月別アーカイブ: 2014年6月

トゲアリの繭

6月19日のブログで「トゲアリの様子」を取り上げましたが、その時は、トゲアリの繭をクロオオアリやムネアカオオアリの繭から識別できませんでした。ところが、6月25日、SIMSMA01043でトゲアリらしき蛹を見つけました。

繭のない蛹 棘らしきものが見える

繭のない蛹 棘らしいものが見える

この蛹には繭がありませんが、そのため、トゲアリの蛹であることがはっきりしました。棘らしいものが見えますし、腹部が丸く、明らかにトゲアリの蛹のようです。その右横に繭がありますが、この繭はクロオオアリやムネアカオオアリの繭よりも色が濃く、また少し太めで丸く見えます。これはトゲアリの繭なのでしょう。

次の写真は、6月30日の他の巣の様子です。

NESTCON01001

NESTCON01001

NESTCON01030

NESTCON01030

こうして改めて見ると、これらの繭は色が濃く太めですので、やはりトゲアリの繭と思ってよいでしょう。

単独女王アリと異種間の養子縁組?

現時点で、今年採集した女王アリを除き、働きアリがいない女王アリは、8匹です。

SIMSMA01011 2011年6月8日採集 ムネアカオオアリ 卵1個

SIMSMA01011 2011年6月8日採集 ムネアカオオアリ 卵1個

SIMSMA01015 2013年6月5日採集 クロオオアリ 卵2個 羽化を介助できない

SIMSMA01015 2013年6月5日採集 クロオオアリ 卵2個 羽化を介助できない

ANTCUB03016 2013年6月15日採集 ムネアカオオアリ 卵10個 昨年は一度も産卵しなかった

ANTCUB03016 2013年6月15日採集 ムネアカオオアリ 卵10個 昨年は一度も産卵しなかった

ANTCUB03014 2013年6月16日採集 クロオオアリ 幼虫8匹

ANTCUB03014 2013年6月16日採集 クロオオアリ 幼虫8匹

ANTECB0211 2013年6月17日採集 クロオオアリ 卵30個以上

ANTECB0211 2013年6月17日採集 クロオオアリ 卵30個以上

2012年6月14日採集のクロオオアリのSIMSMA01039は、卵も幼虫も蛹もありません。

ところであと2匹ですが、異種間で養子縁組をすることにしました。

NESTCON01017 2011年6月8日採集 ムネアカオオアリ 卵14個 + 今年採集のクロオオアリの卵5個・幼虫14匹・繭1(S/N:B120より)

NESTCON01017 2011年6月8日採集 ムネアカオオアリ 卵14個 + 今年採集のクロオオアリの卵5個・幼虫14匹・繭1(S/N:B120より)

SIMSMA01081 2011年6月8日採集 クロオオアリ 卵・幼虫・繭全て無し + 今年採集のムネアカオオアリの卵9個・幼虫24匹・繭無(S/N:R021

SIMSMA01081 2011年6月8日採集 クロオオアリ 卵・幼虫・繭全て無し + 今年採集のムネアカオオアリの卵9個・幼虫24匹・繭無(S/N:R021)

今年採集のS/N:B120とR021は、今日女王アリが死んでいるのに気付いた家族で、幼虫は死んでいませんでした。おそらく、卵も蛹も生きていると思われます。

NESTCON01017には、次のような記録があります。

2012年8月27日 働きアリ6匹 卵等記録なし
2012年10月24日 働きアリ4匹 卵等記録なし
2013年3月21日 働きアリ3匹 卵等記録なし
2013年10月7日 働きアリ3匹 卵等記録なし
2014年4月15日 働きアリ2匹 卵8個
2014年5月15日 女王アリのみとなる(働きアリ2匹と卵死亡)

このことから、NESTCON01017は、産卵ができ、子育ての経験があることがわかります。

SIMSMA01081には、次のような記録があります。

2012年8月27日 働きアリ2匹 卵等記録なし
2012年10月24日 働きアリ3匹 卵等記録なし
2013年3月21日 働きアリ3匹 卵等記録なし
2013年7月30日 働きアリ1匹 卵等記録なし
2013年8月15日 働きアリ0匹 卵3個(幼虫・繭ともに無)
2013年9月2日 卵7個(幼虫・繭ともに無)
2013年9月12日 卵11個(幼虫・繭ともに無)
2013年10月9日 卵も含め全て無
2014年2月28日 卵も含め全て無

