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一時的社会寄生の試みを開始 T240908-01

先日の9月8日に採集したトゲアリの新女王アリをクロオオアリのコロニーに寄生させることにしました。寄主のコロニーは、今年の5月18日に採集した新女王アリのコロニーBH240518-11です。

寄主になるBH240518-11

寄生させるトゲアリの女王アリをT240908-01と名付けます。

T240908-01はクリアカップに入れている

寄生の方法としては、クリアカップの蓋を外して逆さにし、BH240518-11のクリアケースの蓋の穴のシリコン栓を外して被せます。

寄生開始 9月13日9時43分撮影

間もなく、クロオオアリの働きアリが蓋の穴からクリアカップの中に入って行きましたが、両者の接触はなく、したがって化粧行為はありませんでした。そして化粧行為がないままに、トゲアリの女王アリはクリアケースの中に入って行きました。

クリアカップの中に入って行く2匹目のクロオオアリの働きアリ 9時45分4秒撮影
トゲアリの女王アリがクリアケースの中に入る穴を見つけたところ 9時45分38秒撮影

トゲアリの女王アリは何度もクロオオアリの女王アリと接触しました。多くの場合、クロオオアリの女王アリから攻撃されていて、逃げ回っているように見えました。クロオオアリの働きアリからも攻撃されていましたが、拘束される場面は極く僅かでした。その間も、トゲアリの女王アリは化粧行為をしようとはしませんでした。

9時47分16秒撮影
9時47分24秒撮影
9時47分33秒撮影
9時52分16秒撮影

ところが、唐突に思えたのですが、トゲアリの女王アリがクロオオアリの女王アリの頸に腹面から食い付きました。この体勢は、寄生成功への第一歩です。

9時54分撮影

しばらくすると、働きアリが女王アリの周りに集まり、クロオオアリの女王アリの躯体を舐めていました。

10時6分撮影

ところが20時頃見に行くと、トゲアリの女王アリは、クロオオアリの女王アリから離れていて、働きアリに取り囲まれて攻撃されていました。

20時0分撮影

それから2日後の9月15日、トゲアリの女王アリは死んでいました。

「たった1例のトゲアリの寄生」に卵と幼虫

昨年の9月22日のブログ「たった1例のトゲアリの寄生を試みる」で紹介しているトゲアリの女王アリ(S/N:T180919)が寄生したクロオオアリのコロニー(S/N:B15002)の5月5日以後の様子ですが、卵と孵化してまもない幼虫がいました。既に昨年の寄生時にクロオオアリの女王アリは殺されていますので、これらの卵と幼虫はトゲアリの幼生虫です。

左の大きな幼虫は昨年孵化したクロオオアリの幼虫と思われる 中央右の卵と孵化したばかりの幼虫はトゲアリの幼生虫 6月3日11時31分撮影
中央の卵塊がトゲアリの卵 6月3日11時33分撮影

たった1例のトゲアリの寄生のその後 3

これまで、トゲアリの女王アリに殺されたはずのクロオオアリの女王アリの姿を見かけませんでしたが、10月18日にそれらしき遺体を見つけました。飼育器であるリトルアンテシェルフの最下層のごみ捨て場で、2匹のクロオオアリの働きアリが、黒いものに触れていました。それを取り出して実体顕微鏡で見ると、確かにクロオオアリの女王アリの遺体でした。胸部のみになっていて、女王アリの証の翅を落とした跡が確認できました。

クロオオアリの女王アリの遺体 胸部のみが見つかった 翅を落とした痕跡が見られるので、確かに女王アリの胸部だ

飼育中のトゲアリの様子 2018年10月

昨年の6月16日7月2日のブログで、その時点で飼育していた13コロニーのトゲアリについて触れていますが、その後多くのコロニーが死滅し、今年の10月11日の時点では、3コロニーのみが生き残っています。コロニーを引越させはしましたが、多くのコロニーが死滅した確かな要因は分かっていません。

生き残っている3コロニーの様子
① S/N:T140906-40
最も良く繁栄しているコロニーです。トゲアリの女王アリを2014年9月6日に採集し、同年9月11日にクロオオアリの巣S/N: NESTCON01024(2012年6月14日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから4年1ヶ月程経過したことになります。

S/N:T140906-40

② S/N:T130921-09
順調に繁栄することが期待できるコロニーです。飼育器の水槽の中に置いたアクリルと木で作った巣箱の中にコロニーが入っています。この巣箱には、閉ざされた空間があり、側面の1つの穴からのみ出入りできるようになっています。トゲアリの女王アリを2013年9月21に採集し、同年10月3日にクロオオアリの巣S/N:NESTCON01030(2011年6月8日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから5年1ヶ月程経過したことになります。

S/N:T130921-09

③S/N:T140906-03
働きアリが少ないコロニーです。上述のアクリルと木で作った巣箱の中には入らず、その下に小さな空洞を作って暮らしています。トゲアリの女王アリを2014年9月6に採集し、同年9月10日にムネアカオオアリの巣S/N:NESTCON01027(2012年6月14日に新女王アリを採集)に侵入させました。したがって、寄生してから4年1ヶ月程経過したことになります。

T140906-03

たった1例のトゲアリの寄生のその後 2

9月22日に寄生を開始させたトゲアリのその後の様子です。
4日のブログと大きな変化はありませんが、2分間の動画にしてみました。

8時50分からの2分間動画

トゲアリの女王アリは、すっかりクロオオアリのコロニーの中に入り込んでいるようです。この動画を撮影した時は、トゲアリの女王アリはクロオオアリの塊の上にいて、それほど盛んにではありませんが、化粧をしていました。このクロオオアリの塊の下に殺されたクロオオアリの女王アリの死体がありそうです。

