月別アーカイブ: 2018年9月

たった1例のトゲアリの寄生を試みる

9月19日にトゲアリの女王アリを41匹採集し、その内何匹かは事前にお声かけいただいていた方にお分けしましたが、それでも手元にまとまった数の女王アリが残りました。そこで、クロオオアリの1コロニーにだけトゲアリの女王アリを寄生させることにしました。
これまでの経験から、宿主側のコロニーの規模がある程度大きい方が良いように感じていましたので、2015年の5月15日に新女王アリを採集したクロオオアリのコロニーS/N:B15002を用いることにしました。
9月22日の13時半頃、B15002から働きアリを1匹取り出し、クリアカップの中でトゲアリの女王アリと一緒にしました。間もなく、トゲアリの女王アリがクロオオアリを捕らえ、化粧を始めました。

間もなくトゲアリがクロオオアリを捕らえ、化粧を始めた 13時39分撮影

13時51分から1分30秒間の動画

クロオオアリがトゲアリの女王アリの肢に咬みついていましたが、やがて放しました。その後、両方共に自身の体に化粧をしていました。クロオオアリの方は、腹部がいびつな形にへこんでいました。

14時3分から1分30秒間の動画

クロオオアリの方から攻撃する様子はなく、トゲアリにもてあそばれている感じでした。トゲアリは引き続き、化粧に余念がありませんでした。

トゲアリの女王アリと一緒にするクロオオアリの働きアリは、特に考えがあったわけではないのですが、この1匹だけにしました。
14時17分直前に、トゲアリの女王アリと一緒にしていたクロオオアリをフィルムケースに移し入れ、このフィルムケースを蓋をしていない状態で、B15002の本巣の上方のアクセス穴の上に被せました。間もなく、トゲアリの女王アリは、B15002の本巣の中へ入っていきました。

14時17分から1分30秒間の動画

左上方のアクセス穴から入っていきました。その直後に複数のクロオオアリの働きアリに捕まってしまいました。やがて放たれますが、人工巣リトルアンテシェルフの上段で再び捕らえられました。

14時25分から1分30秒間の動画

その7分から8分後も、リトルアンテシェルフの上段で捕らえられたままでしたが、化粧を盛んに行っていました。

14時50分から1分30秒間の動画

それから24分から25分後、トゲアリは、自身の肢に咬みついて離れない1匹のクロオオアリを使って化粧をしていました。他のクロオオアリからは、攻撃はされていませんでした。

14時55分から1分42秒間の動画

その3分から4分後、リトルアンテシェルフの最上段に留まっていたトゲアリは、それまで咬みついていたクロオオアリから自由になり、上から4段目(下から3段目)に移動しました。最早、トゲアリを攻撃する者はいません。トゲアリはクロオオアリの塊の中でさえ自由に行き来できるようになっていました。やがて最下段の段へと移動しました。

14時59分から10分30秒間の動画

14時59分からは、トゲアリの女王アリの動きが活発になりました。最下段から2段目に移り、更に3段目へと移動しました。動きに余裕が見られ、化粧ではなく、身繕いもしていました。クロオオアリとの間に争いはなく、クロオオアリの集団がトゲアリを受け入れたかに見えました。更に、下から4段目へと上がっていきました。クロオオアリの塊の中へも入り込みました。クロオオアリの女王アリを探しているように見えました。やがて5段目(上から2段目)に入っていきました。実は、この段にクロオオアリの女王アリがいるのです。この段では、トゲアリの女王アリは、複数のクロオオアリの働きアリに、制止されました。不審がられているようです。1分10秒ほどたった時、複数のクロオオアリの制止を振り切って、クロオオアリの女王アリがいる塊へと進み、女王アリ同士の戦いが始まりました。戦いはトゲアリに有利に進み、背乗りから腹抱えへと体勢が変わっていきました。両者まぎれて一つ下の上から3段目に移動し、長い時間このままで膠着状態になりました。

寄生は順調に進んでいるように見えます。ただ寄生の成否は、何日も後にならなければ分からないものです。今後の経緯を見ることにします。

トゲアリの女王アリを採集(2018年)

例年、自宅から300km離れた彦根市内(滋賀県)でトゲアリの女王アリを採集していましたが、遠地のため、自宅近くで採集できればと思っていました。けれども、9月の上旬が過ぎても採集できないままでいました。そこで、都合のつく14日から、彦根市内へ採集に出かけました。
雨天の合間になった16日に採集場所へ出かけましたが、この間の天候が不順であったためか、地上を歩く女王アリの姿はありませんでした。

従来からの巣のありかの一つ 地上を歩く女王アリの姿はありませんでした 9月16日撮影

18日になり、やっと天気が回復しましたので、採集場所へ出かけました。まだ、地面は濡れている箇所が多く、早朝は結婚飛行に飛び立つには条件が良くなかったように思われました。案の定、この日、採集できたのは1匹だけでした。とても例外的な1匹で、今朝結婚飛行に飛び立った可能性と、以前に結婚飛行を行い、この日まで放浪していた可能性(こちらを参照)があるように思えました。

18日に採集したただ1匹の女王アリ

その翌日の19日は、2日連続の晴の日になり、トゲアリの女王アリが早朝に、結婚飛行を行うことが容易に予想できました。8時過ぎに採集場所へ着いてみると、案の定、たくさんのトゲアリの女王アリが地上を歩いていました。例年最も多くの女王アリが採集できていた狭い範囲の箇所だけで、大半の女王アリを採集しました。また、以前にも採集できていたその他の箇所でも採集でき、10時前までの2時間弱で、41匹を採集しました。

最も多く採集した箇所の環境 フィルムケースを置いている極近辺に多数の女王アリがいた

帰宅後、41匹の内3匹が肢を部分的に失っていたり、不自由であることが分かりました。ちなみに、採集中には、腹部を失ってもまだ生きていた女王アリを1匹と、肢を失っていることが分かり採集しなかった女王アリが1匹いました。蛇足ですが、この日の2時間弱の間に総計43匹の女王アリに出会い、その内4匹の女王アリが、生きている状態で怪我等をしていたことになります。その怪我等の割合は、11.6%程になります。もっとも、怪我ではなく、他にまるごと食べられた女王アリがいた可能性はあります。

この日、40匹程度を採集したのですが、それは、採集目標を予め40匹と決めていたからです。更に時間をかければ、それ以上採集できたでしょう。前日と比べてこれほど多く採集できたことから、今朝結婚飛行が行われたと断定してよいと思います。ただ、この結婚飛行が今年最初であったと断定することはできません。また、今年は9月に入ってから雨天が多かったことを鑑みると、以後にも本格的な結婚飛行が何回かに渡って行われそうです。