年を越して再度の子育てに成功するか?

現在、簡易小型飼育器「アンテキューブ」で飼育しているクロオオアリ・ムネアカオオアリの中で、子育てに失敗し働きアリのいない個体が7例あります。

S/N 採集日 採集場所 8月頃までの様子 8/27 9/02 10/23
007 ムネアカオオアリ 2012/07/26 野麦峠 不明  働きアリなし  不明  子全てなし
016 ムネアカオオアリ 2012/07/27 駒ヶ岳しらび平 不明 不明 幼虫10匹
073 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 8月3日には働きアリが2匹いた  卵1 子全てなし
075 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 少なくとも2つの繭があったが、その繭がなくなっていた(8月17日)  繭1 子全てなし
076 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 少なくとも2つの繭があったが、その繭がなくなっていた(7月28日)  なし 子全てなし
080 クロオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 繭までは育てていた  繭2 子全てなし
085 ムネアカオオアリ 2012/06/14 駒ケ根市 産卵はしたが、繭まで育てた形跡なし  卵7 子全てなし

これらの女王アリは、死ぬことなく冬を越したのですが、冬の間、水と餌を与えていました。餌は糖分のみで、次のようにして作ったものです。
小さな容器に砂糖を入れて少量の水を加えます。よくかき混ぜて砂糖を溶かします。そこに蜂蜜とメープルシロップを少量加えてよく混ぜます。コツは、先に水で砂糖を溶かしておくことです。固体の砂糖と蜂蜜やメープルシロップを混ぜたのでは、砂糖はなかなか溶けません。その後で水を加えてもなかなか溶けないのです。
メープルシロップにはたんぱく質はほぼ含まれてなく、ほとんどが炭水化物です。また、蜂蜜も主成分は炭水化物で、たんぱく質はほぼ含まれていません。砂糖(白砂糖)には、たんぱく質は含まれてなく、ほぼ全てが炭水化物です。(下表 五訂 日本食品標準成分表)

 

黒砂糖

白砂糖

ハチミツ

メープルシロップ

エネルギー(kcal)

354

384

294

250

ビタミンB1 (mg)

0.05

0

0.01

ビタミンB2 (mg)

0.07

0

0.01

0.02

ビタミンB6 (mg)

0.72

ビタミンC (mg)

0

3

0

Ca (mg)

240

1

2

75

K (mg)

1100

2

13

230

Fe (mg)

4.7

0.1

0.8

0.4

Cu (mg)

0.24

0.01

0.04

0.01

Mg (mg)

31

1

1

17

Zn (mg)

0.5

0.3

1.5

Na (mg)

27

1

7

1

P (mg)

31

微量

4

1

パントテン酸 (mg)

1.38

0.05

0.13

葉酸 (mg)

10

1

1

ナイアシン (mg)

0.8

0.2

タンパク質(g)

1.7

0

0.2

0.1

炭水化物(g)

89.7

99.2

79.7

66.3

女王アリには、何日かおきにこのシロップと水を飲ませましたから、冬を越すことができたのです。個体の生命を維持するだけならば、タンパク源はいらないようです。
ところで、子育てに失敗した女王アリが再び子育てをすることができるのでしょうか。同じ年内にはそれが不可能であったことは、昨年の観察からわかっていますが、1年後の春を迎えて、再び子育てができるのでしょうか。
S/N016以外は、10月23日時点で、卵も幼虫も蛹もいませんでしたが、この春になって産卵する個体も出てきています。3月21日と3月31日の卵の数を併記しますと、S/N007:8→8個、S/N073:0→7個、S/N075:0→3個、S/N076:0→0個、S/N085:6→14個となります。1個体を除いて産卵を始めました。また、S/N016は、3月31日時点で新たに卵を7個産んでいました。その他に幼虫が1匹育ちつつあり、死んでミイラ状になった幼虫が4匹確認できました。これらは、昨年の10月23日にいた幼虫10匹の中の5匹だと考えられます。

S/N016 ムネアカオオアリだが、全身が黒い

S/N016 ムネアカオオアリだが、全身が黒い

いずれにせよ、1匹だけで冬を越した女王アリが、春を迎えて子育てを始めようとしているのです。この子育ては成功するのでしょうか。今後の観察が待たれます。
なお、蛇足になりますが、例えこの子育てが成功しても、自然界ではあり得ないことです。働きアリのいない女王アリは、自らは餌を得ることはできませんから、次の春を迎えることはできず、死滅するしかないのです。

※S/N016は、全身が黒いのでクロオオアリのようにも見えますが、全体に光沢があり、ムネアカオオアリだと分かります。(クロオオアリにはあまり光沢はありません) 7月27日に駒ヶ岳のしらび平(標高1680m辺り)で採集しました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください