月別アーカイブ: 2018年11月

餌場と巣の途中のアリの道

これまでの「『ありの行列』を考えるシリーズ」で、明らかになってはいますが、クロオオアリの場合、餌場と巣の間の往復の道が同じ個体でも、個体間でも異なっていました。今回は、アリの道の途中の1箇所に注目して、歩く道筋が個体間でどのように異なっているかを観察します。
観察の対象とするのはB巣のクロオオアリです。この間のブログでも触れているように、このクロオオアリたちは、クリの木のアブラムシの甘露を得るために巣とクリの木の間を行き来しています。その途中の道の大部分は、散水ホースを道にしていますので、その間は個体間でも共通した道になってはいますが、巣は散水ホースから少し離れた芝の中にありますから、途中でホースの道からおりることになります。今回は、クロオオアリがホースの道からおりる箇所で観察します。

1回目は、11月28日の10時21分から20分間観察し、2回目は翌29日の10時5分から20分間観察しました。以下2つの動画は、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したものです。

11月28日10時21分から20分間の記録を、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したもの 6分4秒間の動画

11月29日10時5分から20分間の記録を、画面にクロオオアリが写っている時間のみを取り出して編集したもの 4分11秒間の動画

以下は、1回目の6分4秒間の記録を事象ごとに表にまとめたものです。動画を再生する際にインデックスとして参照して下さい。

事象番号 動画開始からの分秒 往路 復路 C巣の往路 C巣の往路
1 0分01秒
2 0分19秒
3 0分24秒
4 0分33秒
5 0分49秒 ✓腹部非満
6 1分02秒
7 1分20秒
8 1分31秒
9 1分33秒
10 1分37秒 ✓← ←✓腹部非満
11 1分38秒 ✓道しるべ
12 1分53秒
13 2分25秒
14 2分43秒
15 3分20秒
16 3分37秒
17 3分46秒
18 3分59秒
19 4分07秒
20 4分18秒
21 4分37秒
22 4分44秒
23 5分08秒
24 5分23秒
25 5分28秒
26 5分31秒
27 5分39秒
総数 14 10 1 3

※腹部非満とは、腹部に蜜を溜めていないように見えることです。
※事象番号10は、復路として現れ、引き返したように観察されました。
※事象番号11は、往路を道しるべを付けながら歩いていました。ただ、後を追う個体は観察されませんでした。ちなみに道しるべを付けながら歩いていたクロオオアリは、往路復路共にこの1匹のみでした。

以下は、同じく2回目の4分11秒間の記録を事象ごとに表にまとめたものです。この日はC巣のクロオオアリは現れませんでした。

事象番号 動画開始からの分秒 往路 復路
1 0分00秒
2 0分11秒
3 0分24秒
4 0分40秒
5 0分56秒
6 1分15秒
7 1分33秒
8 2分02秒
9 2分22秒
10 2分23秒
11 2分41秒
12 3分02秒
13 3分16秒
14 3分28秒
15 3分49秒
総数 7 8

以上の2回に渡る観察から、クロオオアリは、往路復路共に個体ごとに通過する道筋が異なることが分かります。このことから、道しるべホルモンによる共通の道はないことが分かります(散水ホースの部分は共通の道になってはいますが、それは「高速道路」として利用しているからでしょう)。更に、道しるべホルモンそのものが使われていないと考えることもできます。クロオオアリは、道しるべホルモンに依存しなくても、また道筋そのものを覚えなくても、生活空間内であれば、目的地まで移動できる能力(何らかの外部要因に依拠)を持っているのかも知れません。

クリの木に他のコロニーから来訪

クリの木へアブラムシ目当てにB巣からクロオオアリがやって来ていたことは分かっていましたが、C巣からもクロオオアリがやって来ていました。C巣からクリの木までは、かなりの距離があります。

お目当てのクリの木 西方向で撮影

上の写真を撮影した地点から東方向を撮影 フェンス下には散水ホースが伸びている

更に東方向を撮影 散水ホースを丸めている箇所より更に奥(東)の方へとアリの道は続く

写真中央辺りのフェンスの下からほぼ直角に手前へとアリの道が続く 手前中央踏み石のすぐ向こうにC巣の巣穴がある

この間のアリの道のりは、計測すると23mありました。直線距離では16.8mです。かつて観察したアリの道「クロオオアリの行動範囲とアリの『高速道路』」程ではありませんが、歩くしかない小さな昆虫にとっては、やはりかなりの距離です。直線距離の方がもちろん近いのですが、その間は芝が生えています。ですから、ここでも「高速道路」を利用していました。「クロオオアリの行動範囲とアリの『高速道路』」では、クロオオアリたちはコンクリートブロックを高速道路として利用していましたが、今回はコンクリートブロックの上に載せている散水ホースを高速道路として利用していました。

