「「誘拐」されたクロオオアリは巣に戻れるか(1)」では、クロオオアリの生活圏から離れた場所へとクロオオアリを移動させましたが、今度は、生活圏内と思われる近くで放ちます。今回も、前回と同じコロニーのクロオオアリを巣口で捕らえ、蜜器へと誘い、クロオオアリがいるその蜜器を巣口から1.2m離れた場所に設置します。このクロオオアリをAW2と名付けます。
AW2は最初から迷う風でもなく、巣口がある上方へと歩いていきました。そして、3分後には巣穴へと入っていきました。
この場合、AW2は「誘拐」されたのですから、巣口から蜜器までの道には、道しるべはありませんでした。にも関わらず、ほぼ迷うこともなく、巣へと帰って行けたのです。
ところが僅かにその2分後の10時13分、1匹のクロオオアリが巣から出てきて、少し西下方向へ歩いた後、蜜器のある下方へと下っていきました。
そして、測量杭を登り、蜜を吸い始めました。
このアリがAW2だとすると、巣に戻ってから僅かに2分間で、腹部に溜めていた蜜を仲間に渡したことになります。それは、とても考えられないことです。
このアリは10時20分になると帰り始め、僅か1分後には巣の中に入っていきました。
それから3分後の10時24分に、巣口から何匹かが出てきました。
これは、仲間を餌場へと連れて行く行動です。先頭のアリは、腹部をリズミカルに時々曲げて、地面等に道しるべを付けています。
そして、巣口を出発して3分後に、測量杭の麓まで到達しました。
先程、蜜器にやってきた1匹のクロオオアリについて、「それは、とても考えられないことです」と書きましたが、この仲間連れで出てきたアリを見て、何だか謎が解けたように思えました。というのは、先程の1匹のアリは、最初に「誘拐」したアリとは別のアリで、そのアリが往復するところを観察していたと考えるのです。すると、別のアリが自力で蜜を見つけたことになり、そのことから蜜器を置いていた場所が、A巣の生活圏内であったと言えることになります。
そこで、今回の実験は、 当初の想定通り、クロオオアリを生活圏内に移動した場合の行動記録と言えそうです。
そうだとすると、仲間を連れて蜜器へと案内したのは、AW2であった可能性が出てきます。AW2が巣に戻ったのは10時11分でした。そして、複数のアリが同時に出てきたのは10時24分でした。その間は13分間です。ところで、昨日の観察では、蜜を持ち帰って次に巣から出てくるまでの時間は、12分、15分、13分でした。見事にほぼ一致しています。やはり、仲間を蜜器へと案内したのはAW2なのでしょう。
その後も、A巣のクロオオアリはこの蜜器と巣とを往復していましたが、帰路を迷ってしまうアリを2匹見かけました。比較的近い距離ですが、それでも帰路を大きく逸れていました。クロオオアリにも個体により、能力に個性があるのでしょう。