トゲアリ物語(4)

ところで、郡場央基氏のことだが、氏はアリの研究を主としておられた方である。論文の他には、一例を挙げれば、1979年に平井文人氏と共著で『くろおおあり』 (えほん・しぜんシリーズ ポプラ社)を出されている。

氏のアリの研究の中には、クサアリモドキに関するものもあり、論文としては「クサアリモドキの社会寄生に関する実験と観察」(1956年5月5日)などがある。

そのクサアリモドキだが、私はかつて氏に教えていただいたことがある。1970年のことであった。

いただいた手紙の一部

その手紙の内容はテキスト化している。

お手紙拝見しました。御返事非常におくれて失礼しました。
お送りになった標本は確かにクサアリモドキの肥雌です。クサアリモドキの雌には二型あり、(正常雌:α-♀と肥雌:β-♀)正常雌は働きアリよりも少し体が大きいだけで肢の形が平たくないと言うことです。私も正常雌の方はあまり採集したことがなく、形態生態についてしらべたことはありません。
肥雌の肢のひらたいのが運ばれるための肢であると言うあなたの考えは大変面白いと思いました。他の寄生アリにも同じような傾向を示すものが知られています。
ヤマアリの巣に肥雌を入れてみたと言うことですが、やはりヤマアリ属では少し縁が遠いようで、寄生は無理と思います。しかしそれとは別にして実際にためしてみることはやはり大切なことです。
クサアリモドキの飛出期は7月頃ですので、寄生生活を見ようと思えば、それ以前にトビイロケアリの群を用意しておかねばなりません。寄生アリの方も無傷の元気なものが望ましいのは勿論です。採集の時、ビンに密閉すると自分の出した蟻酸に冒されることもありますので金網張りの管ビンに入れるとか、強くつまむようなつかみ方をしないとかの注意が必要です。乾燥にも弱いのでビンの中を適度にしめらせておくことも大切です。肥雌自体は稀なものではないのですから注意していれば採集の機会も飼育の機会も十分得られると思います。
最後に日本昆虫記のアリの話の中に訂正しておきたい事がありますのでつけ加えておきます。
203頁 写真説明 アメイロケアリ→アメイロアリ
206頁 写真 イチヂクのみつ→イチヂク樹幹上のカイガラムシのみつ
226頁 ここに羽化の際に働きアリがまゆをなめてぬらすことが書いてありますが、その後の観察ではまゆは特にぬらしたりしないでも咬み破るのが普通の状態のようです。まゆをぬらしたのは巣内の乾燥のような異常な状態の中での行動ではないかと思われるのですが、その点もまだ確かめてはおらずはっきりしたことは言えません。
以上

四月二十日
大月正雄様

郡場央基

手紙の最後の方で、郡場央基氏が『日本昆虫記』について触れているが、氏は『日本昆虫記』の三巻で「クサアリモドキの家族寄生」を執筆されており、その訂正についてだ。実は、私が氏と連絡を取ったのも、この文章を読んでのことだった。

『日本昆虫記 Ⅲ』

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