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トゲアリの新居

トゲアリは、現在のところ13コロニーを飼育していて、その内2コロニーは、昨年リトルアンテシェルフに移転させました。11コロニーは、カップ型のコンクリート人工巣やW拡張蓋で飼育していて、いつか広い飼育器に移転させたいと考えていました。

6月16日、11コロニーの内、取り敢ず1コロニー用に新しい飼育器を作りました。
この飼育器は、市販のガラス水槽を使い、アクリルで蓋と餌器を作り、木製の巣箱のようなものを入れます。

木造物を入れている パイプ状のものが餌器と水器

餌器と水器はパイプの下方に切れ目があり、大気圧を利用して漏れ落ちないようにしています。この飼育器では、敢えて土(真砂土)を敷いています。生活の汚れを吸収させる目的があります。

パイプの切れ目から蜜を飲む働きアリ

木製の巣箱のようなものをこんな風に利用している

再び採集旅行へ

5月28日の天気予報を見ていると、全国的に29日・30日と気温が上がり、長野県でも30日には30℃にもなるとの予報でした。そこで、急遽、翌日の29日の朝、長野県へと向かいました。片道およそ500kmを走り、午後3時半頃、現地に着きました。
例年の採集場所で、翅を落としたクロオオアリやムネアカオオアリの女王アリが地面を歩いているかどうかを調べましたが、1匹も見当たりません。そこで、その日以前に、結婚飛行が既に行われていたかどうかを知るため、複数の採集場所で、複数のクロオオアリの巣口を覗き込みましたが、あまりはっきりとはしませんでした。大きく口を開いた巣口がなく、巣口の中にも羽アリの姿はわずかしか確認できませんでした。
結婚飛行のピークを過ぎても、巣の中にまだ残っている羽アリがいるので、結婚飛行のピークが既に過ぎているのかどうか、なんとも判断ができないのです。
気温は午後3時40分で25℃程度でした。天気予報の場所よりも高度があるので、予報よりも気温は低めのようです。
2ヶ所で施設の職員の方に大きなアリを見かけたかどうか尋ねてみました。その時の話から、まだ結婚飛行は行われていないように思えました。しかし、言い切れるだけの確かな情報ではありませんでした。ただ、前日から急に暑く感じるようになり、蝉が鳴きだしたとのことでした。
5時頃になると、巣口から出てくる羽アリを目にしましたが、その時に見かけたのは雄アリでした。

巣口に現れた雄アリ 17時07分撮影

もし、既に結婚飛行が行われているとしたら、いつもの採集場所ではなく、標高が低いところへ行けば、ひょっとしたら、結婚飛行に出会えるかもしれないと思い、市内のより標高が低いところへ行ってみました。その内2ヶ所は公園でしたが、クロオオアリがいることは確認できましたが、この日に結婚飛行が行われたようではなく、地面を歩く女王アリの姿はありませんでした。

翌日の30日の朝(午前5時頃の気温は14.5℃前後)も、昨日に引き続き、いつもの採集場所よりも標高が低いところにある市内の別のM公園へ出かけました。このM公園には初めて訪れたのですが、驚いたことにクロオオアリがとても多く棲息していました。また、ムネアカオオアリも棲息していました。この公園でも、前日に結婚飛行は行われなかったようで、地上を歩くクロオオアリやムネアカオオアリの女王アリはいませんでした。この公園の職員の方お二人にも、大きなアリが地上を這っていなかったかを尋ねましたが、今年に限らず、過去にも地上を歩く女王アリには気づいてはいませんでした。

午後1時頃になると、例年の採集場所でも気温は28〜29℃になりました。気温は予報に近づいてきました。

ただ、前日と当日の午前中までの観察と施設の方々のお話などから、クロオオアリとムネアカオオアリの結婚飛行は、1週間から10日ほど先になるのではないかと考えるようになっていました。今年も、「来るのを早まったか」と諦めかけていました。
「これが最後の探索。予定より早いが、この探索が終われば帰路につこう」と思いながら、午後3時前に川沿いの遊歩道を歩いていると、クロオオアリのまだ翅が付いている女王アリが地上を歩いているのを見つけました。

翅が付いているクロオオアリの女王アリが地上を歩いていた 14時44分撮影

他にも女王アリがいて、雄アリの姿もありました。近くにクロオオアリの巣が複数あり、次々と巣穴から出てきます。
ムネアカオオアリの翅のある女王アリもすぐ近くを歩いていました。

