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帰路の環境を変えると

庭には幾本も果樹を植えています。冬に果樹の根元の周りに寒肥を撒いておきましたが、そのため果樹の根元の周りの芝が勢いよく繁っていました。そこで、その芝を刈っていました。モモの木の根元の周りを刈っている時、そのモモの木にかなりの数のクロオオアリが来ていました。このクロオオアリは、A巣のアリであることは、以前確かめていました。
そこで、ある実験をしてみようと思いました。帰路の環境を変えてみるのです。そのような場合、クロオオアリは迷わずに帰路につけるのでしょうか。

隣に植えているモモの木 今回実験に使うモモの木も芝を刈る前はこんな様子だった
一部芝を刈ったところ 芝を刈るとこんな風に帰路の環境が変わる
実験に使うモモの木 根元の周囲の芝を刈ったあと
フィールド写真:実験のフィールド 右奥手に実験に使うモモの木がある モモの木から斜面を下ると敷石がある B巣は写真には写っていないが、左手前下にある

初めにモモの木の葉などに蜜を垂らしました。

蜜を吸うクロオオアリ 10時10分27秒撮影

やがて1匹目が帰り始めました。果たして迷わずに巣へと帰れるのでしょうか。

迷う様子もなく斜面を下っていく 10時31分25秒撮影

迷う様子もなく斜面を下っていきました。2匹目も、3匹目も、4匹目も同様に迷う様子はありませんでした。

2匹目 10時31分49秒撮影
3匹目 10時32分56秒撮影
4匹目 10時38分06秒撮影

10匹目まで観察しましたが、その全てのクロオオアリが、帰路を迷う様子もなく巣のある方へと進んでいきました。
では、その10匹が全て同じ道を辿って帰っていったかというと、そうではありませんでした。
帰路の途中に敷石があるので、その敷石を目印として観察してみました。本ブログの上から4番目の写真「フィールド写真」に写っている一番手前の敷石をA、次の奥手の敷石をB、更に次の奥手の敷石をCとすると大体の帰路の経路を次のように分けることができました。

A:3番目と7番目のクロオオアリ
B:4・6・8・10番目のクロオオアリ
C:5・9番目のクロオオアリ

敷石Aの場合 写真は7番目に帰路についたクロオオアリ
敷石Bの場合 写真は4番目に帰路についたクロオオアリ
敷石Cの場合 写真は5番目に帰路についたクロオオアリ

以上の観察から次のことが言えそうです。
① クロオオアリの場合、いつもの餌場からの帰路では、帰路の環境が変わっても巣のある方へと迷うことなく帰ることができる。
②クロオオアリの場合、いつもの餌場からの帰路では、その辿る道筋は個体によって違っている。

「誘拐」されたクロオオアリは巣に戻れるか(2)

「「誘拐」されたクロオオアリは巣に戻れるか(1)」では、クロオオアリの生活圏から離れた場所へとクロオオアリを移動させましたが、今度は、生活圏内と思われる近くで放ちます。今回も、前回と同じコロニーのクロオオアリを巣口で捕らえ、蜜器へと誘い、クロオオアリがいるその蜜器を巣口から1.2m離れた場所に設置します。このクロオオアリをAW2と名付けます。

巣口は左上方の芝を刈った後のくぼんで見える場所 実験を開始した 10時1分撮影
7分後に巣へと帰り始めた 10時8分撮影

AW2は最初から迷う風でもなく、巣口がある上方へと歩いていきました。そして、3分後には巣穴へと入っていきました。
この場合、AW2は「誘拐」されたのですから、巣口から蜜器までの道には、道しるべはありませんでした。にも関わらず、ほぼ迷うこともなく、巣へと帰って行けたのです。

巣へと帰ってきた 10時11分撮影

ところが僅かにその2分後の10時13分、1匹のクロオオアリが巣から出てきて、少し西下方向へ歩いた後、蜜器のある下方へと下っていきました。

蜜器に近づいてきた 10時15分撮影

そして、測量杭を登り、蜜を吸い始めました。

蜜器に到達した 10時16分撮影

このアリがAW2だとすると、巣に戻ってから僅かに2分間で、腹部に溜めていた蜜を仲間に渡したことになります。それは、とても考えられないことです。
このアリは10時20分になると帰り始め、僅か1分後には巣の中に入っていきました。
それから3分後の10時24分に、巣口から何匹かが出てきました。

