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一時的社会寄生の試みを継続 寄生時期と成功率の関係は?

一時的社会寄生の試みを13日に始めて15日にトゲアリの死亡という結果になったことは、前回のブログで報告しています。
その15日と16日に、同様の方法で、トゲアリの女王アリが同様のクロオオアリのコロニー(2024年5月18日に新女王アリを採集)に寄生するよう試みました。
寄主は、BH240518-11・12・13・14(以上15日寄生開始)、15・16・17・18・20・21(以上16日寄生開始)の9コロニーです。

化粧行為が見られた 寄主はBH240518-13 9月15日14時21分撮影
背面からクロオオアリの首を咬もうとしている 寄主はBH240518-15  9月16日10時44分撮影
腹面からクロオオアリの女王アリの頸に咬みついていた 寄主はBH240518-16 9月16日11時25分撮影
背面からクロオオアリの首を咬もうとしている 寄主はBH240518-18 9月16日17時3分撮影

上に挙げた4枚の写真の様子は、寄生成功への一歩となる行為ですが、実は9例を通して極く希な事例です。ほとんどの場合、化粧行為はなく、またクロオオアリの女王アリを襲おうとはしていませんでした。
トゲアリの女王アリ9匹は、9月17日までに全て殺されてしまいました。

今年は、9月13日から10例で寄生を試みたのですが、何れも寄生に失敗したことになります。寄生成功率が0%と言う結果ですが、なぜそのようになったのか、明言はできないのですが、寄生を開始させる時期によるのではないかと考えています。
自然界では、結婚飛行の直後から寄生行動が始まっていると思われるのですが、今回の一連の寄生の試みを始めたのは、5日後から8日後でした。
そこで、寄生を開始させる時期が、寄生の成功率と関係があるのかどうかを過去の事例を参照して考察してみます。

2018年の場合は、トゲアリの女王アリを9月19日に採集し、3日後の22日に寄生を試みています。サンプルは1例で、寄生に成功しています。
2021年の場合は、トゲアリの女王アリを9月12日に採集し、4日後の16日に寄生を試みています。サンプルは2例で、1例が寄生に成功しています。
2022年の場合は、トゲアリの女王アリを9月10日に採集し、2日後3日後の12日・13日に寄生を試みています。サンプルは5例で、5例共に寄生に成功しています。

ちなみに以上挙げたこれらは、何れもトゲアリの女王アリを直接クロオオアリのコロニーに入れるという方法をとっており、今年の場合と寄生の方法は同じです。
これらのデータを見る限りでは、上記の寄生方法ではと言う条件付きですが、結婚飛行後より早い時点で寄生を試みる方が、寄生の成功率は高いと言えそうです。

一時的社会寄生の試みを開始 T240908-01

先日の9月8日に採集したトゲアリの新女王アリをクロオオアリのコロニーに寄生させることにしました。寄主のコロニーは、今年の5月18日に採集した新女王アリのコロニーBH240518-11です。

寄主になるBH240518-11

寄生させるトゲアリの女王アリをT240908-01と名付けます。

T240908-01はクリアカップに入れている

寄生の方法としては、クリアカップの蓋を外して逆さにし、BH240518-11のクリアケースの蓋の穴のシリコン栓を外して被せます。

寄生開始 9月13日9時43分撮影

間もなく、クロオオアリの働きアリが蓋の穴からクリアカップの中に入って行きましたが、両者の接触はなく、したがって化粧行為はありませんでした。そして化粧行為がないままに、トゲアリの女王アリはクリアケースの中に入って行きました。

クリアカップの中に入って行く2匹目のクロオオアリの働きアリ 9時45分4秒撮影
トゲアリの女王アリがクリアケースの中に入る穴を見つけたところ 9時45分38秒撮影

トゲアリの女王アリは何度もクロオオアリの女王アリと接触しました。多くの場合、クロオオアリの女王アリから攻撃されていて、逃げ回っているように見えました。クロオオアリの働きアリからも攻撃されていましたが、拘束される場面は極く僅かでした。その間も、トゲアリの女王アリは化粧行為をしようとはしませんでした。

9時47分16秒撮影
9時47分24秒撮影
9時47分33秒撮影
9時52分16秒撮影

ところが、唐突に思えたのですが、トゲアリの女王アリがクロオオアリの女王アリの頸に腹面から食い付きました。この体勢は、寄生成功への第一歩です。

9時54分撮影

しばらくすると、働きアリが女王アリの周りに集まり、クロオオアリの女王アリの躯体を舐めていました。

10時6分撮影

ところが20時頃見に行くと、トゲアリの女王アリは、クロオオアリの女王アリから離れていて、働きアリに取り囲まれて攻撃されていました。

20時0分撮影

それから2日後の9月15日、トゲアリの女王アリは死んでいました。

トゲアリの女王アリを採集(2024年)

トゲアリの新女王アリを例年同じ場所で採集しています。今年は9月7日に現地へ行き、8日の朝に採集地点に行きました。
車から降りるとすぐ、車の横でトゲアリの脱翅女王アリを見つけました。