ムネアカオオアリの女王アリ 14時49分撮影

すぐに翅のあるムネアカオオアリの女王アリがあちこちを歩いているのに気づきました。近くに巣があるのではないかと思い、遊歩道のすぐ横の樹の幹を見ると、案の定、ムネアカオオアリが群れていました。

14時50分撮影

女王アリが幹を歩いて登っていきます。

この写真には、樹を登っていくムネアカオオアリの女王アリが5匹写っている 14時51分撮影

そして、女王アリが樹の上方から飛び立っていきます。

飛び立っていく様子の動画 14時56分から3分35秒間を2分37秒に編集

幹を登っていくのは、女王アリのみのようでした。おそらく雄アリは、身が軽いため、高いところから飛び立たなくても、飛び立てるのでしょう。クロオオアリ場合も、やはり女王アリについて言えば、草の茎などに登って飛び立つことが多いのですが、共通した行動だと言えるでしょう。

ほんのしばらくすると、遊歩道の近辺の地面を歩く翅を落としたクロオオアリの女王アリが数多く現れました。

翅を落として地面を歩くクロオオアリの新女王アリ 15時4分撮影

その数はとても多く、いくつもあるクロオオアリの巣の近くにもたくさんいました。ところで、あれ程たくさん飛び立って行ったムネアカオオアリの女王アリですが、巣の近くも含め、少し離れた場所にもほとんど新女王アリの姿はありませんでした。結婚飛行の後、飛び立った樹の麓近くに降り立ったのではなく、遠くへ飛んで分散したと考えられます。クロオオアリの新女王アリが、複数の巣がある近くで多数見つかったのとは対照的でした。仮説に過ぎませんが、この場所に巣を構えるクロオオアリは、極く近くに他のコロニーがあるため、飛び立った巣の近くで容易に交尾ができたのでしょう。それに対して、この場所のムネアカオオアリは、近くには他のコロニーがなかったため、遠くへと飛び立ったのでしょう。
この遊歩道近辺で、クロオオアリの新女王アリは136匹、ムネアカオオアリの新女王アリは7匹採集しました。実は、もっとたくさん採集できたはずなのですが、他の箇所でも結婚飛行が行われているかを調べる必要を感じていました。そこで、次の場所へ移動しました。

次に訪れたのは、庭球場のある場所で、かつてここでも多数の女王アリを採集しています。この庭球場でも、結婚飛行が行われていました。クロオオアリの新女王アリが多数地面に下り立っていて、既に地面を掘り始めている女王アリもいました。かつては、ムネアカオオアリも多数採集したことがありましたが、今回は1匹しか採集できませんでした。短時間にクロオオアリの女王アリを43匹採集しましたが、ここでも取り尽くしたわけではなく、次の場所へ移動しました。

次に訪れた場所は公園で、全敷地がほぼ芝生でできていて、とても採集しやすい場所です。ここでも、結婚飛行が行われていました。ですが、既に辺りはもう暗くなりかけていて、ヘッドライトとハンディライトを使っての採集になりました。時間が限られるため、クロオオアリの新女王アリをある程度のまとまった数採集した後、その後はムネアカオオアリのみを採集しました。この公園では、クロオオアリの新女王アリを26匹、ムネアカオオアリの新女王アリを46匹採集しましたが、やはり取り尽くしたわけではありませんでした。

クロオオアリとムネアカオオアリの結婚飛行が行われたかどうかの確認に、市内の3ヶ所しか行けませんでしたので、断言はできないのですが、おそらくこの地方では5月30日に一斉に結婚飛行が行われたのではないかと考えます。ちなみに、自宅に帰ってから妻から聞いた話ですが、同日30日に自宅の庭のクロオオアリも結婚飛行を行ったようです。既に同じ巣で5月18日に結婚飛行を行っていましたから(5月18日のブログ「ついに結婚飛行」)、今回は2度目の結婚飛行を行ったことになります。そのどちらの規模が大きかったかは、実際に私が見比べたわけではないので、分からないのですが……。

こうして、第2回目の採集旅行を終えました。今回採集した匹数は、3ヶ所を合せるとクロオオアリの新女王アリが205匹、ムネアカオオアリの新女王アリが54匹でした。これだけの数がそろえば、対照実験をした際に、確かなデータが取れそうです。