここで紹介している台つき水張り逃亡防止器は、コンクリート製の人工巣にも使えます。台の大きさが人工巣の底にも合っています。
人工巣の蓋を取ってアリの世話を済ませた後、だいたいのアリがコップケースの中に入ったところで人工巣に蓋をかぶせます。そして、まだ外に出ているアリが下から上がってきて、蓋の近くまで来そうになったら、蓋を横へずらしてコップの中にはいれる隙間を作ります。すると、大多数のアリは、コップの内側へ入っていきます。その後で、また素早く蓋を横へずらして閉めてしまいます。これを外に出ているアリの数だけ繰り返せば、やがて全部のアリをコップの中に戻すことができます。
アリは小さな昆虫です。他の多くの昆虫は直接素手で掴んでも大丈夫ですが、アリの場合は、そうはいきません。捕獲の道具を作ることも含めて、いろんな捕獲の方法を工夫してみるのも楽しいものです。