このことから、SIMSMA01081も、産卵ができ、子育ての経験があることがわかります。

NESTCON01017とSIMSMA01081の女王アリは、上の記録のように小さな家族のまま生き続けてきました。そして、働きアリが全て死んでしまってからも生き続けているのですが、それは自分で蜜を摂取しているからでしょう。

どちらの女王アリも、養子と出会った時、卵や幼虫や繭を我が子であるかのようにすんなりと受け入れました。今日からは、たくさんの異種の養子に囲まれるのですが、この2匹の女王アリは、養子たちを上手に育てあげることができるのでしょうか。結果が楽しみです。

働きアリの寿命(その3)

これまでも働きアリの寿命について触れてきましたが(「1匹だけ育った働きアリ」「働きアリの寿命」「働きアリの寿命(その2)」、新たに追記します。

現在、女王アリが死んでしまった家族を13家族飼育しています。

2011年採集 3家族
NESTCON01002 クロオオアリ 2013/01/01女王死
NESTCON01012 クロオオアリ 2014/04/15女王死
NESTCON01019 ムネアカオオアリ 下記記載

2012年採集 6家族
SIMSMA01002 クロオオアリ 2014/02/28女王死
SIMSMA01049 クロオオアリ 2014/01/01女王死
NESTCON01023 クロオオアリ 2012/09/15女王死
NESTCON01027 ムネアカオオアリ 2014/04/10女王死
SIMSMA01067 クロオオアリ 2013/09/27トゲアリに殺される
SIMSMA01075 クロオオアリ 2014/01/20女王死

2013年採集 4家族
SIMSMA01034 クロオオアリ 2013/10/15女王死
SIMSMA01044 クロオオアリ 2013/10/15女王死
SIMSMA01056 クロオオアリ 2013/09/02女王死
ANTCUB03007 クロオオアリ 2013/10/07女王死

これらの内、2011年6月8日に採集したムネアカオオアリの女王アリの家族(S/N: NESTCON01019)が今日見ると全滅していました。記録では、この家族の女王アリは2011年中に死んでいて、2012年は通年働きアリが8匹でした。つまり、この8匹は、交尾後最初に育てられた働きアリと考えられます。その後、2013年の3月には7匹、6月には5匹、10月には4匹となり、今年(2014年)になって3匹になっていましたが、この度全て死んでしまいました。

2011年に成虫になったのが7月下旬ですから、2014年の6月で、最長で2年と11ヶ月近く生きていたことになります。

トゲアリの様子

トゲアリが寄生したいくつかの巣でも、繭が目立つようになりました。

NESTCON01001

NESTCON01001

NESTCON01025

NESTCON01025

SIMSMA1028

SIMSMA1028

NESTCON01030

NESTCON01030

SIMSMA01089

SIMSMA01089

ただ、SIMSMA01043には繭はありませんでした。

SIMSMA01043

SIMSMA01043

また、SIMSMA01024は、子育てができてなく、今回も卵は見当たりませんでした。

SIMSMA01024

SIMSMA01024

以上7コロニーの内5コロニーで繭がみられます。これらの写真に写っている繭の中にトゲアリの繭も含まれているように思うのですが、どの程度含まれているのかはわかりません。
と言うのは、クロオオアリやムネアカオオアリの巣でも、昨年生まれの幼虫が今、蛹になっているのですから、トゲアリが寄生しているこれらのコロニーでも、昨年生まれのクロオオアリやムネアカオオアリの繭があると考えられるのです。

トゲアリの繭を1度も見たことがない私には、トゲアリの繭とクロオオアリやムネアカオオアリの繭との違いがわかりませんし、そもそも同じように見えるのかも知れません。いずれにしろ、トゲアリの羽化を待って、さかのぼってトゲアリの幼虫の蛹化について考えるのが良いように思われます。

子育ての経過

今年採集した女王アリの子育ての経過を記録しておきましょう。

★クロオオアリ

5月19日採集
○ 5月22日以前 産卵開始
○ 6月12日以前 幼虫へ孵化

 