2024年9月8日7時30分撮影

D巣があるところまで車道を上がって行くと、まだ羽アリが巣口の周りに出ていました。

羽アリが4匹写っている 7時41分撮影

2021年来観察していることですが、今年も巣口の周りで、複数の脱翅女王アリが働きアリに拘束(攻撃)されていました。

7時41分撮影
7時42分撮影
7時44分撮影
7時44分撮影
中には翅がついたままの新女王アリも攻撃されていた 7時53分撮影

これらの拘束されている女王アリは、これまでの観察から、この樹の上方から下って来たと考えられます。今年は1匹のみの観察とはなりましたが、脱翅女王アリが、樹上から早足で下って来るところを見ました。
ところで今年は、新たにトゲアリの巣を一箇所見つけました。それはD巣がある場所から更に車道を上がって行ったところにありました。

トゲアリの巣があった樹(中央)
樹の下方中央辺り
線状にへこんだ箇所に巣があるようだ 9時23分撮影

この巣をE巣と名付けることにします。
今年は、7時半頃から10時半頃までの3時間で、トゲアリの新女王アリを53匹採集しました(内1匹は採集直後に死亡)。

この写真撮影の後で2匹を採集した 10時33分撮影

ところで採集箇所ですが、それぞれの採集箇所で何匹採集したかの記録は付けてはいないものの、今年は下の写真の箇所で最も多く採集できたように思います。

この場所の近くでトゲアリの巣は見つかっていない

採集箇所については、2013年からこの同じ採集場所で採集しているのですが、採集できた箇所・多く採集できた箇所は、10年を越える期間を経て変わってきています。

この場所で大量に採集できたことがある 今年は採集できず
この場所でも女王アリを多数採集したことがあった
この場所で採集できたことがあったが、昨今では採集できていない
今までほぼ採集できていなかったが、今年は数匹採集できた

ちなみに、今年の気象は次のようでした。
  日 (最低気温 / 最高気温) 昼(06:00-18:00) 夜(18:00-翌日06:00)の天気概況
 9月7日  (23.1 / 32.7)       晴         晴
 9月8日  (24.4 / 33.8)       晴         晴

ところで、脱翅の瞬間を見ることができました。

脱翅直前 9時42分31秒
脱翅直後 9時42分33秒

単独女王アリと女王アリがいないコロニーの合併(1年目の同世代のクロオオアリ)

これまでも、オオアリの同種間共存については、いくつかの事例を見てきました。その中で、ムネアカオオアリの事例で、単独女王アリと女王アリがいないコロニーの合併があります。この事例では、共存が成立していて、次のように結論づけています。

「既に女王アリを失っている創巣から2年目のムネアカオオアリのコロニーの働きアリと、創巣から4年目のムネアカオオアリの単独女王アリは、共存できることがある。」

今回は「単独女王アリと女王アリがいないコロニーの合併」という点では同じですが、クロオオアリ同士で、「既に女王アリを失っている創巣から1年目のコロニーの働きアリと、同世代の単独女王アリ」という点が異なる共存を試みることにしました。

BH240518-31:7月28日に女王アリの死亡を確認
 今年5月18日に蒜山高原で新女王アリを採集したクロオオアリのコロニー
BH240518-53:単独女王アリ
 今年5月18日に蒜山高原で採集したクロオオアリ新女王アリ、成虫はいないが子育てはできるようだ

左がBH240518-31のコロニー、右が単独女王アリBH240518-53
BH240518-31のコロニーの様子 9月1日16時52分撮影
BH240518-53の様子 幼生虫がいる 9月1日16時53分撮影

9月1日の17時前に合併を開始しました。合併の方法としては、単独女王アリの方をカット綿ごと(女王アリと幼生虫を乗せて)BH240518-31のコロニーの中に入れます。

合併の直後の様子 16時55分59秒撮影
16時58分01秒撮影

戦いが起こりましたが、間もなくすると、女王アリと働きアリ間で栄養交換が見られました。

16時58分45秒撮影
17時01分27秒撮影
攻撃姿勢を取りながら栄養交換をする働きアリ 女王アリに咬みつこうとしている働きアリもいる 17時03分07秒撮影
攻撃を受けながらも栄養交換をする女王アリ 17時07分13秒撮影
攻撃される女王アリ 17時07分52秒撮影
17時08分16秒撮影
17時09分04秒撮影

これまで、攻撃をしかけるのは主に働きアリの方でしたが、女王アリが働きアリを殺す場面がありました。

この直前に女王アリが働きアリ(右下方 頭部が落とされている)を殺した 17時13分37秒撮影
女王アリが幼虫を咥える場面もあった 女王アリが育てていた幼生虫は既に働きアリに受け入れられていた 17時20分16秒撮影
17時20分26秒撮影
まだ羽化して間もない働きアリとも栄養交換をしていた 17時24分20秒撮影

合併が始まってからほぼ30分程度で、両者は落ち着いてきたようです。
それから3日後の9月4日、合併が成功して共存が始まっているようでした。新たに働きアリが殺されることも無かったようです。

9月4日19時12分撮影
ゴミ置き場の様子 9月4日19時15分撮影

この実験結果を見る限りでは、次のように言えそうです。

「既に女王アリを失っている創巣から1年目のクロオオアリのコロニーの働きアリと、同世代のクロオオアリの単独女王アリは、創巣から3ヶ月超の時点で、共存できることがある。」