2015年度トゲアリの寄生実験の経緯と結果

2015年は8月28日から9月28日までの1ヶ月間にトゲアリの女王アリを合わせて86匹採集しました。9月の上旬に一定期間、林道が復旧工事のため閉鎖されたため、その間、徒歩で1度だけ採集場所に行くということがありました。また、他用に追われ採集に行けない期間もありました。ですから、昨年の111匹、一昨年の144匹と比べると採集した数は少ないのですが、今年はトゲアリの羽アリが飛び立った数が少なかったというわけではありません。

参考1:過去3年間の採集時期と採集個体数
2013年 9月12日〜9月25日 144匹
2014年 9月02日〜9月17日 111匹
2015年 8月28日〜9月28日   86匹

参考2:2015年の採集日と個体数
8月28日 17匹
8月29日   4匹
8月31日   2匹
9月02日   3匹
9月05日   1匹
9月12日 21匹
9月20日 28匹
9月28日 10匹(採集目標10匹に達したため)

〈実験1〉(ムネアカオオアリ)
◦ 宿主の女王アリを冷凍死させる
◦ 2015年採集のムネアカオオアリを宿主として使う
トゲアリの女王アリが宿主のコロニーに侵入後、脚や触角の切断という深手を負うのは、宿主の女王アリとの戦いです。(働きアリが、まだ生きているトゲアリの女王アリの脚や触角を切断することはできないようです。)それなら、あらかじめ宿主の女王アリを取り除いておけばリスクが少なくなるのですが、そうすると女王アリに咬みついて行う「識別成分塗布」はできません。
そこで、昨年思いついたのが、宿主の女王アリを冷凍して殺す方法です。詳しくは、2014年12月2日のブログ「トゲアリの寄生をより成功させるには」をご覧下さい。昨年は、3例試み、3例ともに寄生に成功しましたが、3例しか事例がないため、今年この方法を検証することにしました。
また、その年採集の女王アリのコロニーを宿主にして、比較的高い確率で寄生に成功するようなら、寄生コロニーを比較的容易にまとまった数作ることができるようになります。幸い、今年も今年採集の女王アリのコロニーが一定数残っていましたので、宿主として使うことにしました。

実験の手順
①ムネアカオオアリのコロニーを5分間冷凍室に入れる
②ムネアカオオアリの女王アリを取り出し、更に30分冷凍室に入れる
③死亡したムネアカオオアリの女王アリとトゲアリの女王アリをいっしょにする
④1時間後、両者を元のムネアカオオアリの巣に入れる

宿主とトゲアリの女王アリのS/N
R15020(働きアリ21匹) T150828-01
R15048(働きアリ21匹) T150828-02
R15051(働きアリ19匹) T150828-03
R15079(働きアリ20匹) T150828-04
R15080(働きアリ16匹) T150828-05

9月2日に実験を開始しました。ところが、早速、実験の手順②で躓いてしまいました。30分間冷凍室に入れていたのでは、5個体とも女王アリが仮死状態になっていただけで生きていたのです。そのため、ムネアカオオアリの巣に戻す前に、T150828-01とT150828-02が、ムネアカオオアリの女王アリに殺されてしまいました。その代わりとしては、T150902-01とT150902-02を用意しました。

翌日3日に、ムネアカオオアリの5個体を再び冷凍庫に入れました。今度は1時間にしましたが、それでもR15020とR15051とR15080は生き返りました。ただそのままで実験を継続しました。実験の結果は次のようになりました。

R15020(働きアリ21匹) T150902-01 9月9日死
R15048(働きアリ21匹) T150902-02 9月10日死
R15051(働きアリ19匹) T150828-03 現在も生きている
R15079(働きアリ20匹) T150828-04 9月14日死
R15080(働きアリ16匹) T150828-05 9月5日死

〈実験2〉(クロオオアリ)
9月6日、実験1と同様の方法で実験をしていますが、クロオオアリの女王アリを1〜2時間程度冷凍室に入れ、実験の手順④を3時間にしています。結果は次のようになりました。

B15007 T150828-08 9月14日死
B15009 T150828-09 9月9日死
B15012 T150828-10 9月14日死
B15015 T150828-12 9月8日死
B15027 T150828-13 10月1日〜17日の間に死

〈実験3〉(ムネアカオオアリ)
9月6日、実験2と同様の方法で実験をしていますが、ムネアカオオアリの女王アリを2時間冷凍室に入れています。手順④は同様に3時間です。結果は次のようになりました。