6月12日

6月12日 クロオオアリ

○ 6月18日以前 蛹へ蛹化

6月18日

6月18日 クロオオアリ

5月28日採集
○ 6月1日以前 産卵開始
○ 6月18日以前 幼虫への孵化が始まる

6月2日・3日採集
○ 6月18日 孵化なし

★ムネアカオオアリ

5月28日・29日・30日採集
○ 6月1日以前 産卵開始
○ 6月18日以前 幼虫への孵化が始まる

6月2日・3日採集
○ 6月18日 孵化なし

以上の記録と、実際に観察したことから、次のようにまとめることができます。
○ 産卵は交尾後、翌日から始める個体もあり、交尾の日を入れて4日以内には、ほぼ産卵が始まる。
○ 20日前後で孵化する。
○ 1週間程度で蛹化する。

孵化するまでにはかなり時間がかかっていますが、孵化してから蛹化するまでの幼虫の期間は、短いことがわかります。

女王アリは、エアコンを使っている部屋で育てています。気温が高ければ、より早く孵化・蛹化するのではないかと思いますが、対照実験はしていませんので、あくまでも気温については予想に過ぎません。

寄生虫 その後

6月7日のブログ「女王アリの死因を考える」で触れた寄生虫ですが、その後、ムネアカオオアリの腹部から抜け出し、容器内を盛んに這い回るようになりました。

容器内を這い回る寄生虫

容器内を這い回る寄生虫

ところで、2体の内1つを見ると、女王アリの死体にカビが生えているようでした。

カビが生えているように見える

カビが生えているように見える

けれどもこれは、カビではなかったのです。実体顕微鏡で見ると、無数の半透明な細長い生き物が動いていました。ムネアカオオアリの腹部から抜け出した寄生虫が蛹になっているようでしたが、この蛹にもこの細長い生き物が付いていました。

湯気が立ち上っているようにも見える

湯気が立ち上っているようにも見える

これは、寄生虫よりも更に小さな生き物で、もはや昆虫でもなさそうです。私は、気持ちが悪くなり、ケースを丸ごと処分しました。

幸い寄生虫がいるもう1体には、このとても小さな生き物は発生していませんでした。この寄生虫の正体を知るには、残った1体だけで十分です。

下の写真は、今日の様子です。幼虫が蛹になり始めています。やはり、この寄生虫は、完全変態をする昆虫のようです。

蛹になっている

蛹になりつつある

蛹の拡大写真

蛹の拡大写真

どんな成虫が出てくるか楽しみです。

新女王アリの死亡率

今年、これまでに採集したクロオオアリとムネアカオオアリの女王アリの数をまとめてみます。

5月16日 彦根市             0(クロ)  2(ムネ)
5月19日 彦根市   10      0
5月28日 駒ケ根市    3      4
5月29日 駒ケ根市    0      2
5月30日 駒ケ根市    1      7
6月  2日 駒ケ根市  69       17
6月  3日 駒ケ根市  50       16

クロオオアリは全部で133匹、ムネアカオオアリは48匹です。(ムネアカオオアリの数については、6月4日のブログ「採集の旅」で報告している数の51匹とは違います。これは、そのうちの3匹が、ムネアカオオアリの女王アリによく似ていますが、一回り体が小さく、違う種かもしれないからです(6月12日ブログ参照))。

6月12日の時点で、死亡したのはクロオオアリが20匹、ムネアカオオアリが9匹で、割合にすると(死亡率)、

クロオオアリの女王アリ      15%(20 ÷ 133)
ムネアカオオアリの女王アリ 19%(  9 ÷   48)

になります。

今回の採集に当たっては、採集時に傷を負っていることがわかった場合は、採集しませんでした。ただその時は気付かなくて、傷を負っている女王アリも採集しています。
傷を負ったクロオオアリで生きているのが17匹、死んだのが7匹です。同じく傷を負ったムネアカオオアリで生きているのが1匹、死んだのが0匹です。

そこで、今度は、傷を負っている場合の女王アリの死亡率を考えてみましょう。ここでは、ムネアカオオアリはサンプル数が少ないので、クロオオアリのみで考えることにします。クロオオアリの女王アリで、負傷していない個体の死亡率と、負傷している個体の死亡率を比較すると、

負傷していない個体の死亡率 12%(13 ÷ 109)
負傷している個体の死亡率  29%(  7 ÷   24)

になります。このことから、傷を負っていると死亡率が高いことがわかります。
ですが、見方を変えれば、今年のクロオオアリの場合、傷を負っていても、71% の女王アリが生きているとも言えます。

小型の女王アリ

5月19日のブログで触れましたが、一見ムネアカオオアリの女王アリのような、しかし明らかに小型の女王アリのことですが、6月2日の夜、駒ケ根市でも2匹同じ場所で採集しました。彦根市内と駒ケ根市内では、明らかに標高差などの環境の違いがあるのですが、同じ種のようです。

小型の女王アリ

小型の女王アリ

そこで、たまたまムネアカオオアリの女王アリの小型の1匹がいたと言うことにはならないので、この女王アリはムネアカオオアリの女王アリの「小型」とは考えずに、別種と考えることにしました。

体長は13mm位で、体全体に光沢があります。ムネアカオオアリの女王アリの場合は、胸部の前伸腹節から見かけ上の腹部第1節にかけて赤いのですが、この小型の女王アリは、体全体がムネアカオオアリの黒っぽい色の部分の色とよく似ており、脚の基節と転節が透き通るようなアメ色をしています。また、腹柄節が1節あります。ヤマアリ亜科のオオアリ属に属するように思われます。

3匹ともに産卵をしており、働きアリが生まれれば、種を特定できそうです。

トゲアリの幼虫

5月22日のブログで、トゲアリの卵が孵化し始めたことを書きましたが、幼虫がかなり大きくなってきています。

25

NESTCON01025

28

SIMSMA1028

写真は撮っていませんが、NESTCON01030の幼虫もかなり大きくなっています。また、5月22日にはまだ幼虫になっていなかったSIMSMA01043とSIMSMA01089も、幼虫が大きくなっています。
SIMSMA01024については、5月22日には卵がなくなっていましたが、それから産卵したらしく、少しですが卵がありました。

ところで、NESTCON01001ですが、今日になってトゲアリの女王アリの様子が少し変だと思っていましたが、左中脚の腿節が途中からなくなっていて、前脚も自由に動かせないことがわかりました。これまでこのような怪我はしていなかったと思うのですが、今になって働きアリの攻撃を受けたとは考えられないのです。昨年の侵入時から負傷していたのでしょうか。謎です。

画期的なたんぱく源

画期的なたんぱく源を見つけました。それは「シルクパウダー」というものです。

シルクパウダー

シルクパウダー

糖分が粉状なのは極く普通ですが、ひょっとしたらたんぱく質にも、粉状のものがあるのではないかと思い、ネットで粉状のたんぱく源を探したところ、このシルクパウダーにたどり着きました。
裏面の表示を見ると、

包装の裏面

と書かれていて、フィブロインが100%となっています。フィブロインとは、「繊維状のタンパク質の一種で、昆虫とクモ類の糸を構成し、その70%を占める(Wikipedia)」物質とのことです。

この物質は、水に溶けるのでしょうか。試してみると水が茶色っぽく透明になりました。つまり溶けるのです。このシルクパウダーは、「絹たん白加水分解物」とありますが、加水分解物なので水に溶けやすいのです。

ずいぶんと薄い水溶液でしたが、ムネアカオオアリに与えてみると、

薄いシルクパウダーの水溶液

薄いシルクパウダーの水溶液

飲み始めました。アリにとって、かなり嗜好性の高いもののようです。次に濃いめにしてクロオオアリに与えてみたのが下の写真です。

濃いめのシルクパウダーの水溶液

濃いめのシルクパウダーの水溶液

ヨーグルト用のグラニュ糖を与える時には、効率良く糖分を補給させるために、水に溶かさずに粒のまま与えますが、このシルクパウダーを粉のまま与えるとどうなるのでしょうか。与えてみると、

粉のままのシルクパウダー

粉のままのシルクパウダー

しばらくは、これが食べられるものとはわからないようでしたが、やがて舐め始めました。また、グラニュ糖の場合と同じで、少し固まっている粒を銜えて運び出すものもありました。

このシルクパウダーは、水溶性であるということと、アリが好むということと、粉は保存ができるという3つの点で、アリのたんぱく源としては、画期的な発見?です。

そこで、このシルクパウダーを特製の蜜(2014年4月26日ブログ参照)に加えてみました。こうすれば、この新たな蜜だけで、糖分とたんぱく質を同時に与えることができます。果たして与えてみた結果は、