たった1例のトゲアリの寄生のその後 1

寄生から8日後の9月30日のトゲアリの寄生の様子です。
クロオオアリの女王アリは仰向けになっていて、トゲアリの女王アリは上からクロオオアリの女王アリの頸に咬みついています。この体勢は、寄生が成功しつつあることを表しています。

クロオオアリの女王アリは仰向けになり、トゲアリの女王アリは上から頸に咬みついている

寄生から12日後の10月4日の朝、まだ頸に咬みついているようでしたが、夕刻には、巣内を歩いていました。

まだ、頸に咬みついているようだ 10月4日7時54分撮影

巣内を歩いていた 10月4日16時50分撮影

この時期、トゲアリの女王アリが巣内を歩いていたということは、寄生に成功したと言うことです。クロオオアリの女王アリの姿は見られませんでしたが、おそらく殺されたと思われます。

このような場合、これまでの観察では、クロオオアリの女王アリの頸が咬み切られていることが多かったのですが、今回については確かめられませんでした。今朝まで、クロオオアリの女王アリとトゲアリの女王アリがいた近くには、クロオオアリの働きアリの塊がありましたが、これは、亡くなった女王アリを取り囲んでいるのでしょう。クロオオアリの女王アリの姿(死体)が見つからなかったのは、そのためなのでしょう。

今回は、たった1匹だけでトゲアリの寄生を試みたのですが、本日の様子から考えて寄生が成功しているとすれば、かなり希な例になります。これはとても意外なことです。

たった1例のトゲアリの寄生を試みる

9月19日にトゲアリの女王アリを41匹採集し、その内何匹かは事前にお声かけいただいていた方にお分けしましたが、それでも手元にまとまった数の女王アリが残りました。そこで、クロオオアリの1コロニーにだけトゲアリの女王アリを寄生させることにしました。
これまでの経験から、宿主側のコロニーの規模がある程度大きい方が良いように感じていましたので、2015年の5月15日に新女王アリを採集したクロオオアリのコロニーS/N:B15002を用いることにしました。
9月22日の13時半頃、B15002から働きアリを1匹取り出し、クリアカップの中でトゲアリの女王アリと一緒にしました。間もなく、トゲアリの女王アリがクロオオアリを捕らえ、化粧を始めました。

間もなくトゲアリがクロオオアリを捕らえ、化粧を始めた 13時39分撮影

13時51分から1分30秒間の動画

クロオオアリがトゲアリの女王アリの肢に咬みついていましたが、やがて放しました。その後、両方共に自身の体に化粧をしていました。クロオオアリの方は、腹部がいびつな形にへこんでいました。

14時3分から1分30秒間の動画

クロオオアリの方から攻撃する様子はなく、トゲアリにもてあそばれている感じでした。トゲアリは引き続き、化粧に余念がありませんでした。

トゲアリの女王アリと一緒にするクロオオアリの働きアリは、特に考えがあったわけではないのですが、この1匹だけにしました。
14時17分直前に、トゲアリの女王アリと一緒にしていたクロオオアリをフィルムケースに移し入れ、このフィルムケースを蓋をしていない状態で、B15002の本巣の上方のアクセス穴の上に被せました。間もなく、トゲアリの女王アリは、B15002の本巣の中へ入っていきました。

14時17分から1分30秒間の動画

左上方のアクセス穴から入っていきました。その直後に複数のクロオオアリの働きアリに捕まってしまいました。やがて放たれますが、人工巣リトルアンテシェルフの上段で再び捕らえられました。

14時25分から1分30秒間の動画

その7分から8分後も、リトルアンテシェルフの上段で捕らえられたままでしたが、化粧を盛んに行っていました。

14時50分から1分30秒間の動画

それから24分から25分後、トゲアリは、自身の肢に咬みついて離れない1匹のクロオオアリを使って化粧をしていました。他のクロオオアリからは、攻撃はされていませんでした。

14時55分から1分42秒間の動画

その3分から4分後、リトルアンテシェルフの最上段に留まっていたトゲアリは、それまで咬みついていたクロオオアリから自由になり、上から4段目(下から3段目)に移動しました。最早、トゲアリを攻撃する者はいません。トゲアリはクロオオアリの塊の中でさえ自由に行き来できるようになっていました。やがて最下段の段へと移動しました。

14時59分から10分30秒間の動画

14時59分からは、トゲアリの女王アリの動きが活発になりました。最下段から2段目に移り、更に3段目へと移動しました。動きに余裕が見られ、化粧ではなく、身繕いもしていました。クロオオアリとの間に争いはなく、クロオオアリの集団がトゲアリを受け入れたかに見えました。更に、下から4段目へと上がっていきました。クロオオアリの塊の中へも入り込みました。クロオオアリの女王アリを探しているように見えました。やがて5段目(上から2段目)に入っていきました。実は、この段にクロオオアリの女王アリがいるのです。この段では、トゲアリの女王アリは、複数のクロオオアリの働きアリに、制止されました。不審がられているようです。1分10秒ほどたった時、複数のクロオオアリの制止を振り切って、クロオオアリの女王アリがいる塊へと進み、女王アリ同士の戦いが始まりました。戦いはトゲアリに有利に進み、背乗りから腹抱えへと体勢が変わっていきました。両者まぎれて一つ下の上から3段目に移動し、長い時間このままで膠着状態になりました。

寄生は順調に進んでいるように見えます。ただ寄生の成否は、何日も後にならなければ分からないものです。今後の経緯を見ることにします。