先頭のアリは短い間隔で腹部を地面に着けながら進んでいく その後を何匹かのアリが付いて行く 10時24分撮影 

これは、仲間を餌場へと連れて行く行動です。先頭のアリは、腹部をリズミカルに時々曲げて、地面等に道しるべを付けています。

10時26分撮影

そして、巣口を出発して3分後に、測量杭の麓まで到達しました。

10時27分撮影

先程、蜜器にやってきた1匹のクロオオアリについて、「それは、とても考えられないことです」と書きましたが、この仲間連れで出てきたアリを見て、何だか謎が解けたように思えました。というのは、先程の1匹のアリは、最初に「誘拐」したアリとは別のアリで、そのアリが往復するところを観察していたと考えるのです。すると、別のアリが自力で蜜を見つけたことになり、そのことから蜜器を置いていた場所が、A巣の生活圏内であったと言えることになります。
そこで、今回の実験は、 当初の想定通り、クロオオアリを生活圏内に移動した場合の行動記録と言えそうです。

そうだとすると、仲間を連れて蜜器へと案内したのは、AW2であった可能性が出てきます。AW2が巣に戻ったのは10時11分でした。そして、複数のアリが同時に出てきたのは10時24分でした。その間は13分間です。ところで、昨日の観察では、蜜を持ち帰って次に巣から出てくるまでの時間は、12分、15分、13分でした。見事にほぼ一致しています。やはり、仲間を蜜器へと案内したのはAW2なのでしょう。

その後も、A巣のクロオオアリはこの蜜器と巣とを往復していましたが、帰路を迷ってしまうアリを2匹見かけました。比較的近い距離ですが、それでも帰路を大きく逸れていました。クロオオアリにも個体により、能力に個性があるのでしょう。

巣口はU字溝の下方にあるが、2匹のクロオオアリは、踏み石になっているコンクリートブロックの右側深くに迷い込んでいた

「誘拐」されたクロオオアリは巣に戻れるか(1)のその後

「誘拐」されたAW1が巣に戻れたのは10時37分でした。それから12分後の10時49分に、AW1と思われるクロオオアリが巣穴から出てきました。これが往路としては1回目と数えます。

写真左にクロオオアリの姿が見える 10時49分撮影

後を追ってみましょう。

10時50分撮影

迷うことなく西へと進みます。やはりこのアリは、AW1のようです。仲間を引き連れることなく、道しるべ(腹部の先をリズミカルに地面に付けながら歩く)は付けていません。

10時50分撮影

芝生の中を歩いていきます。コンクリートの部分はU字溝ですが、蜜器を設置している測量杭は、このU字溝のすぐ脇の芝生の中にあります。より早く蜜のある場所へ行くには、U字溝の上を歩くのがよいのですが、測量杭に突き当たるにはこのように歩くのが無難です。
ところで、AW1が蜜を吸って巣に戻る際に歩いた道筋と、今の蜜器へと向かう際の道筋を比べてみましょう。

AW1が蜜を吸って巣に戻る際に歩いた道筋 10時34分撮影

すると、上の2つの写真は、横方向で見ればほぼ同じ位置なのですが、縦方向で見ればかなり離れています。つまり、蜜のある場所からの帰りの道と、蜜のある場所へ行く道は、全く異なっていることが分かります。AW1は、蜜のある場所からの帰りの道筋を覚えていて、あるいは何らかの道しるべを付けていて、巣に戻ったわけではないことが分かります。AW1は、巣から蜜のある場所へ行く最短距離、つまり方位が分かっていると考えられます。

再びU字溝の上を歩く 10時51分撮影
U字溝に接している杭に登る 10時51分撮影

U字溝に接している丸杭に登り始めました。すぐに引っ返しましたが、蜜器のある測量杭と間違えたのでしょうか。ではなぜこのような間違いを起こすのでしょうか。これは一つの仮説ですが、巣からの蜜がある場所への方位は分かっていても、距離が分からなかったと考えることもできるでしょう。