蜜に群がるムネアカオオアリ

蜜に群がるムネアカオオアリ

大好評でした。

女王アリの死因を考える

採集した女王アリが、最初の数日間で死んでしまうことがあります。
今年の場合、クロオオアリ133匹中5匹が、ムネアカオオアリ51匹中6匹が既に死んでいます。そのうち産卵をしていたのは2個体だけで、9個体は産卵をしないまま死んでいます。

それらの死因については、わからないと言うのが正直なところで、同じ条件で飼育していても、突然死んでしまうのです。

ところが今回、新しい発見をしました。死因の1つがわかったのです。下の写真を見て下さい。

ムネアカオオアリの女王アリ

ムネアカオオアリの女王アリ

クロオオアリの女王アリ

クロオオアリの女王アリ

この死んだ2体には、腹部の中にウジ虫状の虫がたくさんいるのです。この虫は、昆虫の幼虫と思われます。女王アリが死んでから、この幼虫の卵が産み落とされたと考えるより、この女王アリを採集する前に、既に腹部に卵が産み込まれていたと思われます。これが原因で、この女王アリは死んでしまったのでしょう。

いつ卵が産み込まれたのか、いったいこの幼虫の正体は何なのか、疑問が駆け巡ります。そこで、このままにしておき、幼虫が成虫になるのを観察してみようと思います。

ところで、この寄生する昆虫は、クロオオアリやムネアカオオアリの女王アリのみに寄生するのでしょうか。この幼虫の大きさから考えると、他のアリには寄生しにくいでしょう。でもそうだとすれば、1年の内、クロオオアリやムネアカオオアリなどの大型の女王アリが地上に出てくるほんのわずかな期間しか、子孫を残す機会がないということになります。ですから、他の昆虫にも寄生するようには思うのですが、この点も今後明らかになるかも知れません。

結婚飛行後の分かれ道

女王アリは結婚飛行を終えた後、どうするのでしょうか。

交尾を終えると地上に舞い降り、すぐに翅を落とします。そして、歩き回ります。その目的は、巣を作る場所探しで、場所を定めると穴を掘り始めます。

穴を掘り始めたクロオオアリの女王アリ 6月2日

穴を掘り始めたクロオオアリの女王アリ 6月2日

おそらく本能に忠実な「正常な」女王アリは、結婚飛行を終えたその日の暗くなるまでには、穴を掘り始めます。そして、翌日の午前中には、穴の中に入っています。

翌日6月3日の午前10時半頃

翌日6月3日の午前10時半頃

それでは、穴が見つかったので、いたずらをしてみましょう。何か細い物を穴の中に突っ込みます。でも、女王アリは慌てて出てくるということはありません。穴の中の方が安全なのでしょう。そこで、芝の穂(花)を穴に突っ込んで少ししつこく動かしてみます。

芝の穂(花)

芝の穂(花)

すると、咬み付いた感触があり、そこでさっと引き上げます。女王アリが釣れています。他の穴でもやってみると、やはり女王アリが釣れました。

さて、結婚飛行後の女王アリたちの運命はまちまちです。本能に従い、「正常に」穴を掘り収まったものは、ひとまず安全を手に入れたことになります。しかし、穴の出入り口は、掘り始めた次の日もふさがっていないことがあったわけですから、その穴にいろいろなものが入ってくることは考えられます。ですから、穴を掘っている途中で、あるいはひとまず穴が完成してからも、穴から逃げ出さなくてはならないこともあるでしょう。また、掘り始めたものの、運悪く少し掘った時、石などの固いものがあれば、また別の場所を掘り直さなくてはなりません。

このようなこともあってか、夜中中地面を歩き回って、次の日も歩き回っている女王アリがいるのでしょう。地面を歩き回ることは、さまざまなリスクが伴い、とても危険です。怪我をしている女王アリの割合が、3日の日には多かったように思うのですが、実際に危険が多いと言えるでしょう。