ところで、同じクリの木で、2つのコロニーがアブラムシの甘露を集めている場合、同じ箇所のアブラムシの群塊を利用しているのでしょうか。ふと、そんなことが気になり、クリの木を観察していると、これまでとは違う箇所でもアブラムシの群塊を見つけました。

そこで、C巣から出てきた往路のクロオオアリの後を追ったり、アブラムシの群塊から帰路につくクロオオアリを追ったりしていましたが、途中で追跡できなくなったりしている内に、小雨が降ってきました。結局、この疑問には答えられないまま観察を打ち切りました。

1時間の巣の出入り クロオオアリ

11月28日、クロオオアリの活動の様子を巣の出入りで調べました。対象としたクロオオアリの巣は、庭の中では最もコロニーの規模が大きいB巣です。この日は、曇で気温は観察中の時間帯で14℃前後でした。観察を開始したのは午前9時34分でその時刻から1時間の記録です。

赤丸は巣穴 空色の丸は帰路のアリ 桃色の丸は往路のアリ

巣から出て行った数 36匹
巣に戻ってきた数  27匹
ただし、上記の匹数の中には、巣から出て間もなく巣に戻った4匹が含まれています。巣に戻ってきたクロオオアリの腹部は、多くの場合(巣から出て間もなく巣に戻った4匹以外に、明らかに3匹を除いて)膨れていました。蜜を吸って帰ってきたと考えられ、別の観察から、その蜜源は、11月21日のブログ「まだ活動している庭のクロオオアリ」で触れているクリの木のアブラムシが出す甘露であることがわかっています。
ところで、昆虫などのタンパク源は運び込まれませんでした。この時期になると、もうほとんど昆虫の姿は見なくなっていますので、それは当然のことのように思えます。今回の観察は、僅かに1時間でしたのでそれだけで断言はできませんが、この時期、クロオオアリのコロニーが必要としている養分は主に糖分のようです。

※アブラムシの甘露成分について
引用 日本生態学会誌 57:324 – 333(2007)アリ-アブラムシ共生系における今後の展望:内部共生細菌や天敵群集を含めた複合共生系とアブラムシの適応との相互作用 片山 昇(京都大学生態学研究センター)
甘露成分(326ページ)
アブラムシがアリへ提供する甘露の主要な成分は糖と アミノ酸で、その量や成分はアブラムシや寄生する植物 の種類によって異なる。アブラムシが餌として利用する 植物の師管液の主要な成分はショ糖などの糖類で、ア ミノ酸ではアスパラギンとグルタミンが多い(Ziegler 1975;Sasaki et al. 1990;Douglas 2006)。アブラムシは、 師管液中の必要なものを吸収したあと、残りを甘露とし て排泄する。たとえば、師管液中の全アミノ酸濃度は、 約 60 – 200 mM であるが、甘露中のアミノ酸濃度は、師管 液の 30%程度にまで低下する(Douglas 1992;Sasaki and Ishikawa 1995;Liadouze et al. 1996;Febvay et al. 1999; Lohaus and Moeller 2000;Sandström and Moran 2001; Bernays and Klein 2002;Fischer et al. 2002;Wilkinson and Douglas 2003;Hunt et al. 2006)。

『蟻の自然誌』に見る「道しるべ」記述

『蟻の自然誌』(原題『JOURNEY TO THE ANTS』)は、『蟻』(原題『The Ants』1990年刊行)の4年後(1994年)に同じ著者たちが刊行した著作で、「アリ学の最良のエキスを、なるべく専門用語を減らし、より近づきやすい長さにまとめもの」です。著者は、バート・ヘルドブラーとエドワード・O・ウィルソンです。

本ブログの「ありの行列」を考えるシリーズのその1で、光村図書の3年生の国語教科書の『ありの行列』という教材を取り上げていますが、その著者である大滝哲也氏が、その中で紹介しているのがウィルソンの研究です。
そこで、今回は『蟻の自然誌』の中で、「道しるべ」について触れられている個所を取り上げてみました。なお、引用するのは、辻和希氏と松本忠夫氏が翻訳した朝日新聞社発行(1997年7月25日 第1刷)の書物からです。

「4節 アリのコミュニケーション法」の66ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:アフリカツムギアリ)
「この化学物質は、体節の最後尾の肛門近くにある2つの分泌腺のうち、どちらか一方から出される。どちらの分泌腺も、私たちの研究によって新しく発見されたものである。働きアリが「食べものを発見したからついてきなさい!」と言いたいときには、2つの分泌腺のうちのひとつ、後腸腺からの分泌液を道しるべとして落としながら、食べ物の場所から巣へと走って帰る。途中、他の働きアリに出会うと、頭を振って2本の触角で相手に触る。もし、食べ物が液状のものなら、大腮を開けて吐き戻したサンプルを相手に差し出す。仲間はそれをちょっと味わって、新たに発見された食物資源へと道しるべに沿って走り出すことになる。」