R15002 T150828-14 9月6日蟻酸死 再投入T150829-02 9月14日死
R15006 T150828-15 9月6日蟻酸死 再投入T150902-03 9月19日死
R15007 T150828-16 9月14日死
R15026 T150828-17 9月24日死
R15038 T150829-01 10月25日生きていた

表中、蟻酸死とあるのはこういうことです。冷凍死させたムネアカオオアリの女王アリと一緒にしてから3時間経たない内に、トゲアリの女王アリが死んでしまいました。その原因はその日には分からなかったのですが、ムネアカオオアリの女王アリが冷凍死する時に、蟻酸を出していたようです。その冷凍死したムネアカオオアリの女王アリがいる容器の中に、トゲアリの女王アリを入れたために、トゲアリが死んだ考えられます。

T150829-01が「10月25日生きていた」というのは、こういうことです。この時、働きアリ(ムネアカオオアリ)はわずかに3匹しかいませんでしたので、これからに不安がありました。そこで、11月13日のブログ「コロニー同士の合併 共存 その1」で取り上げているムネアカオオアリの合併コロニーの中に、入れることにしました。もし、うまくいけば、一挙に大家族になります。
合併コロニーですから、コロニーを見分ける識別成分は混在していて、案外すんなりとトゲアリの女王アリが受け入れられるのではないかと考えたのです。しかし、結果は意外なものでした。女王アリは攻撃を受け、死んでしまいました。一緒に入れた3匹の働きアリが受け入れられたかは、確かめられていません。

〈実験4〉(クロオオアリ)
9月12日から実験を始めています。

B15046 T150912-01 当日蟻酸死 T150912-06 9月16日死
B15109 T150912-02 9月16日死
B15124 T150912-03 9月14日死
B15152 T150912-04 9月20日死
B15155 T150912-05 9月19日死

初めクロオオアリの女王アリを2時間冷凍しましたが、B15152とB15155は生き返りました。この2個体は13日に3時間かけて冷凍死させました。

〈実験5〉(ムネアカオオアリ)
9月13日から実験を始めています。(3時間かけて冷凍死させています)

R15035 T150912-07 9月24日死
R15065 T150912-08 9月19日死
R15069 T150912-09 9月24日死
R15090 T150912-10 9月24日死
R15099 T150912-11 9月19日死

〈実験6〉(クロオオアリムネアカオオアリ
9月14から実験を始めています。この実験では、宿主の女王アリを冷凍死させず、宿主のコロニーの中に直接トゲアリの女王アリを入れました。

B15062 T150912-12 9月16日死
B15067 T150912-13 9月16日死
B15138 T150912-14 9月16日死
R15074 T150912-15 9月16日死
R15084 T150912-16 9月16日死

〈実験7〉(クロオオアリムネアカオオアリ
9月20日から実験を始めています。この実験は、2015年採集の女王アリのコロニーではなく、また、宿主の女王アリを殺さずに寄生させています。昨年まで多用していた方法によるものです。

R121004(2012/06/14採集 ムネアカオオアリ) T150920-01 9月24日死
NESTCON02010(2013/06/16採集 ムネアカオオアリ) T150920-02 9月24日死
NESTCON01010(2011/06/08採集 クロオオアリ) T150920-03 現在も生きている
ANTCUB03002(2013/06/17採集 クロオオアリ) T150920-04 9月24日死
NESTCON01021(2012/06/14採集 クロオオアリ) T150920-05 現在も生きている
NESTCON01029(2012/06/14採集 ムネアカオオアリ) T150920-06 9月24日死

2015年度のトゲアリの寄生の実験は以上となります。

実験総数 36
クロオオアリへの寄生の実験 16
ムネアカオオアリへの寄生の実験 20
凍死させた女王アリへの寄生
→クロオオアリ 10
→ムネアカオオアリ 12(外数で3は生き返ったまま寄生)
2015年採集の女王アリのコロニーへの寄生
→クロオオアリ 13
→ムネアカオオアリ 17

寄生の成功率
2015年採集の女王アリのコロニーで、凍死させた場合、クロオオアリで0/10、ムネアカオオアリで1/12で、全体としては1/22(4.5%)になりました。
他方、2015年前からのコロニーで、凍死させずに寄生させた場合、クロオオアリで2/3、ムネアカオオアリで0/3で、全体としては2/6(33.3%)になりました。
また、2015年採集の女王アリのコロニーで、凍死させずに寄生させた場合、クロオオアリで0/3、ムネアカオオアリで1/5で、全体としては1/8(12.5%)になりました。

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