月別アーカイブ: 2013年5月

昆虫を餌として確保するために

これまで、アリに与える昆虫を採集するのには苦労してきました。よくイトトンボやアキアカネなどを捕っていましたが、時期に制限されますし、捕らえるには時間がかかります。自然の昆虫以外では、冷凍のユスリカの幼虫も与えてきましたが、何か他によい方法はないものでしょうか。

ということで、思いついたのが捕虫器です。電撃方式が一般的ですが、吸引式にしました。吸引式は、昆虫を痛めずに、生きたままでも捕獲できます。小型の昆虫に限られますが、アリの餌としてはその方が適しています。

モス・キャッチャー

「モス・キャッチャー」

私が購入したのは「モス・キャッチャー」という商品名で売られているものです。同じものがいろいろな値段で売られていますが、私は6405円で購入しました。

この捕虫器ではどんな虫が捕らえられるのでしょうか。自宅の庭に設置しました。

5月上旬の1日分

5月上旬の1日分

5月中旬の何日か分

5月中旬の何日か分

5月下旬の3日分

5月下旬の3日分

蚊の仲間の他、蛾がたくさん捕らえられています。これなら、アリの餌としては十分です。

ところで、上の写真の内、真ん中の写真には、意外なものが写っています。拡大してみると、

この正体は?

この正体は?

更に拡大すると、

腹柄節がある

腹柄節がある クリックすると大きく見られます

この昆虫は、腹柄節がありますので、アリの仲間です。これは、クロオオアリの雄アリだと思われます。この写真は5月21日に撮ったものですので、この辺りでは、既にクロオオアリが結婚飛行を済ませたということになります。そんなことがあってよいのでしょうか。今年こそ、自宅の近辺でクロオオアリの女王アリを捕獲したいと思っていたのに……。

それにもう一つ、この近くにクロオオアリの巣があることになります。この辺りは、造成された住宅地で、この辺りでクロオオアリを未だ見たことはないのですが、まだ見つけられていないだけなのでしょうか。

庭のクロオオアリに餌をやる

5月20日に再会した庭のクロオオアリに餌を与えることにしました。21日、小さな昆虫を巣穴のすぐ近くに置いておくと、

小さな虫を与えました

小さな虫を与えました

やがて巣に運び込みました。

巣から出ていく働きアリもいます。

巣から出ていく働きアリ

巣から出ていく働きアリ

巣へ戻っていく働きアリもいました。

巣へと戻っていきます

巣へと戻っていきます

この働きアリの腹部は、出ていった働きアリと較べるとよく分かるように、膨らんでいます。どこかから蜜を取り入れたのでしょう。

歩いている働きアリの近くに砂糖水をたらしてみると、ほんの少ししか関心を示さず、見つけたはずなのに、ろくに吸いもせず立ち去りました。

葉の上に砂糖水があります

葉の上に砂糖水があります

昨年は、砂糖水を好んで飲みにきたのですが、どうしたのでしょう。また、このアリの家族は、部屋の中で人工巣で飼っている時には、砂糖の粒を好んで食べていたのですが。腹部を膨らませて帰っていく働きアリがいたところを見ると、蜜はもう自然の中から獲得して足りているのでしょうか。

小さい蛾も与えてみました。これも巣の中に運び込みました。

小さい蛾

小さい蛾

27日には、少し大きめの蛾を与えてみました。

翅を取り除きました

翅をかみ砕いて取り除きました

鱗粉だらけになって働いています。まず、翅をかみ砕いて取り除きました。それで、少しは運びやすくなったはずですが、それでも、1匹で運ぶにはかなり重たかったようです。巣穴まで運ぶと、仲間が巣から出てきました。

2匹が加勢

2匹が加勢

やがて巣の中へ。

巣穴に入れているところ

巣穴に入れているところ

三度、5月31日に蛾を与えました。今度はかなり大きい蛾です。巣穴のすぐ近くに置いておきました。

全部で7匹のアリが出てきました

全部で7匹のアリが出てきました

少したって見ると、7匹のアリが出てきていました。こんなにもたくさんアリを同時に見るのはこの巣では初めてでした。それからまた少したって見ると、蛾は解体されていて、蛾の胸部だけがまだ地上に残っていました。

巣穴に入れようとしていますが……

巣穴に入れようとしていますが……

巣穴に入れようとしていますが、この塊はまだ大き過ぎるようです。何回も何回も働きアリたちは、その度に塊を巣穴に突っ込み直すのですが、いっこうに入りません。この家族の巣穴の出入り口は、そもそも普通よく見かける巣穴よりもぐんと小さいのです。「更に解体してから運びなさいよ!」と言いたいところですが、見ているこちらがいらいらしてきました。

