トゲアリの女王アリ70匹を寄生させるためにクロオオアリやムネアカアリの巣に侵入させ、そのうち13匹が寄生に成功したことは、前回のブログで書きました。残りの57匹は寄生に失敗し、殺されたのですが、その殺されたトゲアリの女王アリが、どんな傷を負ったのか知りたくて、今年は、死んだ女王アリの死体を調べてみました。
傷を負っていない個体は13匹で、調べていない個体は9匹です。傷を負っていた35個体(57匹−13匹−9匹)の傷があった箇所は各部位ごとに延べで次の表のようになります。
(各部位の傷の程度は違いますが、傷の大小に関係なく、その部位に傷がある場合を1と数えています。この場合の傷を負うとは、その部位を全て切断されて失うか、部位を途中から切断されて失っている状態を言います)
部位 | 左 | 右 |
触角 | 9 | 9 |
前脚 | 15 | 20 |
中脚 | 3 | 3 |
後脚 | 3 | 3 |
これは、大変興味深い数値です。前脚の傷が明らかに多いのです。トゲアリの女王アリにとって、前脚は特別な役割があります。前脚には刷毛のような器官があり、この器官を使って、体をペンキングするからです。(関連ブログ「識別成分塗布」2014年9月27日 参照)
ですから、前脚を失ってしまうと、侵入する巣特有の識別成分を自分の体に塗布することができなくなり、体を宿主のコロニーに同化(カモフラージュ)することができなくなって、攻撃を受けることになります。
次に触角の傷も多いことがわかります。触角を失うと外界の情報が得られなくなりますから、これも大きな痛手となります。
ところで、トゲアリの女王アリが傷を負う(部位を切断される)のは、宿主の女王アリとの戦いの際です。トゲアリの方が宿主の女王アリに傷を負わせることはありませんが、宿主の女王アリは、トゲアリの女王アリに傷を負わせます。両者の一騎打ちで一瞬の内にトゲアリの脚等が切断されるのを幾度も見たことがあります。働きアリもトゲアリの女王アリを攻撃しますが、私が観察した限りでは、トゲアリの女王アリが生きている内は、働きアリにはトゲアリの脚や触角を切断することはできないようです。
クロオオアリやムネアカオオアリの女王アリは、本能的にトゲアリの女王アリの急所を知っていることになります。これも進化の過程で獲得した能力なのでしょうか。