再び芝生の中を歩く 測量杭まではもう少し 10時52分撮影
ついに蜜器に到着 10時53分撮影

巣を出てから4分で蜜器に到達しました。では、引き続き観察を続けましょう。

帰路につく これが帰路としては2回目 10時58分撮影
巣に戻る 11時3分撮影
これが往路としては2回目 11時18分撮影
蜜器に着く 11時20分撮影
帰路につく これが帰路としては3回目 11時27分撮影
巣に戻る 11時30分撮影
これが往路としては3回目 11時43分撮影
やはり芝生の中を歩いている 11時45分撮影
蜜器に着く 11時46分撮影
帰路につく これが帰路としては4回目 11時56分撮影
巣に戻る 11時59分撮影

ここで往路と帰路にかかった時間を一覧にしてみましょう。

回数帰路往路
1回目26分4分
2回目5分2分
3回目3分3分
4回目3分

こうして見ると、生活圏を外れていたと思われる1回目の帰路を除くと、大変素早く蜜と巣との間を往復していたことが分かります。その歩く様子を観察すると、道しるべを付けてはいませんでした。それにもかかわらず、1回目の往路を除けば、歩く道筋はほぼ同じでした。ただ、全く同じではないのです。つまり、道しるべに導かれて定まった軌道の上を辿って歩いているのではなく、目的地に向かってほぼ最短距離で任意に歩いていたと言えます。

「誘拐」されたクロオオアリは巣に戻れるか(1)

直前のブログで、A巣の巣口を確認したことを書きましたが、この巣口にいるクロオオアリを捕らえて、別の場所で放すと巣に戻ることができるでしょうか。
下の写真は、この実験をするフィールドです。

実験の場所となるフィールド全景

この写真は斜面の上方(南向き)から撮影しています。左手が東で、左手上下中央にある木が清水白桃です。その左横にA巣の巣口があります。
初めに、フィルムケースを使って巣口から出てくるクロオオアリを捕らえます。巣口から出てくるクロオオアリには、既に分かっている蜜のある場所に行くものや、あてなく探索に行くものや、巣作りをしているものなどがいると考えられますが、蜜のある場所に行くものは避けたいと思いました。幸い最初に出てきたクロオオアリ(AW1)は巣作りをしているようでした。そのクロオオアリを捕らえて、蜜器へと移動させます。蜜を吸い始めると、蜜器に入ったまま測量杭に設置します。上写真の右中央をご覧下さい。蜜器は巣口から4.7m程離れた場所にあります。

実験が始まった 10時6分撮影

蜜を吸い初めて5分ほど経つと、AW1は帰路につきました。(これ以降の写真は先程のフィールドの全景とは逆の方向(北向き)から撮影しています。右が東側で巣口がある方向です)

蜜器のある測量杭から下りてきたところ 10時11分撮影

以後、この蜜器の周辺をあちこちと歩き回ります。

東方向へ 左上方に測量杭が見えている 10時13分撮影
北方向へ 10時16分撮影
北から西へ、そして測量杭の方向へ 10時18分撮影
斜面を下って南方向へ 10時23分撮影
先程より更に西へ 10時29分撮影
蜜器近くに戻る 10時31分撮影
再び東へ 10時31分撮影

そして、このまま東へと進み、ついに帰巣しました。

帰巣した巣口のある場所 10時37分撮影

帰路についたのが10時11分でしたから、26分かけて巣に戻ってきたことになります。そのほとんどの時間が迷っていた時間で、最後の6分間は、ほぼまっすぐに巣へと向かいました。

ここで、クロオオアリの生活圏という言葉を使うとして、次のように整理しておきます。
① 日や期間や季節により生活圏は異なる。
② 個々のクロオオアリは、生活経験の違いがあり生活圏に違いがある。

AW1にとってこの時、放たれた場所は生活圏内ではなかったのでしょう。およそ20分もの間、蜜器を中心にその四方を探し回ります。探していたのは生活圏内の見覚えのある場所だと考えられます。その場所を見つけるとほぼまっすぐに巣へと帰ることができました。
ところで、戻った巣口が別の場所だったことにお気付きのことと思います。この巣口は、AW1を捕らえた巣口の西方向に1.6m程離れたところにあります。この2箇所の巣口は、どちらもA巣の巣口であることが分かります

写真左右にA巣の別々の巣口がある

AW1が戻った巣口は、蜜器から3.1m程離れた場所でした。