クロヤマアリに襲われています

クロヤマアリに襲われています

上の写真は、クロヤマアリに襲われているところです。ただ、女王アリが何らかの理由で死んでいて、その死体に群がったのかも知れません。

とにかく暑い日です。太陽はかんかんと照っていました。歩き回った後は、休憩も必要です。できるだけ安全な葉の上などで休むこともあるようです。

葉の上で休む女王アリ

葉の上で休む女王アリ

また、のどが渇ききっているのでしょう、採集した女王アリが、すぐに湿った脱脂綿に口を着けることもよくありました。

採集の旅

5月28日から30日までの3日間と、6月2日・3日の二度に渡り、長野県へクロオオアリとムネアカオオアリの女王アリの採集に出かけました。この2回の採集で、新たにクロオオアリは123匹、ムネアカオオアリは47匹採取し、今期は合わせると、クロオオアリは133匹、ムネアカオオアリは51匹、捕獲することができました。

1回目は、クロオオアリの女王アリが5匹、ムネアカオオアリの女王アリが10匹で、わずかしか採集できませんでした。
この日に先立つ5月25日(日)は、全国的に急に暑くなった日で、私は岡山市内の自宅に滞在していましたが、庭で朝からクロオオアリの羽アリを巣口で見かけていました。同日、長野県からもお二人から羽アリが出ているという知らせを頂きました。標高差が違い、ずいぶんと離れた場所で同時に羽アリが出たと考えられ、意外な気がしていました。

そこで、28日はひょっとすると手遅れかもしれないと思いながら、長野県へ採集に出かけたわけですが、大丈夫でした。ほぼどのクロオオアリの巣口を覗いてみても、まだ羽アリの姿がありました。

羽アリがいます

羽アリがいます

羽アリがいます

羽アリがいます

まだ午前中でしたが、巣から出た羽アリも見かけました。

地面を歩くクロオオアリの女王アリ

地面を歩くクロオオアリの女王アリ

巣から飛び立って休んでいるクロオオアリの雄アリ

巣から飛び立って休んでいるクロオオアリの雄アリ

ですが、5月30日までの3日間、結局結婚飛行は見かけませんでした。

ムネアカオオアリの方は、クロオオアリよりも少し早く結婚飛行を始めていたようでしたが、それでも、まとまった数の結婚飛行はなかったように思われます。
毎年観察しているムネアカオオアリの巣を覗いてみると、午前中は、働きアリの姿さえほぼありませんでしたが、夕刻になって、羽アリが出てきていました。

28日午後5時半頃のムネアカオオアリの巣の様子

28日午後5時半頃のムネアカオオアリの巣の様子

ですが、クロオオアリ同様、3日間の内には羽アリは飛び立ちませんでした。

この間ずっと天気は良く、5月31日(土)、6月1日(日)もとても暑く天気の良い日が続きました。ただどうしても抜けられない所用があり、この両日、一度帰宅せざるを得ませんでした。ですから、この土日の間に何が起こっていたのかは、想像するしかないのですが、6月2日からの2回目の採集で、大量の女王アリを採集することになります。この時、大量に採集した場所の管理人の方によれば、「2・3日前から大きなアリをたくさん見た」ということでしたので、惜しいかな、一日違いのその土日から羽アリの結婚飛行が行われたのかも知れません。

それはともかく、6月2日の午後4時頃にその場所へ行くと、翅を落としたたくさんのクロオオアリの女王アリがいました。

採集地の環境 人工的な芝地が広がる

採集地の環境 人工的な芝地が広がる

女王アリが歩いていると見つけやすい

このような地面は、女王アリが歩いていると見つけやすい

もう、この日の結婚飛行は終わっていたようです。巣穴の周りには羽アリの姿はありませんでした。暗くなる午後7時頃まで、ひたすら採集を続けました。この日のこの場所で採集した女王アリの数は、クロオオアリが59匹、ムネアカオオアリが1匹でした。

さて、次の日3日ですが、同じ場所で、クロオオアリの女王アリを48匹採集しました。この数は、前日の59匹よりは少ないのですが、数の上では大量といえます。ただ、3日は午前中から採集していて、午後に新たな結婚飛行は見ていません。ほとんどの巣では、午後になっても巣口に羽アリは現れませんでした。
このことから、3日に採集した女王アリの多くは、前日に飛び立ったものと思われます。確かに、怪我をしている女王アリの割合が多かったように思われます。何らかの理由で、穴を掘って巣を造り始めることができなかった女王アリと考えられます。

また、このことから、2日に採集した女王アリの中にも、その前日に結婚飛行を了えていたものもあると考えられます。この採集場所での結婚飛行のピークがいつであったのかは想像するしかないのですが、私がちょうど帰宅していた5月31日か6月1日のどちらかであったことは確かなようです。