そこで、この御馳走をピンセットで取り上げて、はさみでほぼ半分に切り分けました。

2つに切り分けました

2つに切り分けました

後で見ると、この御馳走はなくなっていましたから、2つ共に巣の中に運び込まれたのでしょう。

この家族はタンパク源をどの程度に確保できているのかわからないのですが、観察している限りでは、私が与えた昆虫以外の昆虫を運んでいるところは見かけませんでした。昆虫などのタンパク源を手に入れるには、この家族の規模と庭の環境ではかなり難しいのではないでしょうか。自然界に棲みついたクロオオアリに餌を与えるのは、不自然なのですが、今後も観察がてら昆虫を与えることにします。幼虫がよく育って、巣が繁栄するのが楽しみですから。

幼虫が肉団子を食べる

クロオオアリは幼虫にどんな餌を与えているのでしょうか。

これまで私は、働きアリが口から液状の餌を出して与えていると思っていました。口移しをしている場面を何回も観察しましたから、それがまちがっているというわけではありません。けれども、長い間、1つの疑問は持っていました。それというのは、アシナガバチの場合、蛾の幼虫などを狩りして、それをかみ砕いて団子状にして、幼虫に与えているからです。アリの場合は、肉団子を幼虫に与えていないのだろうか、そんな疑問があったのです。

ところが今日、その疑問が解けました。実体顕微鏡を覗いていた時、幼虫が肉団子状のものを食べているのを見い出したのです。

ND4_8058

 

ND4_8063

 

その様子を見て、幼虫の形が納得できました。アシナガバチの幼虫は、頭がまっすぐ上についています。それに対して、クロオオアリの幼虫は、首?が曲がっていて、胸?に団子が載れば手?がなくても口が届く形をしているのです。その胸?はちょうどよい広さの食卓になるのです。

ムービーもありますのでご覧下さい。

30秒

30秒のムービー

2分間のムービー

2分のムービー

2分のムービーの方ですが、幼虫は肉団子を十分に食べたのでしょう、もうあまり食べているようではありません。そこへ働きアリがやってきて、肉団子を取り去ります。幼虫の体にほんの少し肉団子のかすがついていましたが、働きアリが舐めて掃除をします。幼虫の口元の掃除もしています。

クロオオアリの幼虫は、おそらく他の多くの種のアリの幼虫も同様だと思われますが、液状の食べ物と昆虫などをかみ砕いた肉団子を食べて育つのでしょう。タンパク源の摂取という点では、肉団子を直接食べる方が手っ取り早いでしょう。

ついに移植に成功

2010年から始めた庭にクロオオアリを移植するという試みは、なかなか困難なものでした。2011年には、レンガを組んでその中に真砂土 (まさど・まさつち)を入れる方法で移植を試みましたが、2回目の冬を越えた今年の春、全滅したようでした。

巣穴に被せているタイルを取ってみると、クロオオアリが生活している気配のない穴であったり、ナメクジがいたり、他のアリの巣になっていたり、ムカデがいたりしました。

いっぱいのナメクジ

巣穴がナメクジでいっぱいになっていた

他の小さなアリの巣になっていた

他の小さなアリの巣になっていた

ムカデがいた

ムカデがいた

ただ、1つだけ希望がありました。昨年の9月26日のブログで書いたあのクロオオアリの家族です。この家族は、2年間人工巣で飼い、昨年の6月18日に人工巣のまま庭に出し、7月15日に気付いた時にはどこかに引越をしていたあの家族です。ですが、4月になっても5月になっても、その巣のあった地面に巣穴が見当たらないのです。

それが、5月20日になって、驚きの出逢いがありました。クロオオアリが1匹、巣があった場所の近くを歩いていたのです。

今年になって庭で始めて見たクロオオアリ

今年になって庭で始めて見たクロオオアリ

きっとあの巣のアリに違いない。そう思っていると、小さな盛り土がある巣穴らしい場所があり、そちらへ歩いていきます。

左側に盛り土が見られる

左側に盛り土が見られる

そして、

巣穴にはいっていった

巣穴にはいっていった

巣穴へと入っていきました。確かにあのクロオオアリの家族がいるのです。

これは、とても大きな喜びでした。ついに、クロオオアリの庭への人工的な移植が成功したのです。