「5節 戦争と外交政策」の99ページから引用(引用箇所の研究対象の種名:ミツツボアリ)
「ミツツボアリの働きアリは、昆虫をはじめとするさまざまな節足動物を狩る。とくにシロアリが好物だ。偵察アリたちは、落ちた樹の枝や乾いた牛糞の塊の下などによくいる採餌中のシロアリの集団に出くわすと、匂い道しるべを残しながら巣に走って帰る。道しるべの誘引物質は後腸液のなかに含まれていて、これが肛門から地面へと点々と連続的に落とされる。また動員をかけるアリは、帰り道で仲間に出会うとかならず立ち止まり、身体を相手に向けて揺り動かす。道しるべおよび身体の接触という、この組み合わせシグナルが、少人数の採餌部隊をシロアリの場所へとまず誘導する

これらは、私が掲げている仮説(但しクロオオアリについて)とは多いに異なっています。私の仮説を再録しておきましょう。

⑴最初に餌を見つけたクロオオアリは、帰路道しるべを付けずに巣に戻る。
⑵⑴のクロオオアリは、仲間を連れて餌場へ向かう。その際、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、仲間がついてくる。
⑶その帰りも、いずれのクロオオアリも道しるべは付けずに帰巣し、その後餌場へ向かう際、新たな仲間を引き連れて出かける際には、道しるべを付けながら進み、その匂いを追いながら、新たな仲間がついてくる。

クロオオアリの越冬と幼虫

今年の2月4日にも、クロオオアリの冬越しの様子(「種々のアリの幼虫の冬越し」)に触れましたが、今年も初冬を迎えてクロオオアリの冬越しが始まっています。
特別仕様の人工巣2つ」で紹介したS/N:B120614-86には、6日前にパイプ一杯の蜜を与えましたが、まだかなりの蜜が残っています。

夏場なら1〜2日でパイプ一杯の蜜がなくなる

下の写真は、そのS/N:B120614-86の幼生虫の様子です。

S/N:B120614-86 卵や繭はなく、同じ大きさの小さな幼虫がたくさん見られる

たくさんの幼虫が塊状になっていて、皆同じ大きさの小さな幼虫です。卵や繭はありません。
同じく「特別仕様の人工巣2つ」で紹介したS/N:B15006の方も、卵や繭はなく、同じ大きさの小さな幼虫がたくさん見られます。

S/N:B15006 同じく卵や繭はなく、同じ大きさの小さな幼虫がたくさん見られる

冬にクロオオアリの巣を掘ったことはありませんので、断言はできないのですが、おそらく自然界のクロオオアリのコロニーでも、上記と同じく成虫と小さな幼虫のみで冬越しをしているのでしょう。
これらの小さな幼虫は、数ヶ月の間、成長しないままで冬越しをするのですが、それなら、女王アリは産卵を早めに終えて成虫まで育て上げてから、翌年の春に産卵を再開するという選択肢もありそうなのですが……。

まだ活動している庭のクロオオアリ

今年の6月5日のブログ「アンテグラウンドⅠ型」で紹介している飼育器の中のクロオオアリは、このところ、ほとんどフィールドには出てこなくなりました。

アンテグラウンドⅠ型の様子 撮影した13時32分時点では、このフィールドには、働きアリは1匹も出て来ていなかった 11月21日撮影

気温の方は、今朝は、今年の夏以降の最低の3℃(自宅の屋外気象計による)になり、いよいよ冬が間近になってきました。それでも、庭のミツバチはまだ活動していました。

巣箱を出入りしている 11月21日11時2分撮影

もうすっかり昆虫の姿を見る機会が少なくなりましたが、カマキリムシだけは、まだ庭で姿を見ます。

11月21日11時2分撮影

11月21日11時7分撮影

ところで、庭のクロオオアリは今日も地上で活動しているのでしょうか。様子を見に行くと、これまでも通路になっていた場所にクロオオアリがいました。それは、クリの木の幹に通じる道で、クリの木の上方をよくよく見ると、アブラムシが群がっている枝があり、そこにクロオオアリがいました。

11時1分撮影

アブラムシのすぐ横の枝にいたり、甘露で濡れた葉を舐めていたりしました。このアブラムシは、かなり大きな体の種で、クリの木に毎年発生しています。クリの木には目立った害はないようなので、今年からは駆除しないでいました。庭の果樹の中では唯一アブラムシを保護していて、クロオオアリをはじめ他の種のアリたちの餌場になっています。